第一話 異世界召喚されました
二話目です。
「おい、勇輝さんや。これはどう言うこった?」
「つばさ、君にも目星は付いてるんだろう?」
いや、そうだけどさ。信じたくないじゃん。異世界召喚とか。
ーーー数分前。
いつも通り授業が終わり、クラスの皆が帰る支度をはじめた瞬間のことだった。勇輝を中心にクラス全体が光に包まれ、気が付いたらここで座り込んでいたのだ。
辺りを見回して人数を確かめると、クラスメイト合計32人と担任の智子ちゃん1人。あの場にいた全員だ。
そして俺らを取り囲む騎士らしき人達と、明らかにキラキラしてて、左右を騎士に守られている王女っぽい人。こんだけそろってれば、サブカルチャーを少しでも触ったことのあるやつならこの状況を理解できる。間違いなく勇者召喚とか異世界召喚とか呼ばれるシチュだと。
「ようこそお越しくださいました、勇者様と英雄様、そしてそのお仲間がた」
アウトおおおおっ!!思わず心の中で絶叫してしまった。もう言い逃れできないじゃねえか!
勇者と聞いてクラスの全員が勇輝の方を見ている。はは、言い様だ。まーた面倒なことに巻き込みやがって。
「えっと、あの、勇者とか一体どう言う事情ですか?」
「はい。私達人類は今、魔族との戦争の真っ只中にあります。これ迄はどうにか拮抗した状態を保てていたのですが、魔王と呼ばれる魔族が現れてからと言うもの、常に劣勢に立たされて来ました。そこで我々は古より伝わる儀式に縋ることにしたのです」
王女っぽい娘が勇輝の質問に答えていく。
「そしてその儀式で呼ばれたのが僕達ってことか。それで、これだけの人数がいる中で勇者の見分けってどう付けるんですか?」
チラリと俺を見る勇輝。その目はお前が勇者だろ?という言葉で溢れていた。バカかこいつは。周り見てみろよ。お前以外の誰がいるってんだ。
「勇者様は召喚されて数分で大気の魔力を取り込んで髪が白くそまり、瞳が赤くなると伝えられております」
王女様の言葉に吊られて勇気の髪を見ると、髪の根元の方が白っぽくなってきており、瞳も茶色から徐々に赤くなって来ていた。
「勇者様、がんばれ」
爆笑したいのを我慢しながら勇輝の肩に手を置く。勇輝は悔しげな顔をして、すぐに何かに気が付いたように俺の顔を覗き込んだ。
「ねえ、つばさ。目、蒼くなってるよ?髪の毛も茶髪から黒になってるし」
「は?」
俺の思考が停止した瞬間、王女っぽい娘の声が耳に届いた。
「白の勇者様の対となる存在である黒の英雄様は濡れ羽のような黒髪と、空のような蒼い瞳を持つと言われております」
……。
「がんばれ、英雄様」
俺たちは一度状況を整理したいと言って、大きな会議室っぽい部屋と黒板もどきを貸してもらった。騎士さんや王女さま(本物だった)には退室してもらった。
皆適当に椅子に座って俺と勇輝を見る。俺らはそっと目を逸らすしかない。
「おいおい勇輝!いつも巻き込まれて来た俺らだけど異世界はやりすぎだろ!」
「そうだぞ!帰り道があるからいいものの!」
などと言いつつその顔がわらっている男子共に視線をくれてやる。このクラスの面子は皆大きな事件に巻き込まれたことがあり、普通の高校生とはとても言えない。基本的に勇輝の起こす騒動に巻き込まれても、必ずハッピーエンドになるのが分かっているためこのようにノリが軽いのだ。
「お前ら、あんまり聞いたことを鵜呑みにしない方がいいぞ」
へ?と惚けた顔をする皆にため息を尽きながら、俺は説明を開始した。
「いいか、まず第一にだ。俺と勇輝は英雄だか勇者だかになって、かなりいい待遇が貰えてるがお前らはどうなるかわからないこと。もしかしたら俺らだけを切り離して、お前らが皆殺しにされる可能性もある」
その言葉に皆が嫌な顔をした。そして俺は次々に自分の考えを話していく。
・与えられる情報の正確性の欠如。
これは召喚者に都合のいいことだけ吹き込まれる可能性があると言うだけではない。携帯やパソコンなどで情報を手に入れられた世界では無いのだ。聞いた情報が正しいのかは自分で検証するまでわからない。
・帰り道が本当にあるかどうか。
先ほど王女たちは1年後になら送り返すための儀式が行えるといっていた。しかし、こちらの世界に呼び出す分には王女たちに結果が観測できる。しかし、送り返すのは観測出来ないのだ。もしかすると其の古文書が間違っているかもしれない。最悪、さらに別の世界へとたらい回しにされるかもしれない。
・本当に帰してくれるか。
人類にとって俺らは大事な戦力になるらしい。つまり、戦況によっては帰してくれない可能性がある。
・人類と魔族、どちらが俺らにとっていい存在なのかわからないこと。
勇者と言う存在は魔族にとって邪魔になるはずだ。だからこそ召喚された訳だし、最悪の場合人類に使い潰されるかもしれない。戦力になる奴だけ保護されて、使えない男は奴隷にされて、女子が慰み者にされるかもしれない。もしそうなら魔王側について人類を倒した方がよっぽど安全だ。被害にあって人類を憎んでいると言い、実際に人類を攻撃すれば助けてくれるかもしれない。勿論監視はされるだろうが。
などと可能性を羅列するときりがないがこんな所だろう。
「奴隷が普通にある世界だったら、プレミア着く異世界人の女子とか貴族のいい的だろうしな」
そう言うと女子がガタガタと震え出した。男子もここまで言われて真剣に考え出したのか黙り込んでしまった。
「だ、大丈夫だよ皆!僕とつばさで皆を守って見せるよ!」
「根拠のない言葉を非常時に吐くなって何回言ったら……」
クラスのみんな、ついでに先生が勇輝のことをキラキラした目で見ている。
「とりあえず、だ。俺たちの最重要課題は情報を確保すること。こちらの世界の住人を常に警戒すること。極力一人にならないことだ。
さらに言えば各自が間違いなく自衛できるだけの力を手に入れること。これが出来なきゃ奴隷にされるか最悪死ぬ可能性もある。各自気を付けてくれよ。
あと、言っておくけどここでの会話も多分盗聴されてるから気を付けろよ。人類が善悪どちらかは分からんが、どっちにしろ向こうもこっちの情報が欲しいんだ。間違いないと思う」
俺がそう締め、部屋の外に出て王女に終わったことを告げる。すると王女は苦笑いをして頷いた。やっぱり話を聞いていたのだろう。今ので確信がもてたな。
「では、皆様を部屋へと案内させていただきます」
「あれ、王様の所にはいかないんですか?」
勇輝がそう聞くと、王女は苦笑いを深めた。
「父は三日前に魔王に挑んで殺されました。人類最強の戦士だった父がです。もはや私達にも後がなかったのですよ」
「成る程な。あんたが俺たちを呼んだのは、勇者や英雄の威光を自分のものとして実権を握るためか。しかも俺達が実績を作るごとにあんたの権力も増すと。一石二鳥のいい策だな」
図星を突かれたのか、渋い顔をする王女様に笑いながら、思索を進ませる。
王が死んだことが本当なら、俺の考えどおりだろう。そして必然的に、皆の安全は保証されてくる。王女側にとっては大事な権力の元だからな。
さてさて、今回はかなり規模がでかいな。まあやることは変わらない。勇輝が皆を引っ張り、俺が道を作る。ある意味勇者と英雄は当てはまってるかもしれない。
勇者、勇気ある者。在り方で魅せる者。
英雄、力と知を映えとして、名を知らしめるもの。
英雄なんて柄じゃないが、まあ友達守るためなら一肌ぬごうじゃないか。