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第一章

 宇宙警備隊に所属してからというもの、俺は空き時間があればほぼ毎日のようにネモへ足を運んだ。

 主に訓練をこなしていた。でも、まだ超能力の成長は見られない。アタッカーとし活躍できるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 ……と思っていたけど、ある日戦闘訓練中に、その欠点を補えるような使い方を発見した。問題はあるが、任務のときはこいつを使うしかないだろう。

 ほかのみんなも俺と同じく、毎日のように来ていた。みんなと顔を合わせない日はなかった。

 そういう事情もあり、俺も訓練を手伝うこともあった。おかげで連携がすごくうまくなったし、結構仲良くなれたかな……?

 その中でも、愛子さんの訓練の様子には驚かされた。愛子さんの能力はガッチガチの指揮官系で、ネモの艦長もやっている。訓練も必然的に指揮に関することだ。その時の愛子さんの口調が、いつものおっとりした雰囲気は一切感じさせない、頼りがいのあるきびきびした声だった。特に弾幕の発射命令なんて、俺がよく見ている、有名ロボットアニメシリーズに出てくる艦長を想起させる。

 訓練のほかにも、ネモの設備であるカラオケやスポーツ施設なんかでたくさん遊んだりもした。

 俺は小学校の時、友達作りに失敗してからというもの、他人と遊ぶ機会が皆無だったし、いつの間にかこっちから避けるようになってしまった。そんな俺でもこいつらとだけは大歓迎だ。

一緒にいて心から楽しいと思える、はじめての友達になった。

 いや、もしかしたらそれ以上かも……。

 それにしても、なんでこんなにも早く、仲良くなれる? そして、なぜみんなに同じ病気を患っているのとはまた違うシンパシーを感じるのだろう?






 四月も残り一週間となった頃。午前中、授業で難しい化学計算を説いている最中に、それは突然目の前に現れた。

『集合』

 宇宙警備隊に入ってからの、はじめての呼び出し。

 計算を途中で投げ出すのは(しょう)ではなかったが、緊急事態かもしれないので、行ってみることにした。それに、はじめての呼び出しでわくわくしていたのもちょっとだけあった。

 さっそく薄手の上着の胸ポケット手を入れ、そのままダカールフォンの『GS』マークを長押しする。






 視界が数秒ブラックアウトした。それが明けると、どこぞの高級ホテルのスイートルームとも張り合えるような内装と広さをもった部屋が視界に飛び込んでくる。ネモの二階にある、俺の部屋だ。

 部屋の設備は、まずキングサイズのベッド。辞典百冊以上は入りそうな本棚。重厚な木製の、申し分ない大きさを持ったタンスとクローゼット(俺はファッションに興味はないから、中はガラガラだが)。一人で使うには大きい長方形のテーブルに、イスが六つ。緑を基調とした三人がけソファと、それに合わせて低くしているもう一つのテーブル。ソファに対面している、やたらデカいテレビ。その下にあるレコーダー(全宇宙規格の映像保存法に対応していながら、地球のブルーレイも使えるようになっているらしい)。様々な機能を備えたデスク。明らかに地球のものではないが、地球人の目から見ても美しいと思える観葉植物。大きな窓には、きれいすぎるくらい青い地球が見える(この窓、実はディスプレイらしい。艦内放送とかに使われるようだ)。

 部屋に到着してから、俺はデスクのパソコン機能を呼び出す。するとデスクにホログラムで浮かび上がったディスプレイと、レーザーで映し出されたキーボードが現れた。それらを操作し、今回の呼び出しの概要を調べる。

 それによると、今回の呼び出しは愛子さんが招集したらしい。集合場所は食堂とのこと。さっそく食堂に行ってみることにした。






 食堂は、ネモの三階にある。

 また、ネモの食堂は食券制をとっている。つまり食券を買った後カウンターで自分から食事をとりに行くというわけだ。そのようなシステムでありながら、内装は都内の高級フランス料理店か、高級ホテルのレストランを思わせるほど豪華で、収容人数は数百名なんじゃないかと思われるくらい広い。メニューもそば・うどんからフレンチコース(ランチとディナーがある)までと、かなり極端にピンからキリまである。

 その食堂に入ると、すでにみんな揃っていた。

「遅れてすみません」

 時計を見ると、集合がかかってから数分しかたっていなかった。でも、全員そろっているところをみると、なんか自分が遅刻しちゃったような気になってしまう。

「おそいよー、ハクー」

「ル、ルミちゃん、わたしたちだって来たばっかりだよ。ハクさん、べつに気になさらなくていいですから……」

 口々に文句やら慰めの言葉をかけてくれる年少組の面々(文句とは言っても、冗談で言っている感じだ)。

 その中で一人、うつむいて黙ったままの人物がいる。俺と同じ大学の先輩でネモの艦長、愛子(あいこ)さんだ。

 その顔はうつむいたままだったので表情はよくわからなかったが、いつもの微笑みでも、訓練のときに見せた艦長モードの頼もしい顔でもないことは明らかだ。

「愛子さん、どうかしたんですか?」

「なにかあったの?」

「あの……ゆっくりでもいいので……」




 しばらく沈黙が流れた。

 そして愛子さんはおもむろに顔を上げると、震えるような声で何かをテーブルに出した。

「これを見て……」

 差し出されたのは、今日の新聞だった。

 その一面にでかでかと麻薬組織『麻布会』と警察の銃撃戦について記事が載っていた。そういえば、朝のニュースでもやってたな……。

 確か、麻布会が横浜のひっそりとした人気のない倉庫街で取引をしていたら、誰かのタレこみがあったのか警察が張り込んでいた。で、警察が突撃したら、銃撃戦に発展した。しかも連中のボスはこうなることを予期していたのか、逃げ道を確保していた。それどころかサツを殲滅(せんめつ)する策まで用意してやがったようだ。

 おかげで、警察側の人間のほとんどが死亡もしくは重傷を負った。組織側はほとんど無傷らしく、しかも逮捕者ゼロ。これが、一連の事の転末らしい。

「銃撃戦が、どうかしたんですか」

 俺の質問の後、再び沈黙が流れる。




「実は、私に弟がいてね。その子、例の組織にお世話になっているらしいのよ」

 組織にお世話になっている?

 まさか、麻布会の構成員とか……。

「私の弟、薬物中毒で。その薬、麻布会から買っているらしいの」

 なるほど、そういうことか。

 つまり愛子(あいこ)さんは、自分の弟を蝕んだ連中の事について相談したわけか。

「私の弟……(しょう)って名前なんだけど。その子、薬に出合ってからロクな生活してなくて。しかも全身傷だらけになって帰ってくることもしょっちゅうあるのよ。私……もう、翔のあんな姿、見たくない」

 今にも泣き出してしまいそうだった。



 一呼吸置いてから、

「みんなにお願いしたいのは、麻布会を壊滅させること……。壊滅させたからといって、翔が昔のあの子みたいに戻るとは限らない。でも、あいつらが許せない。このことは、私の勝手なお願いだから、無理に任務に参加してもらう必要はないけど……」

「なにいってんの! あたしたち、仲間だろ。断る理由なんてねーし」

「わたしも、愛子さんのお役に立てたら……」

「ですってよ。ちなみに俺も仲間のため、そして麻薬や銃撃戦から市民を守るため、協力させていただきますよ」

 当然ながら、このお願いを断る人は一人もいなかった。だって、まだ短い期間だったけど、ほぼ毎日を過ごした、仲間だから。

「ほら、そんなに泣かないでください。これから任務だって言うのに、指揮官がそんなんじゃどうにもなりませんよ。俺たち、先に会議室に行ってます。落ち着いたらいらしてください」






「みんな、遅れてごめんなさい」

『お待ちしておりました、艦長!』

 俺と(ゆう)、そしてルミが先に会議室で話し合って十数分後、愛子(あいこ)さんが入室した。

 その表情は、先ほどの泣き崩れた雰囲気とは打って変わり、艦長モードになっていた。

「さっそくだけど、話はどこまで進んだの?」

「ミシェルと連絡をとりました。麻布会についてできるだけ情報をくれるそうです」

「で、でも、提供できるのは施設の場所と衛星写真だけだそうです」

「インビー星科学でも、リモコンで調査ってかなりムズカシーらしーよ」

「そう。なら、ミシェルから情報が送られてから潜入計画を練りましょう」




5分くらい経っただろうか。ミシェルからデータが送られてきた。

「ふーん、東京の旧港湾倉庫街か。こんなところに本拠があったのね」

「別に場所は、かなり特殊な所でもない限り大して問題ではないです。俺が心配してるのは、この建物の構造ですね」

 衛星写真に写されていた麻布会の本拠地は、建築雑誌に取り上げられるんじゃないかというくらい滑稽な形をしていた。高い塀に囲まれ、その中に正五角形の建物が三つ並び、その建物の間を通路らしきものでつながれている。

 俺が心配していたのは、この五角形の形だ。

「五角形は人間が迷いやすい形です。米国国防総省(ペンタゴン)の外観が五角形であるのも、施設防衛上、敵を迷わすことはかなり有効だからです。

 それで、俺が心配しているのは、脱出についてです。敵地において、無駄に長居することは俺たちの存在に気づかれるリスクが高まります」

「確かに、それは問題ね……」

 潜入任務において、退路を確保することはかなり重要だ。苦労して手に入れた情報も、持ち帰らなければ意味はないのだから。

 ところが、この『退路の確保』という問題は、意外とあっさり解決した。

 優がおもむろに声を出し、

「あの、ダカホをいじってたら見つけたんですけど、この『ウォーク・メイク・マップ』という機能でその問題を解決できると思います」

「えっ、そうなの」

 驚きの声を上げる俺。

 さっそくダカホを操作すると、あった。

 どうやらこの機能、使用者が歩いた場所を記録していき、勝手に施設なんかの地図を作ってくれるらしい。しかも、記録された範囲でなら、退路のナビゲーションもやってくれる便利な機能だった。

 (ゆう)は、いじってたら、なんて言ってたけど、きっと眼を皿にして探してくれていたに違いない。

「優、ありがとう。これで何とかめどが立ちそうだよ」

「あ……お役に立てて、うれしいです、ハクさん」

 優、かなり嬉しそうだな。俺はさらっと礼を述べたけど、下手したら暗礁に乗り上げかねなかった事案だ。いくら感謝しても足りないよな。

「メドがたったところでさー、スタメンはどうすんの?」

 一応問題点は解決したから、次はメンバー選出だよな。

「注文を付けるとなると、メンバーはできるだけ少ないほうがいいってことぐらいですかね。潜入の定石ですよ」

「それは言えるわね。といっても、現場で動けるのは私を除いたあなたたち三人だけだから、全員出たとしても少人数であることに変わりはないのよね……」

 艦長はしばし思案した。そして、

「結論が出ました。あなたたち三人で潜入してきなさい。それがベストであると判断しました」

 俺たち全員、艦長の事は全面的に信頼していた。

 それは彼女の出す雰囲気だけではない。指揮官としての才能は、訓練中に証明されている。

 それに、仲間だから。

『了解しました、艦長!』

 だから、俺達三人は即答できた。


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