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第五章

「ハク、コルヴスの調子はどう?」

「問題ないよ、艦長」

 あれから一週間。俺たちは麻布会アジト襲撃に向けて準備をしてきた。具体的に言うと、作戦立案や戦闘訓練に力を入れた。その間に新装備がミシェルから届いた。

 その名も『コルヴス』。ラテン語でカラス座を意味する。機能は、俺が起こした風の制御。空を飛ぶこともできる。使用法は、俺達の戦闘服であるコートの後ろにあるアダプターに直接装着して使う。外見は、俺の身長程もある翼だ。その名の通り、カラスの様に黒い。

 実は、元々白鳥座を意味する『キグヌス』という名称で、その名の通り白い翼の意匠で設計されたものだが、俺の価値観……というか、倫理観? の観点からカラーリングを変更してもらった。

ちなみに、この黒いカラーリング、(ゆう)や(特に)ルミにはすっごく不評だった。

 そんなこんなで今日、アジト襲撃本番を迎えたわけである。

 ちなみに、現在ネモはアジト付近の上空にいる。俺たちは現在出撃準備を済ませ、ドックにいる(当然、俺はコルヴスを装着している)。この章の最初の通信は、ドックで行われたものだ。

「ねえ、にいちゃん」

 ジト目でルミが話しかけてきた。

「その格好さー、悪魔か何かにしか見えないよ」

「わたしも、そう思うなぁ」

 ルミだけでなく、優からも指摘された。確かに、全身黒づくめな上に黒い翼なんて、まったくいいイメージはないかもしれない。

「別にいいんだ。これは、俺の考えでわざわざ黒くしてもらったんだから」

「その考えって、なに? あたしら、全然聞いてないんだけど」

 まあ、だいたい予想はしてたけど、そのことについて食いついてきたか。理解できるできないは別にして、いい機会だから話しておくか。

「もしコルヴスが白い翼だったら、天使みたいな印象を受けるだろ? で、天使と言えば、俺のイメージだと正義の使者、みたいなものなんだよな」

「うん。それでいーじゃん」

「だが、俺は、そうはなりたくない」

 二人ともきょとんとしてる。まあ、突然そう言われたら、こうもなるか。

「つまりな、正義なんてのは価値観で、個人によって違う。しかも、同じ行動でも見方によっては正義にも悪にもなる。たぶん、俺たちの活動の中には、正義の板挟みに悩むこともあるかもしれない。

 要するに、正義なんてものは不確定なものだし、それに浸けこんで私利私欲を貪る者が利用することもあるわけだ。だから、俺は黒い翼を選んだんだ。」

「う~ん」

「わかったような、わからなかったような……」

 ああ、やっぱり理解できなかったか。

「まあ、今わからなくても、そのうちわかるようになるさ」

 話が一区切りしたところで、艦長から放送が入る。

「おしゃべりはそこまで。転送の準備ができたわ」

「了解。それじゃあみんな、用意はいいかい?」

「わたしは、大丈夫」

「もち、OK!」

 うん、みんな決心はついたようだ。

「うん、みんな心の準備はできてるようだね。いいか、本格的な戦闘は、全員が初めてだ。おそらく、厳しい戦いになると思う。でも、これだけは言わせてくれ。絶対に生きて帰って、祝勝会をあげる!」

「ラジャー!」

「楽しみにしてるからな」

 二人とも元気に返事をした。こいつらの期待にこたえるためにも、必ず全員で生還しなければ。

「それじゃあ、カプセルに乗り込め! 戦闘配備だ!」

『了解!』






 転送後、俺たちが初めて見たものは、人ごみだった。

「うお!? 何者だ、お前ら!」

「いつ入り込んできやがった!」

 それもそのはず、ここはアジト敷地内の西側。前に潜入した時にぶっ壊した壁がある方とは反対側だ。目の前に二号棟が見えているあたり、ここはちょうどアジトの中間地点なのだろう。

 だが、問題なのはこの人の山。あっという間に取り囲まれてしまった。後ろには高い壁。手っ取り早く言うと、四面楚歌。

取り囲んでいるメンツは、チンピラっぽい姿であるのを見ると、武闘派の連中らしい。

 だが、誰であろうと今の俺にはすぐに打破できる。俺は縮めていた腕と翼を広げ、

「はあっ!」

 すると、目の前に空気の塊でできた巨大な刃が出現し、飛んで行った!

「ぐはぁっ」

「あべし!」

「ぐふぅ」

 で、敵は思い思いに叫びながら切り捨てられ、一気に数を減らしていった。

 もちろん、その光景を見ていたその他大勢は、

「な、なんなんだよこいつ」

「化け物か?」

「誰だろうと、やらなきゃいけねえんだよ!」

 このように、かなり萎縮してしまっている。この機を逃さず、次の一手を打ちますか。

「ルミ、左手の方の敵を頼む。俺は右。(ゆう)は幻覚を見せてサポートを」

「は、はい!」

「よっしゃー、ぶっとばしてやるもんねー」

 戦法としては、まず優が幻覚を仕掛けて敵を混乱させる。次に俺とルミがその隙を突いて攻撃。

 攻撃法も、やはり対多数だ。俺は空気の刃を空から大量に降らせ、ルミは手を巨大化させ、その拳でバッタバッタと殴り飛ばし(あるいは、はたき飛ばし)ている。

 戦場は、完全に牛耳れた。もうこちらの好き放題だ。

 しかし、今確認できている連中を倒しても、おそらく半分にも満たないだろう。なぜなら、例の銃撃部隊の姿を、見ていないのだから。

 そう思っていた矢先、突如屋上から大量のスポットライトが。

 これはヤバいぞ。すぐに行動に移らなくては。

 案の定、すぐ後に聞こえてきた声は、

「撃てー!」

 次の瞬間、俺たちに向けて大量の銃撃が。しかし、大丈夫。こうなることを予期していた俺は、すぐに優達のところに駆けつけ、風のバリアを張っていたからだ。

 おかげで銃弾はバリアのところで粉々に切り裂かれたし、そのほかにもいろいろわかった。

 まず、この銃撃は、例の狙撃窓から放たれていること。しかも、俺の憶測が正しければ、おそらく一号棟五階以外全ての狙撃窓(というか、一号棟五階だけ狙撃窓がない)に人員を配置しているだろう。

 それと、もうひとつ。これは相手にとってかなり致命的な弱点を露呈することになった。

 実は銃撃の後、このような話し声(叫び声?)が聞こえてきた。

「おい、てめえら! なんで俺たちまで撃ってんだよ!?」

「こちらの作戦はそちらに伝えたはずです。流れ弾があることぐらい、わかっていたはずですよ?」

 などと、仲間割れが始まってしまった。今は両者の間に距離があるが、もっと近くにいたら、確実に同士討ちが始まっていてもおかしくない。

 つまり、いまだに武闘派と知性派の溝は埋まっていないことが判明した。

 これはチャンスだ。この隙に、あの厄介なモンを潰せる。

「みんな、俺はあの狙撃手の団体さんを何とかする。ここ、任せられるか?」

「おう! まかせとけ~~~」

「少しだけなら、なんとか」

 よし、大丈夫そうだな。俺はうなずき、空へ飛び立った。




 空へ飛んだ俺は、建物の間を縫うようにして飛行した。

「うわっ」

「な、なんだ!?」

「じゅ……銃が」

 風の音でほとんど聞き取れなかったが、何とか狙撃窓から聞き取れた声は全て、驚きや嘆きの類だった。

 それもそのはず、空気の槍で、そのご自慢の銃を破壊して回っているのだから。できれば狙撃窓自体を何とかしたいのだが、今の俺の技量では破壊することしかできない。要するに、封印ができないのだ。

そのため、建物の周りを何周も回って、控えている連中を引きずり出し、使える銃全てを壊してやろうという魂胆なのだ。

「そろそろこの辺でいいか」

 五周ほど建物を回った頃、もうほとんど狙撃してこなくなったので(空気の槍は貫通しやすいので、もしかしたら中で串刺しになっているかもしれないが)、ルミ達のところへ戻ることにした。

 今俺がいる地点は東側なので、建物を飛び越えて戻ろうと、急上昇をした。その時、

――バキュン!

 銃声がした。しかも、何かが右肩をかすったような感覚。

 間違いない。誰かが俺を狙って狙撃した。いったいどこから?

 見下ろしてみると、二号棟の屋上には、いつの間にやらコンテナが山積みになっていた。しかも、数人の人影が。

――これは、行くしかないだろう。

俺は急降下し、問題の屋上へと降り立った。


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