君と僕との距離
男性同士のカップル、俗に言うボーイズラブ小説です。
ボーイズラブに偏見がある、ボーイズラブが苦手、という方は
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大丈夫、どんとこい、という方のみドウゾ。
教室の窓側、前から4番目、後ろから3番目の席。
「――――――………。」
背後のガラスに、地面に雫が打ちつけられる音がする。
正面からは、いろんな話声。
壁に背を預けてイスに座り、ぼーっと教室内を眺める自分だけが、まるでこの空間から切り離されているようだった。
5メートル程離れた所、この席から斜め前方の位置。
そこに、キミの背中が見える。
朝から机に突っ伏しているのはただ眠たいから?
僕と別れた悲しみからだとしたら、少し嬉しい。
そう思う僕の心は歪み始めているのだろうか?
毎朝部活も無いのに早くに来て。
SHRまでの間、キミと話すのを楽しみにしていた頃が懐かしいね。
たった一週間前までの話しなのに。
僕にはそれが、ひどく昔の事のように思えるんだ。
「タニ、ぉはよー。」
不意に聞こえてきた挨拶の声は、僕の後ろの席の、山田のものだった。
「はよ。」
「ぁ、はい、コレ言ってたマンガ。読み終わったら次、佐山に回しといて。」
「おぅ、サンキュー。有り難な。」
僕はいつも通り、話せているだろうか。
笑えているだろうか。
今まで、当たり前のようにキミと一緒にしてた事。
僕にはもう、それらをする権利も無くて。
物理的にはたった数メートルの距離なのだけれど。
「雨、ずっと降ってっかなー?」
「ぁ゛ー…どうだろ……?」
「雨だったら、体育中だろ? したらまたバレーじゃん。俺長距離よりバレーがいいなぁー…」
「いーじゃん、山田長距離得意なんだから。」
「よくねーよ。疲れるし、陸部でもないおまえに負けるたびに俺のプライドは傷つくしっ…。」
「ぁははっ。」
「ぁはは、じゃねぇよ、このヤロウ。」
「ぃたっ…。叩くな、叩くなってっ……」
キミだけが、酷く遠い。
* * *
毎日、学校へ行くのが楽しみだった。
谷藤と付き合って以来、ただでさえ早めに学校に来ていたのに、今日はさらにそれより一本早いバスで来た。
その結果、クラスで一番に来てしまった。
誰も居ない教室は今日が休みかと錯覚する程に静かで。
昨日から降り続く雨のせいで太陽の光は差し込まず、薄暗かった。
鞄を下ろして自分の席につき、ウォークマンのボリュームを少し上げてから机の上に突っ伏す。
ともすれば谷藤の事を考えそうになる思考回路を遮断しようとして、―――…結局それは不可能なのだという事が嫌という程解った。
涙さえ流さなければ、少しぐらい谷藤のことを考えていても良いだろうか。
早く忘れなければ、早く切り替えなければ、とは思うのに全然んできなくて…そんなあきらめにも似た気持ちが湧いてくる。
もうその気持ちに逆らう気力もない僕は、息と一緒にゆっくりと全身の力を抜いた。
恋をした人間には相手の言動を細かく察知できるアンテナがついていて、どうやらそれはその相手が好きだという気持ちがある限り無くならないらしい。
それとも、よっぽど谷藤の声がよく通る声なのだろうか。
「おぅ、サンキュー。有り難な。」
「いーじゃん、山田長距離得意なんだから。」
どことなく、谷藤の声音がどこか無理しているような気がする。
それは僕の所為?
ごめん、って気持ちで胸の中が一杯になる。
でも、それでもこうする事が谷藤にとって一番いい事だと思うから。
心の中だけで、何度もごめん、って謝った。
僕には謝る権利も無いけれど。
ごめんね。
「ぅわ、ちょ、…ギブ! ギブギブギブっ…!! イタいっ…マジで痛いって山田…ッ。」
曲が、次の曲に切り替わる。
谷藤も、僕も好きなグループの、三番目くらいに人気な曲。
でも僕は、谷藤もだと言っていたけれどこの曲が一番好きだ。
一番そのグループらしい気がして。
何だか、一番自分に近い気がして。
『好きだよ。』
谷藤の声が、何故か耳に甦った。
まるで、今此処で言っているかのように鮮やかに。
僕はゆっくりと目を閉じる。
ツキリ、とどこかが痛んだ。
耳に残った声は、まだ消えない。
稚拙な文章に最後までお付き合い下さいまして有難うございました*_ _))
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