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第六章

俺が二号棟の屋上に降り立つと、いきなり、

「覚悟しろ」

 という声が聞こえたかと思うと、四方を囲まれ、銃口を向けられた。

 そして、間髪いれず発砲。

 だが、こんなシチュエーションは訓練で何度もやってきた。ここはあわてず騒がず、冷静にバリアを張る。

 弾切れを待っててもしょうがないので、バリアを張りながら一気に風の刃を飛ばしてやった。

「ぐほぉっ」

「うがぁぁぁ」

「ひでぶっ」

 しかし、たった一人だけ避けた者がいる。

「いやぁ、さすがはサイキッカーですねぇ。お見事です」

 このキザな言い方、きっちり決めたスーツに、茶髪で長髪。間違いなく、麻布会二大幹部の一人、銃のスペシャリスト、(つるぎ) 銃造(じゅうぞう)だ。

「俺の能力に多少は気づいたようだな」

「私だって最初は信じられませんでしたよ。でも、どう考えてもサイキッカーであると考えた方がうまく説明がつくものですから」

 この柔軟な発想、伊達に知性派のリーダーやってるわけじゃないんだな。

 そんなことより、早く(ゆう)達のところに戻らなければ。

「ああ、あのお嬢さんたちの事ですね。たぶん、わたしの兄さんのお世話になっていることでしょう。地上は、兄さんのグループのテリトリーですから」

「なに!?」

 そんなバカな。武闘派と知性派は、明らかに連携なんて取れるはずないのに……。

「私自身、このように上手くいくとは思っていませんでしたから。ただ基本に忠実な布陣を敷いたところ、ラッキーな状況になっただけの事ですから」

 なるほど。俺と優達を引き離したのは、単なる偶然だというのか。なら、今すぐにでも戻れば、すぐに形勢逆転はできそうだ。

 だが、奴がそんな重要なことを余裕な顔してしゃべってるあたり、そんな簡単には合流できないだろう。下手すれば、こっちがやられるかもしれない。

「さあ、おしゃべりはここまでです。本来ならこの特設ステージ、三号棟にも作る予定だったのですが、結局二号棟しかできませんでした。ですが、十分お楽しみいただけるかと思います。あなたの死の舞台としてはね!」

 そういうと、いきなり発砲してきやがった! 何とか空を飛んで回避できたが。

 もう、こうなってしまったら仕方がない。ここはあいつらの事信じて、俺はこいつの相手をするしかないか……。




「ほらほら、全然当たりませんよ!」

「くっ……」

 俺は空中から風の弾を撃ちまくっているが、相手はコンテナの影を上手く利用して避けている。しかも、そのコンテナの配置というのも実に巧妙で、まるで巨大迷路のようになっていた。

 だから、いったん見失ってしまうと、すぐ、

「うわっ」

 不意を突かれて狙撃されてしまう。幸い、ローリングや宙返りなどを駆使して避けてはいるが、全てかすっている。

 ハッキリ言って、いつ命中してもおかしくない。何とかしなければ。

 よし、少し状況を整理しよう。まず、敵の行動パターン。敵は、あのコンテナを上手く利用して立ちまわっている。さらに、そのコンテナのせいで、こちらの攻撃が当たらない。つまり、コンテナを何とかしなくてはならない、ということだ。

 では、どうする? ネモに支援を要請するという手もある。それは短時間でコンテナの破壊を可能にするものだ。しかし、コンテナの破片がどこに行くかわからないという欠点がある。下手なとこに飛ぶと、ルミ達に危害が及ぶ。

 それを防ぎつつ、コンテナをものともしない戦法は……、

「はあぁぁぁぁぁぁ……」

 空中に立ち止まり、敵にばれるかばれないか位に風のバリアを薄く、最小限に、なおかつ銃弾を防ぐに足りるバリアを作る! そのため、目を閉じ、全神経を集中させた。

 そして、ついにチャンスは訪れる。

「いつまでもそんなところにいては、格好の的ですよ! 特にそのボサボサ頭が!」

 ――バキュン!

 俺に命中したが、張っていたバリアで何とか防げた。

 そして、敵の居場所が分かった。

「そこか!」

 俺は後ろを振り向くと、いわゆるライダーキックの体制で急降下。

「ごはっ」

 見事ヒット。そしてそのまま引きずりまわし、コンテナにシュート!

 コンテナに貼りつけ状態となった銃造に、トドメの一撃。

「……このステージ、俺じゃなくあんたの最期の舞台だったんだな」

 そのセリフとともに、俺は全身、特に翼に風を纏い――銃造に突撃!

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 そして、翼でコンテナごと奴を切り裂いてやった。






 断末魔を聞いた後、(ゆう)達はどうしただろうかと上空から見下ろした。どうやら、俺とほぼ同時に幹部を倒したようだ。

 なら、直接ボスのところに乗り込んでも問題ないか。

「艦長、こっちの突入準備はできてる。そっちは?」

「少し手間取ったけど、準備完了よ。すぐにやるから、目標から離れて」

「了解」

 と言っても、今は二号棟の上空だから、このままで大丈夫か。

「サミュエル一番砲、出力30%。撃てーーー!」

 すると、上空から一号棟の屋上に向けて、赤く太い光線が放たれた。そして、命中した部分から煙が出て、大きな穴ができたではないか。

 この『サミュエル』というのは、ネモの主砲だ。艦のフロント部分に設置されており、普段は格納されている。フル出力で撃てば、並みの空母なら一瞬で煙にできる。

ただ、あまりにも高出力であるが故に、出力調整が難しい。そのため、三連砲という形で砲台1門当たりのエネルギーを分散させ、調整しやすくしているらしい。

ちなみに、これは俺の推測だが、この『サミュエル』という名前、どうもヴェルヌ作品『気球に乗って五週間』の登場人物が元ネタのような気がする。

「ハク、通れそう?」

「十分だよ、艦長。これだけ大きければ。んじゃ、これから突入して、ボスの顔を拝んでくるわ」

「気をつけて。それと、下から優とルミも向かって行ったわよ」

「了解。すぐに終わらせて、合流する」

 そして、俺は穴に飛び込んだ。






 乗り込んだ先には、机に突っ伏した男がいた。

「あんたがボスか?」

 そう問うと、男はゆっくりと顔を上げた。髪は白髪のショート。白いTシャツの上に赤いチェックの上着を着ている。顔立ちは端整で、いわゆるイケメンといっても差し支えがないだろう。さらに、装着している銀縁眼鏡が、優秀さをかもし出している。

「あ……ああ、そうだが」

 おどおどした口調で答えた。ダカホの人物認証システムも一致していると出ているし、やはりこいつが麻布会のボス・麻布レオンで間違いないだろう。

 だが、今のこいつには、麻布会を一大麻薬シンジケートに成長させたキレ者であるという面影がどこにもなかった。やはり、不測の事態に弱いという噂は本当のようだ。

まあ、超常現象の塊みたいな俺達が攻めてくれば、機能不全に陥るのは必至だろう。

 そして、そのような性格で地位と金がある人間が窮地に立たされるとよく言うセリフを言った。

「な、なあ、金はいくらでもある。いくらでも好きな金額をやろう。だから、見逃してくれないか」

 俺は、奴を見つめながら、黙っていた。

「そ、それに、お前は腕が立つ。なんなら、麻布会の全幹部を取りまとめる地位につかせてやってもいいんだぞ。これで、お前は組織の、ナンバー2だ」

 まだ、黙っていた。

 ここまでは、哀れな奴だ、位にしか思ってなかった。

――次の言葉を、聞くまでは。

「そ、そうか。もしかして、将来の心配をしてるのか。なら、心配ない。お前も知ってると思うが、我々は武器の輸出を検討している。

その準備中にわかったんだが、紛争地帯では、反政府組織なんかにもヤクが売れるらしい。その理由はな、子供だよ。少年兵の脱走防止と、洗脳に使われるんだそうだ。だから、ヤクの方も市場が拡大出来て、麻布会はさらに発展するぞ」

 ――こいつ、俺の地雷を踏みやがったな。武器売買のみならず、子供すら食い物にしようとは――許せない!!

「俺のこの血は、戦争の悲しみが刻まれた血――」

「え?」

「俺は一生、戦争の悲しみを背負って生きていかねばならない――」

「さ、さっきから何を……」

 奴は、恐ろしいものを見たような表情で、キャスター付きのイスに座りながら後ずさりし、後ろの壁にぶつかった。

 そりゃそうか。この時の俺は、怒りに満ちていただろう。それが顔に現れたんだ。

「つまり、俺は戦争が嫌いなんだ。そして、お前はそれを食い物にするグリーンカラー――いや、それ以下だ……」

 そう言いながら、俺の右手には、風で出来た等身大のチャクラムが形成されていく。

「あ……ああ……」

「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 そして、巨大チャクラムを気円斬ばりに投げつける!

 断末魔を叫ぶ暇も与えず、麻布レオンは力尽きた。






「はあっ、はあっ、はあっ……」

 初めての長丁場となった戦闘とか、ボスとの対峙とか、そいつに怒りをぶちまけたりとかで息を切らしていると、

「にーちゃん、大丈夫?」

「無事? お兄ちゃん」

 聞きなれた声が後ろから聞こえてくる。(ゆう)とルミだ。ここへは、おそらくダカホの電子ピッキングを使って入ったんだろう。

「こっちは大丈夫。それより、優もルミも、すごいじゃないか。幹部を一人倒したなんて」

 そう言いつつ、二人の頭をなでてやる。

「ふにゅ……」

「ふふふ……」

 二人から笑顔がこぼれる。だが、優はすぐに奥の状況に気付いた。

「お兄ちゃん、あれ……」

 それは、組織のボスの、変わり果てた姿だった。

「もう、終わったことだ」

 この一言を発すると、二人は何も言えなくなった。

「……さあ、戻ろう。そろそろ警察が来る。それに、まだやり残してることがあるだろ?」

 そして、俺は二人を抱えて、大空へ飛び立った。


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