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蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
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第二十二話 二人の魔族

地に倒れ伏したアルフさんの魔力を直ぐに確認。その息がまだあることに、安堵の息が漏れた。気合いを入れ直し、魔族の方を向く。


「おい、そこの魔族二人。アルフさんから離れやがれ」


「別に、今はこの男をどうこうするつもりはない」


そう言って、背の高い魔族がアルフさんから離れる。背の低い、俺たちと同じような年に見える魔族はアルフさんの方を、寂しげな顔で見つめながら離れた。それだけで一目瞭然だった。


「なあ、そっちの背の低い方。お前名前はなんて言うんだ?」


「僕は……、スーゼン。魔族のスーゼンです」


「ん、俺は英雄なんてやってる八坂つばさ。ところでさ、スーゼン。お前アルフさんから生まれたんじゃないのか?」


何気無さそうに言ったその言葉に、魔族二人が驚愕の表情でこちらを見る。その様子を見てしてやったりと笑ってやった。


「あんまり時間が無いが、少し話そうじゃないか?」










俺は唖然とする魔族を置いてアルフさんに近づく。アルフさんの身体には小さな傷が多く付いていたが、命に関わるようなものはない。強いて言えば失血が多いのと、魔力がかなり枯渇気味なくらいだ。

容体を確かめてからその頭にそっと触れる。そして、魔力を操作する。剣翼から魔力が溢れ出し、余すところなくアルフさんの身体へと注がれていった。そして魔力がアルフさんの存在に干渉する。

アルフさんの身体が一瞬輝き、その身にあった傷を全て元通り(・・・)にした。治癒魔法で起こるエネルギーの消耗などもない。血液も正常な量が流れ、身体自体は健康そのものである。まあ、流石に魔力を回復させることは出来ないので、魔力枯渇からは脱していないが。


「おーい、大事な話するから起きてくれないかー?」


「む……うぅ…………」


声をかけながら身体を揺すると、呻き声を出してアルフさんが目を覚ます。

アルフさんは目をパチクリさせると気怠そうに立ち上がった。そして周囲を見渡して状況を理解したのか、俺の方に向き直った。


「英雄殿、か……。本当に生きていたとはな。戦況は、どうなった?」


「一応、こっちの勝利だ。身体は?」


アルフさんは自分の身体をマジマジと見つめる。そして顔を上げ、今度は勇気の方をチラリと見た。


「すべての傷が消えているようだ。体力も減っていない……。やはり英雄殿は勇者殿の友だったということか」


しみじみと呟くアルフさんにツッコミを入れたいところではあったが、ぐっと我慢する。


「よし。なら少しそこで話を聞いててくれ。ただし口を挟むのは禁止。意見もなし。いいか?」


「……ああ、いいだろう」


頷いてくれたアルフさんから魔族の方へと視線を戻す。二人は興味深そうに、そして若干の警戒をこめていうこちらを見つめていた。まあ当然だろう。

この世界の人間でこの情報を持つものは殆どいないのだろうから。


「そんな警戒すんなって。ただ話がしたいだけだ」


「……一体どこでそれを知った?」


「大精霊にあった時に聞いたんだ。驚いたよ、まさか魔法を使えば使うほどお前らが生まれてくるなんてな」


二人の纏う空気がより張り詰めたものへと変わった。アルフさんが身構えるが、勇輝が手で止めた。コイツは面白そうな顔をしている。

相変わらずだな、と内心でため息を吐きつつ言葉を続ける。


「スーゼン、お前はアルフさんの魔法から生まれた。間違いないな?」


「……はい。僕は父さんの騎士団を生み出す魔法から生まれました」


「やっぱりそうか。なら、しばらくここに留まる気はないか?」


「はっ!?」


スーゼンと目つきの鋭い魔族が再び驚愕の表情を浮かべる。


「俺は一応、お前らの目的に検討が付いてる。だから言わせてもらうが、今ここでこれ以上戦ってもお前らに実入りはないだろう?」


「それは……」


その態度は俺の推測が正しいのを示していた。ならば余計、こいつらがここで戦う理由は減る。その気になれば俺がいつでも止められるからだ。


「その見た目は俺が全てなんとかしよう。暫くは連絡員としてでもここに逗留するといい。それに、いつここを離れてもいい。

その代わり、仕事を一つ頼みたいんだ」


「仕事、ですか?」


興味が湧いたのか、スーゼンがこちらを見つめてくる。先を促そうとするスーゼンに噛み付いたのは、目つきの鋭い方の魔族だった。


「スーゼンッ!!罠の可能性が高い!今行く必要はないだろう!!」


「でも……っ!ロレンツにだって分かるだろう?本能が、本能があの人の所に帰れって叫ぶんだ……」


「分かっている!魔族が生みの親に会える事は少ない。だからお前を行かせてやりたい気持ちもある。だがーーー」


「あー、ロレンツっていうのか?まずは仕事の内容を聞いてからにしてくれないか?」


俺の言葉に、言い争っていた二人が口をつぐむ。


「ぶっちゃけ、ロレンツの方にも仕事を頼みたい」


「なに?」


「今から半年後、俺は魔族領域へと向かう。その時までの魔王への繋ぎを頼みたい」


この一言に、その場にいた全員が硬直した。誰もがおどろきを顔に出した。あの勇輝でさえもだ。

アルフさんは流石に黙っていられなかったのか、腰から剣を引き抜く。


「英雄殿、それは人類を裏切るということか?」


「あのさあ、人の話は最後まで聞けよ」


言下、腰の柄を抜いて一閃。瞬間的に伸びた刀身がアルフさんの剣の柄から先を切り落とす。そして切れた剣が地に落ちる前に、俺の腰には光剣の柄が戻っていた。まあ、似非居合切りといったところか。


「口出しは禁止したはずだぜ、アルフさん?この国にとっても大事な話だから、あんたに話を聞かせてるんだ。そもそもその気なら、あんたを回復させたりしねぇっての」


「……むぅ」


反論できなかったのか、アルフさんは口を数度開けたり閉めたりすると、最終的に黙り込んでしまった。


「よし、話を戻すぞ?

俺は半年後に魔族領域へ行く。もっと言えば魔王に会いに行く。それはきっとお前達が望むことでもあるんだろ?」


「……ああ。魔王様から貴様達を御許へと連れて行くのが今回の任務だ」


「やっぱな。お前らとしては、わざわざこの国に的を絞り続ける必要はないはずだ。それに、この戦争の間に生まれた魔族の世話もあるんじゃないか?」


俺の問いにスーゼンが頷く。


「そこでこうしよう。俺が魔族領域に行くことを条件に、お前らはそれまでこの国に対する侵略行為を中止してくれないか?

他の国は……、まあ知らね。何かしてやる義理もないし、攻めるなり滅ぼすなり好きにしてくれ」


「あの、僕の仕事というのは?」


「ああ、俺が魔族領域に行くための案内と、約束を守ってもらうための人質だ。

これだけじゃこちらが有利なように見えるが、そちらにも利点はある。お前らが俺や勇輝にパイプを持てること。監視の役割も出来るだろう。

ついでに、お前らが約束を守る代わりに一度、魔族が産まれるだけの魔法を使おうじゃないか」


ロレンツは考え込むように顔を伏せた後、どこか悔しそうに聞いてくる。


「……悪くはない話だが、事が大きすぎる。一度、魔王様に上申せねばなるまい。その時間は貰えるのだろうな?」


「勿論だ。存分に協議してくれ。その代わり、それが反故にされた場合、容赦はしない。今の俺で魔王を倒せるかは知らないが、お前らの同胞を悉く屠ってやる。そう魔王に伝えてくれ」


「……分かった。伝えておこう。スーゼン、今日のところは帰るぞ」


ロレンツにスーゼンが頷き、その横に着く。


「此度は引こう。次がどのような形であれ、また会うことになるだろうな」


「おう、またな。魔王によろしく言っといてくれ」


ロレンツは糸つ頷いて何事かを呟き、足元に魔法陣が広がったと思うと、その場から消え失せた。文字通り、消えて無くなった。更に言えば、後ろに控えていた魔族の仲間と共に。

恐らくは瞬間移動、いや転移魔法か?面白いことしてくれるじゃないか。あれで本領なわけではないだろうが、一度戦ってみたいもんだ。


「さて、と。二人には悪いが後のことは頼むぜ」


振り向いてそう言うと、勇輝はニヤリと笑い、アルフさんは怪訝そうな顔をした。いつものこと(・・・・・・)だから、勇輝には分かっているのだ。


「アルフさん、リベンジですよ。つばさは僕と違って普通に負けることがあるから。負けたその都度、実力を付けてリベンジするんです」


「そーゆーこと。今回はこっぴどくやられたからな……。熨斗つけて返してやらなきゃな」


そう言って不敵に笑ってやると、今度は二人とも笑った。

フワリ、と宙に浮かび上がる。そのまま段々と高度を上げると、魔法を使ってに声を張り上げた。


『この戦場!俺たちの勝利だ!!魔族を、押し留めるのではなく退かせた、人類初の勝利だ!!噛み締めやがれ、野郎ども。


これが、お前らの見たがってた、希望ってヤツだ!!!!!』






ーーーー





ーーーーーーーーッ!!!






俺の言葉に驚いた一拍。そして、その意味を噛みしめるまでの一拍。

二拍の間を空け、空へと絶叫が吸い込まれてゆく。誰もが、空を見上げていた。誰一人として、下を見ていなかった。ただ、明日を夢見ていた。その勝利宣告は、正しく皆の心に希望を与えたのだ。


『降伏派、これでもまだ信じられないか?俺たちは勝ったぞ?お前達は、まだ下を向くのか……?

違うだろ?いい加減、俯くのも飽きたよな。そこで立ち止まるのにも疲れただろう?


歩き出そうぜ、俺たちの道を。


道先は俺が示そう。地ならしも、道を踏み固めるのも俺がしよう。だけど歩くのは他でもない、お前らだ。お前らは、どうしたい?』











天から響く英雄の声に、降伏派の騎士達は各々の武器を取り落とし、その場に崩れ落ちた。ここにいるのは、オーリンズの騎士である。より良い道が示された今、彼らはその背に負った荷物を放すことが出来た。

その日その時、どうしようもなかったはずの戦争は、人類側の歴史的な勝利で終了した。

そしてこれから始まるのは、



ーーー歴史にも残らない、ちっぽけな雪辱戦(リベンジ)である。

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