表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
19/26

第十八話 オーリンズの騎士(※アルフ視点)

私は、今現在目の前に広がる光景を睨みつけていた。

会議室では上座に王女殿下、勇者殿がすわり、そしてそれを貴族連中が取り囲むようにして席についていた。


「大体、異世界召喚など小細工をするからこんなことになるのだ!!役に立たぬ女子供など、そもそも無用だったのだ!!」


顔を赤らめてそう叫んだのは、常日頃から勇者殿に媚を売っていた伯爵だった。金を持ってきたり、娘を嫁にしようとしたり、さんざん媚を売ってきたくせにいざとなると手のひらを返す。あまりの醜さに吐き気を催すほどだ。何時からだ?何時から私の愛したこの国はここまで腐ってしまったのだ?

私の心中の疑問など感じているはずもなく、腐った貴族達は怒声をあげ続けた。


「ボナル伯爵の言う通りだ!魔族を刺激するような事をするからこのようなことに!!」


「降伏派の連中の言うことが正しいのではないか!?」


そんな声を上げる貴族達を睨んでいるもの達も多くいた。しかし、彼らも内心で不安を抱えているのだろう。なにせ相手はこの国の貴族のおおよそ三分の一。さらに魔族まで迫ってきているのだ。この国を支えてきた陛下は崩御され、アドルフとは袂を別った。この絶望的な状況で最早戦う意味があるのかと。

その気持ちは私とてよく分かる。魔族と最も多く戦ってきたのは他ならぬ私なのだ。その恐ろしさも、戦友だった男の強さもよく知っている。

しかし、我々には希望がある。彼等はそれを知らないのだ。あの白金の輝きを、その強大さを。我々は紛れもなく最高の手札を手に入れたのだと。私はそれをつい先ほど見せ付けられた。いや、魅せられた。100人近い騎士をたった数秒で叩き伏せたその強さに。


「結局、この国は戦うのか戦わないのか、どっちなんですか?」


「今はそんなことを話しているのではない!!見掛け倒しの勇者は黙っていろ!!」


「は?意味がわからないのですが?この会議の主題はそもそも魔族及び降伏派に対してどのような対策を取るのかだったはずですけど?その程度も理解していないならさっさとこの部屋から出て行ってもらえませんか?」


その丁寧ながらも命令するかのような言葉に、会議室の空気が凍った。その中で唯一平然としている勇者殿は、続けて言う。


「そもそもですよ?貴方達、僕等のことをいきなり拉致しておいて、協力しろとか意味不明なこと言ってるの理解してます?

はっきり言って、僕等が魔族と戦う必要なんてどこにでもないんですよ。と言うか、魔族側に付いたほうが元の世界に戻れる可能性は高いんだから、裏切ったほうが得なんですよね」


「わ、我々を裏切ると言うのか!?」


「誰がそんなこと言いましたか?人の言うことは最後まで聞いてください。

今でも僕等がここにいるのは、ここに召喚の魔法陣があること。そして、つばさがここにいる仲間を守れって言ったからに過ぎないんです。

僕個人としては、この街に守りたいと思えるだけの関わりを持った人はいません。でも、つばさがここを守れって言ったからには、


ーーー守り通します。


だから貴方達は好きなところにいればいい。別に貴方達の兵力は当てにしていませんから。ただ、手伝ってもらえるのなら、歓迎させてもらいます」


最後だけにこりと笑い、勇者殿は席を立った。それを見た王女殿下も慌てて立ち上がり、その後を追う。が、なにか躊躇うかのようにしてその足を止めた。そして、顔はこちらに向けず、その口だけを開いた。


「私は、貴方がたが彼の伝説の英雄にも勝るとも劣らない(つわもの)であったことを、誰よりも知っています。これまで、この国に……いえ、こんな私を支えてくれてありがとうございました。

この戦いがどう転んでも、貴方達が助かるよう最大の努力をすることを約束しますわ」


それだけを言い残し、殿下は部屋を出て行った。

残された貴族達は皆、どこか泣きそうな顔をしていた。その表情に、ようやく私は彼らがなぜ怒っていたのかを理解した。彼らは、裏切られたように感じていたのだろう。

先王が崩御された時、私達は殿下を支えなければと必死だった。私達の多くは殿下を子供の頃から知っおり、皆彼女を愛していた。故にこそ、殿下が勇者召喚に頼ったことが屈辱だったのだろう。

この国を守り続け、国の剣に、盾になってきた自負が、彼らにはあった。何故、我らを頼ってくれないのか。何故、一言その胸の内を語ってくれなかったのか。そんな思いが彼らの枷になっていたのだ。私も、最初はそう思った。

しかし、あの少年達と過ごす間にそんな気持ちは無くなっていった。だが彼らはそうではない。その枷を外されることなく引きずってきてしまっていたのだ。


だがーーーその枷はたった今消え去った。


私は立ち上がって腰の長剣を抜き、胸の前に立てた。貴族達はそれを見て、各々決意を込めた顔で獲物を抜く。その場の全ての人間が立ち上がり、会議室に並々ならぬ気迫が満ちる。

そして私は吠えるように、高らかに、彼らに問いかける。



「我らが剣は何が為?」



『我らが我らで在るが為!!』



「我らが騎士道は何が為?」



『我らが主、その王道を共に征くが為!!』



「我らは何也や?」



『我らは王の(つるぎ)、国の盾なり!!』



ーーーーーならば!!



『我ら王道を阻むもの全ての排除せん!我らが我らで在るために!!』



全員の意思は統一され、私達は会議室の外へと雪崩出る。我らが王の元へと奔る。そして彼女の、王女殿下のその足元に跪いた。


「我らオーリンズ騎士国の剣。アルテナ・ウィグ・オーリンズ姫殿下、貴女様の王道を共に征くため、遅れ馳せながら参上(つかまつ)りました」


「かおを、あげてください……」


殿下の言葉で顔を上げると同時、激しく動揺してしまう。あの殿下が、泣いておられたのだ。殿下は花の蕾がほころんだように笑顔を浮かべ、


「ありがとう」


とただ、そう言ってくださった。










あの後、騎士団はすぐさま行動を開始していた。僅か1日で各々の支度を済ませ、王城へと集結したのだ。更に各領地に戻った貴族達もそれぞれ軍を引き連れて王都へと向かっている。あと2日から3日のうちにこちらへ到着する見込みだ。

斥候の報告によると、魔族の軍は東南東から王都へと向かい進軍中。進軍速度から王都への襲撃は今から5日後だと思われる。降伏派もそれに合わせているのか、未だ進軍開始の報せはないものの、ガーヴィ侯爵領に各地から領主軍が集結し始めているようだ。


「問題は、どこで迎え撃つか。そして降伏派と魔族の軍に対する戦力分散の比率、……か」


「降伏派の旗頭であるガーヴィ侯爵の領地は王都から西方にありますからね。団長は魔族を抑えるにしても、勇者様、そしてゴルト様をどのように配置するかですね……」


私の漏らした言葉に副官のミハイルが反応する。頭の切れるこいつのことだ。私がどのような配置に着かせるか大凡の検討はついているのだろう。


「お前は、勇者殿が戦っているところを見たか?」


「ふへ?僕は勇者様たちの訓練には参加していませんでしたから、見ていませんね」


唐突な話題の変化に可笑しな音を出した副官に自分の見解を告げる。


「今日、昼の戦闘を見てはっきりと分かった。あの少年は、此方の理解を超越した存在だ」


「……と、言いますと?」


「お前は剣の一振りで兵士100人近くを昏倒させられるか?」


「むむむ、無理ですよ!魔法込みにしても10人切れればいいところです!!」


まさに正論なその言葉に頷く。


「そうだな。10人切れれば一流の剣士といっても過言ではない。だが、彼は明らかに(・・・・)手加減をした(・・・・・)一撃で、100人を昏倒させたのだ。

まだ剣をにぎって一ヶ月の少年が、だ。天才だとか、そんな言葉は到底言い表せない。あれは最早化け物といっても何の問題もない強さだった」


私の言葉にあんぐりと口を開け、驚愕をありありと表現している副官に思わず笑ってしまう。そして、自嘲を含ませて呟いた。


「不覚にも、憧れてしまった。あの強さがあれば、とな。この身に余る願いだとは思うが、そう願わずにはいられなかった」


「伝説の存在とは、そこまでの物なのですが……」


「どうだろうな?少なくとも英雄殿は強くはあったが、勇者殿のような理解出来ない強さでは無かった。彼の強さは努力の上に成り立った物だったからな。

だが、勇者殿があそこまで執着する程の男とも思えない。どう表現すればいいか……。そう、次元が違うというのがもっとも相応しいか」


森の中での勇者殿の取り乱し方は異常の一言に尽きる。まるで想い人を亡くした少女のような有様だった。

仲間の言葉ですぐに正気に戻っていたが、理由が「僕の相棒(ライバル)が負けたままでいるはずがない」というのだからその信頼度が伺える。

兵士に囲まれた仲間の元へたった一回の跳躍で到達し、一刀の元に斬り伏せたあの少年がそこまで信じる相手。あの英雄は、どんな異常性を抱えているのだろうか?勇者殿の言葉が正しいのならば、遠くないうちに知ることになるのだろう。それが楽しみであり、少々怖くもあった。


「団長。結局どのような配置になされるので?」


「ああ、すまない。ゴルト殿を降伏派の対応に、私と勇者殿が魔族を相手をする。

全軍の7割を西に、3割を平原へと配置しろ。降伏派には数の力で、魔族には個人の質で対抗する」


「了解しました。伝令を回します」


そう簡潔に告げてミハイルは部屋を出て行く。それを視線で見送ってから溜め息を一つ吐き出した。自分の机に座り、様々な書類を片付けていく。その中で現在の状況を考える。

戦力はギリギリ。兵糧は限りがある。回復魔法の使い手は前回の開戦時に多く失った。四つの柱の内二つは倒れてしまった。あとはあの少年にかかっている。彼はいうまでもなく、彼の仲間達もかなりの技量を持つに至っている。彼らに頼るほか、この国が生き延びる術は残されていない。

自分の子供であってもおかしくないような歳の少年少女に、関係もない世界や国の行く末を任せなくてはならないとは……。己の無力さが恨めしい。


「何処まで戦えばこの戦争は終わるのだろうか?」


何度も何度も繰り返した疑問が口を突いて出る。たった一人私が座っているだけの執務室から返事が来る筈もなく、言葉は大気に溶けて消える。

この国の現状は崖の端で逆立ちをしているような状態だ。なんらかの要因があればいつ倒れ、谷底へ落ちてもおかしくない。魔族が侵略を開始してから早五年。最前線として戦い続けてきたこの国に最早余力はない。

民は度重なる襲撃に震え、兵士は疲労を積み重ねている。他国から物資を買い続けているため、国庫はもう底をつきかけている。畑は頻度の上がった魔物の被害で荒れ果て、食料すら危うい。飢えた農民達が他国に亡命を始めているのも報告されている。


「あの少年達ならば、何かを変えてくれるのだろうか?」


近い将来どうやっても潰れざるを得ないこの国を、元のような美しい国に戻せるのだろうか?

そこまで考えて、自嘲する。先ほど自分の無力を嘆いていながら、結局は人頼み。これのどこが”騎士国の守護者”と呼ばれるような存在なのか?


しかし、私ではどうしようもない問題なのも事実。内心で自分の無力に怨嗟の声を上げながら、私は次の書類へと手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ