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蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
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第十五話 人を超えて

「適正化じゃない?」


余りのことに素っ頓狂な声が漏れる。だがそんなのには構わず、ハイネの方を睨む。


「どう言うことだ?」


「わ、私は知りませんでした!魔法研究室の方からも、皆様にかけられた魔法は適正化だとしか……」


「ふむ、古文書から無理矢理取り出した技術の名称など分からんじゃろうのう。あまりお嬢さんを責めることはなかろうて」


「だが!もし違うとしたらどんな代償があるとも分からないんだ!」


爺さんはため息を一つ吐くと、首を振る。


「その魔法に代償は無い。その魔法の名はの、『進化』と言うのじゃよ。人が人でありながら、人を超えるための魔法じゃ。その昔、ある不世出の魔法使いが生み出した魔法じゃ。

考えても見るのじゃ。生き物が何かの要因に直面し、それを越えようと力を付けることを何という?」


「成長、ですか?」


「正解じゃ。ではそれを世代単位で積み重ね、完璧にその生物の特性とすることをなんという?」


「進化、だな……」


だが、今聞いた感じだと、そう適正化と変わらない気がするのだが。まあ、代償が無いなら今まで通りでいいだろう。問題ない。


「じゃあ、最後な。俺たちは本当にもとの世界に帰れるのか?」


その問いに、俺たちにとって何よりも重要なその質問に、爺さんは淡々と語った。


「ふむ、ーーーー」


そして俺は、そこで一つの決意をした。











俺は全ての質問を終えたところで立ち上がる。それに慌てて三塚さんとハイネも立ち上がった。


「ふむ、これからどうするのかの?」


「魔族や非戦派の襲撃まではまだまだ時間があるんだろ?なら俺がやることはただ一つ、強くなることだけだよ。例え、人を超える(・・・・・)ことになろ(・・・・・)うとも(・・・)


それだけ言って小屋を出る。扉を閉めようとすると、爺さんが言った。


「修行が終わったら、またここに来なさい」


その言葉に一つだけ頷いてから扉を閉める。爺さんがこれ以上何の用があるのかは分からない。まあ、特に悪いことでもないだろう。

さて、気を取り直してだが。さっさと修行に入らなければならない。かなりの時間をここで使ってしまった。今日までのような修行では、速度も質も足りはしないだろう。急がなくては。


「三塚さん、悪いとは思うが、俺の修行の手伝いをしてくれるかな?」


「はい!勿論です!」


「ありがとう。それで、ハイネはどうする?」


そう聞くと、ハイネは一度顎に手を当てて考えるような素振りを見せると、一つ頷いた。


「やはり私は一度例の竜騎士と会ってこようと思います。それからのことはまた後ほど」


「ん、分かった。んじゃ、俺らは街の外にいるから。それぞれ出来ることを頑張ろうぜ!」


「はっ!!」


ハイネは敬礼をするとそのまま、鎧をがしゃがしゃ鳴らしながら駆けて行った。ハイネはさっき爺さんに竜騎士のいる家を聞いていたし、迷うこともないだろう。


「俺たちも行こうか」


そういって村の外に向かって歩き出す。そうすると、トコトコと長い金髪をたなびかせながら俺の横に三塚さんが並ぶ。そんな可愛らしい様子をふと見てみれば、彼女の背は俺の肩までしかなかった。ハーフなのに、結構背が低いんだな。そんな新たな発見をしていると、三塚さんもこちらの方を向いた。


「でも、本当に良かったです。もう目を覚まさないかと思ってたんですよ?」


「ああ、俺もあん時は必死だったから。というか、三塚さんはどうしてあの時、みんなと一緒に逃げなかったんだ?危ないのは分かってただろ?」


ハイネはまだ分からなくない。まだ短い付き合いだが、剣の鍛錬や普段の様子からあいつが自分の仕事や役割に忠実な人間だってことはよく知ってる。あの時、騎士としてハイネが彼処に残ったのは、おれも予想していたことだった。だが、三塚さんがそこまでする必要はなかった筈だ。


「……え、えと、つばさ君が心配だったから、かな」


何だろう、この台詞。さっきの膝枕といい、期待しても良いのだろうか?

……いや、今はそれを考えていられる時ではないか。俺も三塚さんのことは嫌いじゃない。むしろタイプど真ん中だし、友人と言える仲になってから意識することが多くなったと思う。だが、今だけはその気持ちに向き合っているわけにもいかない。他ならぬ彼女を守るためにも。


「そっか、ありがとな。これからもいろいろ困らせるかもしんないけどさ、よろしく頼むよ」


「うん!!」










修行。一口に言っても色々なものがあると思うが、俺は今回徹底的に肉体のスペックを上げ、魔法の直接操作による物質の変質を身に付けたいと思っている。

そのためにまずーーー


「こんがり焼いてもらえるか?」


「え?えええっ!?」


「いや、火魔法でボワっと」


そう。取り敢えず熱関係に耐性を持つことにしたのだ。耐性をつければある程度の魔法ならば防ぐ必要さえ無くなるというのは大きい。勿論、強い魔法を食らえば意味がないのは確かだが、それは普通でも同じだ。ならやらない手はない。

火以外にも電、氷、毒、斬撃、打撲、いくらでも耐性をつけるべきものはある。今までそれをしなかったのは、ただ痛いから。それだけのことをする覚悟がなかったのだ。

だが、その覚悟ならたった数分前に決まった。今更躊躇することはない。キョウを少し離れたところに置いてそのまま地面に座る。


「ほ、本当にいいんですね?ちゃんと治るんですよね?」


「ああ。一応、爺さんの言ってた魔法の練習も含まれてるしな。慎重にやれば何とかなると思う。服も魔法でいろいろ強化されてるものだし、多分燃えることはないだろ」


「わ、分かりました。……『火よ、燃え盛れ』」


三塚さんが単純な発火の魔法を使うと、俺を一瞬にして炎が包んだ。


「あついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあああああああああああ!!」


痛覚が痛みを訴える間も無く、ただただ熱が身体を舐め回す。三塚さんがこちらに寄ろうとしているのが火の向こうに見える。だが火に邪魔されて近づけないようだった。

何分が経過した頃だったろうか。俺は一つの違和感に気付いた。熱が急速に引いていくのだ。そして終いには風呂に入っている時のような心地の良さが感じられるようになった。

悲鳴が止んだのに気付いたのか、近寄ろうとしていた三塚さんの足が止まる。


「……つばさ君?」


「いや、なんか熱を感じなくなった?……違うな。熱はちゃんと感じてる。ただ、身体への害がなくなったというか……。妙な感じだな」


水の魔法を使って簡単に火を消すと、三塚さんが近くに寄ってくる。


「火傷は大丈夫?」


「ああ。なんか火に浸かってる間に治ったみたいだ」


「ええっ!?」


「なんだこの自動回復?まるで不死鳥じゃねえか」


どういうことだろうか?実際、こういった特性を持つ魔物はいる。それこそ不死鳥やらマグマの身体を持つゴーレムなんかは炎で体を癒すことが出来る。魔法か自然のものかは関係なく、だ。

今俺の身体に起きたことはそれとなんら変わりない。これはどういった風に捉えればいいのだろうか?この進化の魔法がどういったメカニズムなのかは魔式(スクリプト)すら知らない俺では判断のしようがない。とはいえ、その進化の先を決めるのがこの世界その物だとしたら、既にこの世界に存在する能力を付与してきてもおかしい話ではない。

これがかけた人物の知識に準拠するにしても、やはりこの世界に既に存在するものを想像してしまうのは当然のことだ。となれば、これはそういうことなのだろうか?

”とある物事に対しこの世界の生物の持つ適応能力”を対象に組み込む魔法。

何にしても、実験が必要だ。


「三塚さん、ナイフ貸してくれるか?」


「は、はい!」


ナイフを受け取り、その刃を手のひらに押し付ける。プツリと皮が裂け、血が滲み出てくる。ポタポタと血が垂れる傷跡に向け、発火の魔法をかける。

燃え上がった炎が傷口を舐め、心地よさを生む。そしてその効果が切れて炎が消えると、そこに傷口は無くなっていた。明らかに、炎によって癒えている。やはりこれは炎による回復能力で間違い無いようだ。


「よし、三塚さん。次は電撃行ってみたいんだけど、魔力は大丈夫?」


「う、うん。まだ大丈夫」


「よし、じゃあお願い」


三塚さんは一つ頷いて詠唱を始める。発動したのは対象に手のひらから電撃を放つ魔法。今度はしっかりと制限時間も設定したらしい。らしい、と曖昧なのはその直後に襲ったものが思考を閉ざしたからに他ならない。

雷の魔法は全魔法の中で光に次ぐ攻撃速度を誇る。俺の目ではそれを捉えることはできない。よって、痛みは突然に訪れた。

身体の内を走る電撃に脳が焼けるかと思った。全身から煙を発しつつ、沸騰したような血液の脈動が騒がしく感じる。痛みもそれなりにあった。しかし、それも次第に薄くなっていった。さっきの火の時と同じだ。徐々に電撃が及ぼす身体への悪影響を感じなくなっていく。

段々意識がはっきりし、身体が軽くなっていく。目の前の景色が、スローで流れる。恐らくは、俺の知覚速度が上がっているのだろう。立ち上がり、全速力で走ってみる。多少身体能力自体も上がっているらしく、かなりの速度で走れている。無論、いつもより流れる視界はゆっくりとだったが。

足を止め、三塚さんの元に戻ると丁度魔法も切れる時だった。電撃が消え、思考の加速も止まり、常速の世界へと帰還した。


「今度は思考の加速か。身体をよりうまく動かすのに間違いなく使える能力だな。ついでに身体だけじゃなく剣にも雷を纏わせれば攻撃力も上がるし」


「す、すごいね!でも今までも火や雷の魔法が当たったことがあるのに、なんで今回だけ魔法が働いたんだろう?」


「多分だけどさ、考えられるのは時間と威力の二つだな。さっきの炎も、今の電撃も、普通の人間に当てたら普通に殺せるだけの威力があっただろう?もちろん、そんな数秒程度炙っただけで人が死ぬことはないだろうけど、燃焼時間が伸びれば話は別だ。身体が燃え始め、焼け爛れてしまう。

そういう明確な”危機”だからこそ魔法が働いたと考えると説明がつく。威力にしたって、練習試合なんかで使う魔法は威力を抑えてるわけだし、そこまでいかなかったんじゃないだろうか?」


身体能力の底上げなんかは分かりやすい。自分の現在のスペックで出来ないことを、無理やり行うことで身体に負荷を掛け、進化の魔法を発動させる。それにより、その時にかかった負荷分だけスペックが向上する。

それが現象の場合だと、ある程度人間の適応能力があるため、それを超えるものを食らわないと決定的な適応能力は手に入らないのだろう。加減された魔法を食らった時でも、火傷しにくくなったり、電気抵抗が強くなったりしてはいるのだろう。だが、所詮はそこ止まりだ。死ぬ可能性のあるレベルまで酷使しなければその先は手に入らない。

今回はそういうのを超えたダメージを食らったおかげで特異な能力がついたと考えていいだろう。確かにこれは、人でありながら人を超えるための術だな。


「よし、この調子ならすぐに魔法の練習に入れそうだ。治癒はわざわざリスクを冒す必要は無くなったし、炎でいいか『十秒のみ燃えよ』」


ボオッと音を立てて全身を炎が包み、きっかり十秒で燃え尽きる。再び調子の良くなった身体を伸ばし、三塚さんに次の魔法をお願いする。


「次は氷でお願い。足から徐々に凍っていく感じで」


「うん、行くね!『氷よ、彼の者を足から包め』」


明確な回復手段と、前二つの成功で安心できたのだろう。詠唱に先ほどまでの不安がない。発動した魔法はジワジワと俺の足を蝕んでいくが、ふとそこで違和感を感じた。

氷が冷たくないのだ。さっきまでのように徐々に効果が出てくるとかじゃなく、最初から冷たさを感じない。ひんやりとした冷気を気持ちよく思うだけだ。股下辺りまで凍ったはずの足も、何故か問題なく動く。屈伸をする度にパラパラと氷が落ちるものの、挙動に障害はない。

そうこうしているうちに遂に頭の先まで凍ってしまった。太ももを凍った握りこぶしで叩くと、キンッと甲高い音が響く。声を発そうとするも、声は出なかった。声帯が凍って震えなくなった所為だろう。やはりこの辺は物理法則に縛られているのだろうか?線引きが曖昧だ。

ジェスチャーで何とか炎を求めていることを示すと、三塚さんが魔法で氷を溶かしてくれた。


「えっと、どうしたの?」


「いや、耐性が既にできてた。多分リトルフェンリルに腕を凍らされた時だな。効果は恐らくは肉体硬化。金属みたいな音出てたし、かなり固いと思う」


そういうと三塚さんも得心がいったようで頷いた。


「よし、じゃあ次何だけどさ、こっからは一人でやるよ」


「え?いいよ!私、つばさ君みたいな勇気がないから、せめて手伝わせて欲しいの!」


「ああ、うん。その気持ちは嬉しいんだけどさ、流石に女の子に身体切り刻まれるのはトラウマもんかなぁ、と」


「へ?」


「切り傷とかに強くなりたいからな。手術とか難しくなるかもだけど、この世界だったら意味ないしな。やらないだけ勿体ないだろ?」


ちょっとドン引きしたような顔をしてる三塚さんに苦笑しつつ、ナイフを右手でしっかりと握る。一度地面に腰掛け、そのまま太ももに向かってその腕を振り下ろした。

ずぷり、と身体の中を冷たい金属が入り込んでくる感覚とともに激しい痛みが頭の先まで走り抜ける。とは言え、ここに落ちてきた時や火に包まれた時程じゃあない。痛みをこらえてナイフを引き抜き、今度は逆の足に突き刺す。再び鋭い痛みが走る。手のひらを火で包み、それを傷口に押し当てて傷を癒す。

シュウシュウ音を立てて溢れた血液が蒸発して固まり、焦げて燃え落ちる。その後には傷が残ってはいなかった。


そこからは単純な作業だった。

足、腕、腹、胸。いろんなところをナイフで切ったり突き刺したりしているうちに、徐々にナイフの刺さりが悪くなっていったのだ。それでもそれを無視してドンドンとナイフを刺し、刺さらなくなれば魔法で切れ味をあげてから突き刺す。そうこうしているうちに、俺の皮膚は恐ろしいまでの頑強さを備えるようになっていた。

途中から痛みも感じなくなり、出血する量もかなり減った。顔を青くして震えていた三塚さんには悪いなと思いつつ、自分イジメは数十分に渡って続けられた。

それが終われば岩を魔法で作り出し、魔法で上空に浮かべた後に落下させ、それを受け止めるというのを繰り返す。これには三塚さんも手伝ってくれた。何度も骨が折れ、時には内臓から変な痛みを感じた時もあった。それでも延々と続けるうち、最後には自分で岩を上空に投げ、自分の身体を受け止める、といった様相を晒していた。


その様は、明らかに人間を超えていた。超人とか、そういった次元ではない。そもそも人としてあり得ないという、そういった生き物に俺は”進化”していたのだった。

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