表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
18/26

第十七話 根元の魔法

夕暮れの空の下で、俺と三塚さんは2人並んで寝転んでいた。目を閉じて、ただ自分の中に意識を向けている。

あの後、擦り寄ってきたキョウのおかげで本来の目的を思い出した俺たちは、早速魔力の放出を行っていた。しかし、普段無意識にやっていたそれを意識的にやるというのは、感覚的に掴みにくかった。

実際、放出自体は出来ているのだが、それは表出した魔力が漏れるといった感じで、コントロール下にあるかと言われればそうではない。


「やっぱ難しいな。瞬間放出量が低いからか?」


「うーん、どうなんだろう?つばさ君がキョウちゃんに魔力をあげる時はどうしてるの?」


「キョウ?なんで今それが?」


「え?だってキョウちゃんが魔力を食べるときは何時も頭の上だよね?」


ああ!確かにそうだ!その発想は無かったな……。捕食行為と放出がすぐには結び付かなかったが、一度イメージが出来れば話は早い。全身に散在する魔力を集め、頭の方へと持っていく。そしてそれを頭の頂点から押し出すようにして外へと放出する。

ご飯と思ったのかキョウが頭に擦り寄ってくる。やはり、ちゃんと魔力放出できている。そのことを確認し、三塚さんに笑顔を向ける。


「出来た!流石シャルルだな、目の付け所が違う」


「えへへ、良かった。私にも教えてくれる?」


「もちろん!」


右手を天へとあげる。


「まず、魔力を表出して、そのあとそれを出したいところへ向かって移動させていくんだ。見ててくれ」


魔力を全開で表出させ、徐々に右手の指先へと向かって移動させてゆく。ある程度魔力が束ねられたところで、魔力を魔力で押し出すイメージで外へと放出する。体外へと出たそれを、ふよふよと浮かんだキョウが吸収した。


「分かった?」


「うん、つばさ君の匂いが手の方に集まって、ふわって出てきたよ」


「に、匂い……」


「匂いは嫌かな?じゃあ、えっと、香り?」


きっとそれが三塚さんの魔力の感じ方なのだろうが、匂いと言われると何だか気恥ずかしい。アドルフさんも花の香りで魔力を感知していたが、シャルルはどんな匂いで感じているのだろうか?


「やってみるね」


三塚さんのその呟きに彷徨っていた思考が戻ってくる。魔力を探るように感覚を研ぎ澄ませる。すると熱が三塚さんから生まれた。その熱は全身に散っていたが少しずつ右手に集まり、そしてそのまま流れ出るようにして外へと溢れた。


「よっしゃ、ちゃんと出来てる。魔力の流し方なんか俺より上手いんじゃないか?」


「えへへ。ライフルの弾の装填にいつも手を使ってるからかな?」


「ああ、確かにそれはあるかもな。やっぱ下地があると違うな」


何もないゼロから物事を考えるより、下地となるイチがあったほうが楽なのは当然のことだ。

特に三塚さんの銃は弾の装填、発射、加速のすべての段階において魔力を使っている。弾の装填は銃の側面にある魔法陣に魔力を流して、鉄の弾丸を生み出している。その精製した弾丸をトリガーを起点とした魔法陣で射出。火薬や爆発による発射ではなく、弾丸そのものを真っ直ぐ進ませるという魔法で発射させるため、発射音は非常に小さい。せいぜいが金属が擦れる音のみである。さらに射出された弾丸は、空中に四つ発生する加速の魔法陣を通ることで本物のライフル顔負けの速度を手に入れ、対象を射抜くというシステムだ。

それをするためには魔力を銃に流すというプロセスが必須である。普段からそれを行っているシャルルにとって、魔力を流すことは案外簡単なことなのかもしれない。


「よし、じゃあ次のステップに行こうか」


「体外魔力の操作だよね?」


「ああ、外に出した魔力を操って、物体に干渉する。ここまでだな」


これが出来たら後は物体の概念を弄るだけだから、これさえ出来れば神と同じ魔法が使えるはずだ。まあ、出力が違うだろうから、同じというにはおこがましいかもしれないが。

先程と同じように外に出した魔力は、何もしないと大気に拡散していこうとする。それを意識して留めようとすることで、辛うじてそこに残っているような状態だ。


「こっから、物体に干渉するわけか」


恐らく植物は生き物であるため抵抗力も強い。だからそこらに転がっている石ころを手のひらに乗せた。

空中に留めた魔力をいっせいに石ころへと集中させ、大剣に魔力を込める要領で石ころの中に魔力を込めていく。数秒が経ち、放出した魔力の全てが石ころに入ったが、そこからどうすればいいのかが分からない。

取り敢えず、見た目にも分かりやすいよう、色を変化させたい。そう考えた瞬間だった。一瞬だけ石ころが光を放ち、その色を燃えるような赤へと変化させたのだ。慌てて石を指で割ると、中まで完全に赤色へと染まっていた。


「きたきた!変化を想像するだけでいいのか」


興奮してそう叫び、シャルルの方を向くと唖然とした顔が視界に入った。


「石、素手で割れちゃうんだね……」


「……あ」


ふと冷静になって考えてみると、化け物じみてるな。完全に無意識だったんだが。思わず苦笑いが飛び出る。


「つばさ君って普段どれ位の重さのものを持ってるの?」


「強化したリュックに鉄塊をしこたま詰めて、重量増加の魔法を掛けてるぐらいだけど」


「……それ、もう100kgとか超えちゃってるんじゃないかな?」


ん、ちょっと待て?段階的に重量上げて来たから違和感無かったけど、確かに100kgや200kgじゃ足りないくらいの重量背負ってないか?

さっきの岩にしたって、あんまりにも進化の魔法が上手く働いていた故の妙なテンションで気にしなかったが、数トンを超える重量じゃなかったか?


「あれ?実際俺の怪力ってどこまでいってるんだ?」


……まあ、問題はないか。筋力が強くて困ることはない。ただ、戦闘時にそこまでの力を出せていたかが少し気になったが。










あれから暫く物質の性質変化の魔法を使いまくっていた。そこらの石ころを鉄より硬くしてみたり、逆に豆腐より柔らかくしてみたり。この魔法は本当になんだって出来た。

大きさの変更から、魔力の浸透性、硬さ柔らかさ、粘り気。更には魔力を消費せずに特別な力を発揮するようにできたりもした。空中に浮く石や、遠くに投げても手元に戻ってくる石。石しかないため、他の素材は試せてはいないものの、概ね成功と言えるだろう。

だが、問題もあった。魔法をかける対象が大きくなれば大きくなるほど、魔力の消費量が跳ね上がったのだ。小さな石ころを大きな岩にすることは簡単だったが、岩を石ころに戻す作業にはとんでもない魔力とかなりの時間がかかったのだ。

さらに言えばこの魔法、対象に満ちる程の魔力を注がなければ発動しない。その上、魔法を使う際に言葉では言い表しにくいが、妙な抵抗があるのだ。恐らくは元々あった”設定”がそのままであろうとしているのだろう。作用・反作用みたいなものだ。力を加える際には向こうからも力を加えてくる。まあ、相手の”設定”を超える魔力を注げば抵抗もほとんど感じなくなるのだが、これは大きな障害であった。


「んー、この魔法は戦闘時では使いにくいな。俺の瞬間放出量だと時間がかかり過ぎる」


「で、でも装備を強くするのには使えると思う」


「うん、それもそうだけどさ。直接的な戦力として期待してた分、落胆もあってさ」


その言葉にシャルルの形のいい眉がへにょりと下がる。その表情も可愛いな、などとたわいも無いことが思考の隅に浮かぶ。そんな雑念を頭を振って吹き飛ばし、思考を働かせ始める。


「まずは、だ。武器や防具の充実は最低課題。次にアドルフさんに有効な対抗策の模索。最後に技能の上昇、くらいか」


俺たちの武器はラモンさん謹製だけあって、仲間内でもかなりいい武器だ。実際魔物との戦いでも、アドルフさんとの戦いでも不足なんてことは全くなかった。

問題は防具だ。俺たちの防具は個人によってまちまちで、勇輝は銀色のプレートメイルの兜以外を身につけているし、俺は攻撃に速度を求めたために強化の魔法をガチガチにかけた服を着ているだけだ。シャルルや真中さんら後衛陣も、俺に似たような装備だ。弓師やシャルルのようなスナイパーは胸当てを着け、肘には邪魔にならない程度のプロテクター装着している。

前衛陣はそれぞれの役目に合わせた防具の着け方をしているし、服しか着ていないのなど俺ぐらいなものである。

だが流石に限界が来たのかもしれない。何らかの防具を着けたほうがいい。実際、今日の戦いではかなりの怪我を負ってしまった。リトルフェンリルしかり、アドルフさんしかり。あのランクの強者に対し、布の服では心許なさ過ぎる。下手をすれば掠っただけで瀕死何てことが起きるかもしれない。そんな笑えない事態になってからでは遅いのだ。

たった今習得した魔法は材質の変換やその特徴から”創造”に特化した能力と言っていい。魔力を多く内包する人間や魔族に対して直接この魔法を使っても、さっきの石ころより遥かに強い抵抗をうけて魔法自体が発動しないだろう。故に、直接的な戦力にはならない。

だが、武器や防具の精製にはその力を存分に発揮するはず。

幸いにも時間のかかると思われた耐性系の能力は簡単(?)に取得出来た。時間はまだある。最高の武器防具を作るのには十分だ。


「シャルル、手伝ってくれるか?」


「もちろん。一緒に頑張ろうね!」


元気に返してくれるシャルルに微笑みを浮かべ、目の前に作った岩に手を当てる。

この子の好意に応えるためにも、今はこの根源を操作する魔法をものにしなくてはならない。そう意気込んで、俺は再び魔力を全開で放出した。

次回、王都側の話に移ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ