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プロローグ

「さて、どうするぅ?」

『………』

 俺達四人は、椅子に座らされたまま、沈黙していた。目の前に立っている、緑色で短髪、全身真っ白な服に身を包んだ男が提示してきた事柄を、飲むか拒否するかを考えているのである。

 今いる空間は、妙なコンピューターらしきものが壁一面に置かれていて、怪しい光の点滅を繰り返していた。

 一言で言うなら、まるでUFOの中みたいだった。

 それもそのはず、実際にUFOの中だった。






 さかのぼること数十分前。

 俺、星野(ほしの) (はく)は、普通の大学一年として、初授業を終え帰宅している最中だった。ちなみにどこの大学で、どういう学科かというと、南洋大学理工学部応用化学科である(ここ、重要になるから覚えといてね)。

 で、ちょうど大学と駅の中間地点に差し掛かった時、突然、どこからともなく強烈な光を浴び、気が付いたらUFOの中だった、というわけ。

 そこには、すでに三人の女の子が俺と同じように椅子に座らされていた。

 そして、目の前には緑の髪の男。髪以外は地球人と同じ。いわゆる人間型(ヒューマノイド)というやつか。

 その男の第一声が、

「ようこそ~。長距離宇宙船『ノーチラス』へ~。僕がインビー星からやってきた宇宙警備隊地球支部長、ミシェル・マストンで~す! どうぞよろしく」

 なんか、わりとテンション高めの人(?)っぽい。

 そのインビー星人は、さらに続けて、

「おめでと~~~。君たちは厳正な審査の結果、宇宙警備隊地球支部隊員の第一号に選ばれました!」

「あの~、話が全く読めないのですが~、位置から説明してもらえます~?」

若干暴走気味に話し続ける宇宙人に口をはさんだのは、俺の右隣のそのまた隣に座っていた、黒の長髪で、黒いチュニックにジーンズをはいている、俺と同じ年頃の女性だ。また、全身から母性オーラが感じられる。そして、終始アルカイックスマイル。

「あ、ごめんね~。地球はまだまだ異星との交流が盛んじゃないから、一方的に話しても理解不能だったねぇ~。じゃあ、どこから説明しよう?」

「その~、インビー星からお願いします~」

 なるほど、まずは核心に迫る前に、外から攻める作戦か。あの人、口を開くのも躊躇するような空気の中、そこまで考えているとは。おっとりした口調の割に、かなり頼りがいがありそうだ。

「インビー星というのはね、地球から見て馬頭星雲の真裏にある銀河に属している星で、宇宙一、科学が進んでいるといわれる星なんだ~。このノーチラスも、インビー星で開発された最新鋭機なんだよ」

なるほど、そんなすごい星だったのか。それに、馬頭星雲の裏なら、あの馬の頭みたいなガスの(かたまり)に邪魔されて、現在の地球の科学力では観測できなかったという理屈が成り立つ。

「インビー星が、地球を侵略しに来たのか!」

 俺の左隣にいる、どっかで見たような制服を着た、赤毛でポニーテールの女の子がかみつくようなセリフを放った。この子、かなり元気がある、エネルギーの塊みたいだ。

「いや~、違うよぉ。そのことについて今から説明するけど、重要なことだから、よーく聞いてるんだぞ?

 君たち地球人もこのくらいのことは知っていると思うけど、宇宙は広い。それだけに事件や事故が多いわけだ。たとえば、一般的な窃盗や殺人、密猟、海賊、テロとかとか。事故だと、危険な燃料漏れや船内大気の流出とか。それらに対処するために作られた治安維持兼災害救助組織、それが宇宙警備隊だ。

 で、このたびめでたく地球支部ができた、というわけさ」

「それで、その組織に俺たちが所属したとして、何をすればいいんだ?」

 俺はなんとか話せる心理状態にはなった。でも、どこかしら緊張が続いてるんだよなあ。

「いい質問ですねぇ! それは、まあしばらくは地球近辺を通る船なんてわずかだし、事故もそうそう起こるもんじゃないから、地球のほうで犯罪なんかの取り締まりをやってくれればいいよ~。

 それに、まだこっちじゃ戦争とか、まだまだ宇宙社会に参加させられないほど野蛮なことしてるみたいじゃない」

 最後のセリフ、気さくな口調の中にまじめな雰囲気が漂っていた。それに、俺の心に重くのしかかった。

「あ……あの、こんなこと聞いていいのかわからないんですけど、ど……どうして私たちを選んだんですか?」

 右隣に座っている、茶髪のショートヘアの少女が、勇気を振り絞って言った。ちなみに、さっきの威勢のいい女の子と似たような制服を着ている。

「ああ、その理由は二つあるんだ。一つは、さっきも言ったように地球はまだまだ宇宙社会に参加させられないから。下手に募集をかけると、インビー星の最新鋭科学を兵器とかに悪用されかねないからね~。だから、秘密を守れる人物をまずは選定したんだ。

 もうひとつは、君たちに配備する武器の適正に関する事なんだ~。たぶん、そのことで悩んだり、あるいは今まで当然だと思っていたことがあったんじゃない?」

 その言葉に、一瞬ドキッとした。たしかに、俺はある症状に小学校から悩まされ続けていたからだ。

 インビー星人は、手に紙を持って、一人ずつ眺めながら、

「えーと、そこの黒髪のロングヘアーのあなた。名前は()(とう) 愛子(あいこ)。南洋大学理工学部応用化学科二年。十九歳。物心つく前から首が長くなる感覚が起こる。

 茶髪ショートの君、十朱(とあけ) (ゆう)。私立チェアー学院中等部の一年で十二歳。八歳の時から、ギザギザしたものや四角、あるいは丸くて、黒いチカチカしたものが見える、いわゆる視野欠損を発症。そのほかに幻覚が見える。

 赤いポニーテールの女の子、(しゃく)() ()()。同じくチェアー学園初等部四年生の十歳。五歳のころから、体が大きくなったり小さくなったりする感覚がする。

 最後に残ったお兄さん、星野(ほしの) (はく)。七歳のころから体が宙に浮く感じがする」

 なんとこの男、それぞれ個人の名前や所属学校だけでなく、時々感じる症状まで調べ上げていたのだ。これがインビー星の科学力というものなのだろうか?

 しかしそれ以上に驚いたのは、みんな南洋大学理工学部に縁のある人物ばかりだったことだ。実は私立チェアー学院すごいネーミングは、南洋大学理工学部キャンパスを通学路に指定している。だから、俺はその子たちの制服に見覚えがあったのか。

 インビー星人のマストン氏は、個人情報が書かれていると思しき紙の束をたたきながら、

「君たちが抱えている症状、地球では『不思議の国のアリス症候群』と呼ばれているらしいね~。しかも原因不明。インビー星でも、ようやく半分わかった程度なんだ~。

 でも、一つだけ面白い事実がある。それは脳波に特徴があるということだ。そして、特殊な装置で少し後押ししてやれば――人によって得意分野はあるものの――いわゆる『超能力』ってやつが使えちゃうんだよね~」

「つまり~、私達に配備される装備で超能力を発動させて、それをうまいこと使って平和を守れってことですよね~」

 芙橙先輩が平然と話している。しかも最初から表情一つ変えていない。ほんとに頼りになる先輩だと思った。

「そゆこと。まあ、今君たちに行うべき説明はこれくらいかな。それじゃあ、宇宙警備隊に入隊して~くれるかな?」

 どっかで聞いたようなリズムで俺たちに同意を求めるマストン氏。

「あ……あの……もし、断った場合は……」

 十朱(とあけ)さんがおそるおそる聞いてみる。

「そしたら、この場にいる時の記憶を消して元の場所に返すよ~。無理強いはしない。

 で、どうするぅ?」

『………』






 これが、最初のシーンってワケ。

 しばらく押し黙ったのち、(しゃく)()さんが勢いよく立ちあがって、

「おもしろそーじゃん! あたしのチカラ、見せてやる!」

「わ……わたし、どこまでできるかわからないけど……頑張ってみます。いまの自分を、変えたいんです」

「私も~、微力ながらお手伝いしましょう。その力で、救いたい人がいることですから」

 あら、意外と女性陣は決断がお早いようで。あと、芙橙(ふとう)先輩、最後のセリフに凄みがあった。何かあったんだろうか。

「で、ハクくんはどうするぅ?」

「う……」

 正直、決めかねていた。理由ははっきりしない。ただ漠然と、何かを恐れているようだった。

 けど、何を恐れているのか。自分でもわからない。

「ハクくん。実は君を選ぶときに、いろいろ調べさせてもらったんだよね~。そしたら、君のおじいさんのことに目がとまったんだよね。確か、ヒロシマって街で、うちらの星では野蛮で、マナーとして禁止されている『原子爆弾』っていう兵器で被爆して、かなり苦しんだみたいだねぇ~」

「な……」

 びっくりした。

 なんで俺のじいさんのこと知ってんだ? と思いつつ、まあだいたい察しは付いた。

 どんな方法を使ったかは、詳しくは知らないけど、確かにそいつの言う通り、俺のじいさんはヒロシマの被爆者だ。しかも、決して忘れることができない、幼かった俺には強烈すぎる思い出だ。

 じいさんがヤマを迎える際、だいたいの家がそうするように、俺も、俺の家族も、親戚も最期をみとるためにじいさんの家に行っていた。その時の俺はまだ四歳。

 そんな幼いときに、後遺症で体が弱りきっていたじいさんの姿を見れば、誰だって何かしらの影響を受けるだろう。

 その後、小六になって歴史の勉強を始めて、そして知った。原爆の悲惨さや、投下を決定せざるを得なかった社会的状況のこと。

 それで、俺の中にある感情が芽生えた。

 ――戦争を、抹殺する――。

「そのあといろいろあって、君は思った。戦争を、抹殺するって」

「そこまで調べ上げてたのか……」

「まあね~。それで、だ。君がここでイエスと答えてくれれば、君は晴れてその目標を達成できる力を得ることができるワケだ。もちろん、しょっぱなから着手できるわけではないけど」

 少し考え込んだが、

「……ここまで言われちゃあ、しょうがないな」

「じゃあ、イエスってこと?」

 そう聞かれて、首を縦に振る。

「おめでとう。これからよろしくね~」

「あ、あの……足手まといにならなければいいんですけど」

「いっしょにがんばろーぜ!」

 俺が宇宙警備隊への参加を表明すると、女性陣が一斉に駆け寄ってきた。意外と順応早いんだな。

 そして、俺が感じ取ったこの雰囲気は、過去に諸事情があって人見知りになってしまった俺にとって、久しぶりにできた安息の地になることを予感させた。

「さて、全員が晴れて宇宙警備隊地球支部隊員になったところで、説明は次の段階に移るよ。でも、その前に渡すものがあるけどね~」






 マストンが指を鳴らすと、天井から何かが下りてきた。

「まずは、これを着てね」

 渡されたのは、黒いコートだった。一つ変わっていたのは、背中の中央に、白い円が描かれていたことだった。

「これがさっき言った脳波増幅装置となるモノだよ。防弾チョッキも兼ねてるから。ハク~、試しに、この五キロのダンベルを念力であげてみて」

「……わかった」

 一瞬何言ってんだこいつとか思ったが、どうもここまで来ると、なんでも本当にできると信じてしまうから不思議だ。

 で、だまされたつもりで『上がれ』と念じてみると、

「お? おー、こりゃすごい」

「やったね、星野(ほしの)くん!」

「魔法使いみたいだなー」

「す、すごいです、星野さん」

 自分も驚いたが、女性陣が黄色い声援を送ってくるあたり、ほんとにスゴいことらしい。

「どう~? これがハクの能力、『サイコキネシス』だよ。コンピューターが計算した結果、今は半径三メートル、最大重量三〇キロまでしか動かせないけど~、訓練次第でどんどん強くなるぞ。

 それと別件だけど~、ここにいるルールとして、名字で呼ぶのは禁止~。ファーストネームかニックネームで呼び合うこと。この仕事、チームワークが命だからさ~。仲良くするに越したことはないんだよね~」

 なるほど、これがおれに与えられた力か。悪くない。

 それと、マストン……いや、ミシェルが言った最後の言葉、言われてみればその通りだな。ほかのみんなも返事をしたり、うなずいているあたり、賛成なんだろう。

「次に、(ゆう)ちゃん。ハクに、いつも見えてるチカチカするものを念力で見せてくれない?」

「は、はいっ。こ……こう、ですか?」

 なんと、俺の目に、黒くてチカチカする、丸やら四角やらギザギザものやらが見えた。しかも、そいつらが視界を(さえぎ)ってやがる。

「なんだ……?チカチカするものに視界を遮られてる……」

「えっ?」

「そう。これこそ、優ちゃんの能力、『念写』だよ」

 視界が回復してくる頃、ミシェルの説明に疑問が湧いた。

「ん? 確か念写って、写真とか紙に自分のイメージを焼きつけるものじゃなかったのか?」

「それもできるけど、優ちゃんの場合は他人の脳内にイメージを焼き付ける術に長けているようなんだよね~。だから、実際は幻覚を見せて敵を翻弄して、味方のサポートに回ることが多いんじゃない?」

「はいっ。がんばります」

 (ゆう)の言葉の節々に緊張が見えるものの、全身にまとっているオーラは決意に満ちたものだった。

 このチーム、俺が言うのもなんだけど、かなりいいチームになると思う。だから、緊張もいつかはほぐれるだろう。

「次はルミルミ、体を大きくしたいと思ってごらん」

「あ、あたしのこと? はーい、やってみる!」

 元気いっぱいに返事をしたルミ。

 しばらくすると、なんとガチで体が大きくなったじゃありませんか!

 しかし、よくよく考えてみると……体が大きくなるということは……服が……破ける?

 ならば、善は急げ。とっさに目をそらす。

「はは、ハクはなかなか紳士だねぇ。インビー星の科学力、舐めてもらっちゃあ困るよ。体のサイズ変化に合わせて服も変化するようになってるから」

 うわぁ、かなり恥ずかしい。顔が熱くなるのがよくわかる。しかも、まわりでくすくす笑ってるのが聞こえるし……。

「それはさておき、ルミルミの能力はサイズ変化だよ。体全部だけじゃなく、一部分だけサイズを変えることもできるから。任務中では、体を小さくしてスパイしたり、攻撃手段としても有効な能力であるのは間違いないね~」

「よっしゃー。とりあえず、あたしに任せておけばジョブだな」

 すごい自信。攻撃性としては俺の能力もあるっちゃーあるけど、どうもまだ実用できるようなレベルではないからな。

 そのことについては認める。でも、これまでの言動とかから察すると、ルミのやつ、調子に乗ってドツボにはまるようなことになりそうで心配だ。

「最後に、愛子(あいこ)さん。将棋はやったことある~?」

「あ、はい~。ほんの少し~」

 先輩だけさん付けなんだ。もしかしたら、あの母性オーラに、なにかかなわないところでもあるのだろうか?

 それと、将棋はインビー星にまでその名を轟かすほど、宇宙でメジャーなゲームなのだろうか?

 「それじゃあ、この名人レベルの強さを誇る、将棋ロボットと対戦してくれない?」

 先輩はうなずくと、すぐに対局が始まった。

 しばらくこう着状態が続いた後、先輩が小さく叫ぶ。

「あっ」

 それからというもの、あれよあれよという間に先輩の持ち駒が増え、完全勝利を収めることになった。

「なんだったのでしょう~? なにやら、急に先の展開が見えたんです~」

「それが愛子(あいこ)さんの能力、『全把握』。戦況を全て把握でき、先の展開まで読める。ある種の予知能力とも言えるね~。でも、この能力も全能じゃない。今はきちんとルールが定められて、しかもターン制だから考える時間もあったからね~。

 でも、任務はリアルタイムだよね。つまり、考える時間も限られているんだ。しかも愛子さんの超能力が未熟で、相手がかなりの策士だった場合、まったく能力を発揮できなくなることもあるんだよね~。そこのところを注意してくれない?」

「よく心にとどめておきます~」

 ところで、今さらながら気になることが一つ。

「そういえば、コートの後ろの丸はなんだ?」

「そ……そういえば、気になります」

「ああ、それはアダプターだよ~。これからみんなの任務中のデータを集めて武器を開発する計画なんだけど、その武器と接続させるのが、その丸なんだ~。でも、例外的に愛子さんだけはすぐに使ってもらうよ~。それがないと動かないから」

「それはなんでしょう~?」

「それは、後のお楽しみ~~~。まだ重要なことがあるから。じゃあ、次に渡すものは、これだ!」

 ミシェルが、また指を鳴らす。






 次に天井から降りてきたのは、黒いスマートフォンだった。後ろに『GD』のマークが刻まれている。

「これは、みんなに普段から持ち歩いてもらいたい宇宙警備隊専用通信機『ダカールフォン』、通称『ダカホ』だ。この中には、同時通話、暗号解読なんかの任務に役立つ機能が満載してある。必要に応じて機能の更新もできるよ~」

「へー、すげーじゃん。こーゆーケータイ、ほしかったんだー」

「あ、こいつは『量子通信システム』っていう、地球じゃあ使用できない通信方式だから、日常生活では絶対に使えないよ~。それに情報漏えいとか困るし。この仲間内だけだね~」

「なんだー、任務だけなのかー」

 ルミは明らかに残念そうなセリフを口にしたが、実は俺もちょっとだけ残念だ。(ゆう)も愛子さんも口には出していないものの、ビミョーに残念そうな表情をしている。

「あと、警備隊の所属を示す、身分証明機能もあるよ~。一般的な星には法的効力があるけど、辺境の星はそういうことを知らないしなぁ。使うことはまずないだろうね~。

 一番使うのは、『ライブラリー』だね~。全宇宙の事とか、活動拠点の事とかが結構細かく載ってるから、わからなくなったら開いてみてね~」

 辺境の星とかハッキリ言われるとカチンとくるが、正論なので抑えた。

 そういえば、あの事はどうなんだろう?

「充電はどうする?」

「あ~、それは活動拠点の充電装置じゃないと充電できないんだ~。そのケータイ、超小型の、このノーチラスの動力にも使われている発電方式だから~」

「そ、それはなんだ!?」

 すごく興味があった。こんな未知のエネルギーのこと。おそらく、この時の俺は、引くほど食いついていたんだろうな。

「『物質・反物質融合炉』だよ~。地球にも一部のSFで表現されているだろうし、なんかごく少量で、実験レベルならできるらしいじゃん? インビー星は、実用化されているよ~。ノーチラスに搭載されている、航行しながら太陽風で原料を製造できる装置もあるんだ~。

 で、ケータイの充電の話だけど、そいつの中にもエネルギー材料を入れるタンクと、超小型の融合炉があって、そいつら使ってエネルギーを取り出しているのね。で、その材料を入手するには、地球じゃ無理だから活動拠点でなくちゃダメ、というワケ。

 でもでもでも、二十四時間ぶっ続けで使っても一年は持つから、そうそう電池切れ起こすもんじゃあないけどね~。それと、地球のロケット砲とか、威力の高い重火器のクリーンヒットを受けても傷一つ付かない素材で出来てるから」

「それを聞いて安心した」

「ご理解いただけて、どうもありがと~。それでは、このダカホについて最重要な事項を説明するよ~。裏にある『GS』マークだね~。こいつを長押すると、いつでもどこでも、拠点に移動できるよ~。でも、任務中は使用不可だから~。これは絶対絶対絶対覚えておくように。

 拠点への呼び出しも、ダカホが活躍するね。呼び出し指令を受けると、こいつからみんなの脳波に干渉する電波が出る。すると君たちは、『集合』という文字の幻覚を見る。そんとき、さっきいった拠点移動操作をしてもらえばいいから~。

 呼び出しは僕だけじゃなくてみんなもできるからさ、なんかあれば遠慮せずに呼び出しちゃえばいいよ~」

「そ、素朴な疑問なんですけど、私たち、全員学生ですよね……? ですから、いきなり集合かけられても、いつでも集合できるわけでは……。そ、それと、『GS』の意味はなんでしょう?」

 あ、それは一番聞きたい。

「まず、第一の質問から~。そのことについても心配ナシ! ワープした瞬間に分身ができて、君たちの日常生活を代わりにこなしてくれるし、また元の場所に戻った時に、分身の記憶を自分に移すから、学校の授業にもきちんと付いていけるよ~。

 二番目の質問。意味は宇宙警備隊のフランス語の『Garnison d’espace』の略なんだよね~」

 なぜフランス語? と思ったが、なんか心当たりがあるので問いはしなかった。だって、この船の名前が『ノーチラス』であることを踏まえれば――。

「じゃあ、ダカールフォンについての説明はこれくらいだね~。それじゃあ、君たちの拠点に移動して、その説明に入ろうか~」

「えっ……こ、ここが私たちの拠点じゃないんですか?」

 (ゆう)が驚いた表情で問う。俺もビックリした。

「ノーチラスは地球支部設営用の装備しかないんだ~。というより、ノーチラスそのものが基地の核になるんだよね~。たしか予定だと、火星と木星の間、どちらかというと火星よりにある準惑星『ケレス』の地下にこいつを埋めて、そこから枝分かれ方式で基地を拡張するんだったような」

「それでいーじゃん! なんで基地に入っちゃダメなの?」

 ルミが不服そうに詰め寄る。

「別に立ち入り禁止とは言ってないよ~。補給とかあるし。それに、ほら、さっき言ったじゃん。活動地は地球上が中心だって。だから、活動拠点も、移動できるものがいいんじゃないかと思って、わざわざインビー星で開発して、ノーチラスで引っ張ってきたんだから。そいつが、これ」

 ミシェルが指パッチンすると、彼の後ろにある巨大モニターが作動する。

 それに映し出されたのは、半球っぽい、微妙に角ばってる土台に、メルヘンに出てきそうな城がのっかったような、スカイブルーを中心としたカラーリングの建物(?)だった。

「これが、君たちの活動拠点、地球圏用航行・強襲戦艦『ネモ』だよ~」






 俺たちはワープ装置に乗せられ、会議室らしき場所に飛ばされた。

 内装は、地球人の感性から言っても豪華で、ベルサイユ宮殿を彷彿とさせる。壁は木製っぽいが、ピカピカに磨きあげられ、黄金に輝いている。ところどころにシックな木目の枠みたいなのがはまっている。

 部屋の中央に、高そうな円卓と、赤いクッションがはめ込まれた椅子が12個置かれていたので、俺達はそこに座った。

「ようこそみなさん! 地球圏用航行・強襲戦艦『ネモ』へ!」

「いや、また改まって紹介しなくてもいいから」

 テンション高めのご挨拶に、ため息交じりに突っ込む俺。

 ちなみにほかのみんなは、好奇心旺盛な目で周りを見ている。

「さて、これからみんなの活動拠点、あるいは生活の場になるんだから、まずはこの艦のスペックを説明しないとね~。まず巡航速度だけど、その気になればマッハ3くらいは出せるよ~。でも負荷がかかるし、中の人間にもGがかかるから、できれば艦隊戦とかで回避するぐらいにとどめてほしいのね。目安は、旅客ジェットの3分の1くらいで」

 旅客ジェットって、よく地球の事知ってるよなあ。ま、俺たちの個人情報を調べ上げられたんだから、その気になれば楽勝か。

「エンジンは、ダカホと同じ貯蔵型物質・反物質融合炉。艦の全機能をフル稼働させて週一回の艦隊戦をヤッても一年は持つけど、たまには基地に帰って補給してね~。僕もたまにはみんなの顔を見たいからさ。

 装甲は、宇宙一頑丈な素材といわれる「ヨハネウム」。地球の兵器じゃあ頑張ってもかすり傷ぐらいしかつかないね。振動は保証しないけど」

 そこがどうも心配になってくるな……。

「こいつは普段、地球の周回軌道を回るようにしてある。ついでに言うと、光学迷彩とジャミングが付いている。天文観測所とかで観測されないから安心ていいよ~。武装は結構威力のあるのがたくさんあるけど、これだけは説明してたら時間なくなるから、後でライブラリー見といて」

 いや、そこ大事だろ!

「それで内部構造だけど~、ネモは五層構造、つまり五階建てってこと。それぞれのフロアの説明は、まず一階は出入り口になるドック、訓練シミュレーター、準備室なんかの任務関係施設がある。二階はクルー、つまり君たちの部屋だ。ワープすると到着する場所でもある。ちなみに、トイレ・風呂付。三階は食堂、売店、それとカラオケ、大浴場、スポーツジムなんかのアミューズメントがそろっている」

「えっ、カラオケがあんの?」

 ルミ、スゴイ食いつきよう。カラオケがそんなに好きなのか?

「まあね~。さっき艦の機能として光学迷彩とジャミングがあるっていったでしょ? それ使って長期潜入とかできるんだな。んでんでんで、そうなるとクルーのストレスがたまるっしょ? そうならないように娯楽がそろってるってワケ」

 ああ、納得。確かにストレス溜まって暴れて、敵に見つかったら元も子もないもんな。

「あとライフラインとして重要な設備も三階にあるから~。水道トラブルとか起こったらそこも調べるといいんじゃない? で、四階は会議室、つまりここと、火器管制室、あと情報処理室があるから~。ラスト五階は、ブリッジ。要は指令室だな。艦長は任務のとき、そこにある艦長用のシートに座って指揮するんだ~」

「そ……それで、艦長はどなたですか?」

 みんな一斉にきょろきょろとあたりを見回す。

「辞令交付はあとのお楽しみってことで」

「あの~、この戦艦はとても素晴らしいということはわかりましたが~、それを維持していくのは、四人では少し無理がある気がします~」

「いい質問ですねぇ! 実は、少人数でも艦を動かせるように準備はしてあるよ~」

 その言葉とともに柏手を打つと、扉から白い箱上の、何かのペットロボットみたいなのが飛び込んできた。

「オヨビデショウカ、オヨビデショウカ」

 典型的なロボットみたいな声だった。

「こいつが、日常の雑務から火器管制、さらには艦の管制までやってくれる万能サポートロボット、『コンセイユ』だよ。ちなみに、ネモにはほかにもたくさんコンセイユがいるんだよね~。カラーバリエーションも豊富だぞ」

「それは、もはやサポートを超えているんじゃ……」

 感心にも似たツッコミを禁じえなかった。

「それじゃあ、辞令を交付するからブリッジに行こうか」






 ネモの階間の移動手段は、階段とエレベーターがある。俺たちはエレベーターで五階に向かった。

 廊下やエレベーターの内装も、会議室と同系統のデザインだった。廊下の中央にはふかふかの赤いじゅうたん。照明もちょうどいい明るさだ。照明についてもっと説明すると、要は小型シャンデリアだ。

「さあ、着いたよ~。ここがブリッジだ」

 入った場所は、艦長席らしき場所の左隣だった。前方に行くほど、階段状に下がっていくから、これは艦長席だと思った。。

 艦長席以外の席には四角いロボット・コンセイユが占拠しており、ネモをコントロールしているのが一目で分かった。

 やはり、ブリッジも会議室と同じ豪華さだった。

 唯一違うとすれば、シャンデリアがはめ込み式で、吊るされていない点だった。被弾して揺れた時に、シャンデリアが落ちないようにするためだろう。

「じゃあ、辞令交付、いきま~~~す! 地球圏用航行・強襲艦ネモの艦長は………」

 一斉にごくりと唾を呑む。

()(とう) 愛子(あいこ)さんに任命します!」

「あら~、私ですか~?」

一斉に拍手。

 当のご本人は、最初に見た時と変わらずアルカイックスマイル。口調も大して変わっていない。

「おめでと~~~。それじゃあ、艦長席に座って。そうそう。それで、コートのアダプターと、この座席型武装パックを接続して……」

「これで、どうなります?」

「こうすると、艦の指令システムに愛子さんの全把握が加わる。んで、愛子さんが先読みした戦況が指令システムに表示される。この表示はダカールフォンを通じて全隊員に配信されるから――」

「確実に勝利をつかめる、ということか」

 といいながら、愛子さんの能力にも限界があるのは知っている。けど、それでも信用することにした。ようやく手に入れられる、仲間かもしれないから。

「じゃあ愛子艦長、さっそく出発してネモを地球周回軌道に乗せて~~~くれるかな?」

「了解しました~」

「そこは『いいともー』って言ってくれるとありがたかったんだけどな……」

 あ、あの時に期待したリアクションが取れなかったもんだから、ここで再チャレンジしたのか。その再チャレンジも失敗したから、少しヘコんでるっぽい。

「みなさん~、発進の前に、一つだけお願いがあります~。任務のとき、私の事は『艦長』って呼んでくださいね~。それじゃあ~、ネモ、発進~」

『了解しました、艦長!』

 俺も含め、ノリノリで返事するクルー一同。

 横に目を向けると、さらにヘコんでる支部長の姿が。

「そうだ!解散の前に一つだけ。給料の事だけど」

 立ち直り早!

 しかも給料って、いきなりリアルな話になってきたぞ……。

「給料は、手取り月50万Lib(リーブラ)。ボーナスはお盆と正月前の2回あって、手取り100万Libね。ちなみに、1Libは地球の日本円に換算して1円だから~」

 ボーナスシステム、日本準拠かよ! しかも為替レートもわかりやすい!

 でも、そのツッコミが声に出る前に、その破格の給与に目を丸くした。みんなも目を丸くして、声にならない音を出していた。

「あー、地球の場合、そううまい話ではないんだよね~。地球も辺境の星だからさ、秘匿義務ってのがあるじゃん? そうなると、君たちみたいな学生が、50万もらって豪遊しているとなると怪しまれるでしょ? だから、円に変えられるのは月5万までだから。ヨロシク!」

「えー、5万までかー」

「まあまあ~、そう贅沢言わないの~」

「そ……それでも、十分すぎますぅ」

「……まあ納得できる」

 口々に不満やらなんやらが出てくる。

「でも、基地やネモでの買い物はLib(リーブラ)だから。それに、宇宙での共通通貨はLibだし~。いつか外宇宙に出ることがあれば、使えるから~」

 そういう日が来ればいいけどな。

「じゃあ、今日はこれで解散ね~。あと、任務ないときでもこっちに来て訓練してよ~。ぶっつけ本番なんて、かなりアブないから。それでは、これにてドロン!」

 古っ!

 ドロンて、バブル全盛期に流行った死語じゃないか。

 いったい、どれくらいの間、調査してたんだろう……。






 なにはともあれ、ミシェルがワープで姿を消し、予想外に長い一日も終盤を迎えようとしていた。

 みんなも遅いということで、今日のところは帰ることにした。

 俺が帰ろうとした時、愛子(あいこ)先輩が話しかけてきた。

「お疲れ様~、ハクくん」

「あ。お疲れ様です」

「帰る前に~、少しいいかな~?」

「はい、何でしょう?」

 少し間をおいて、

「私~、感じることがあるんだけど~、あのフランス人SF作家に~、シンパシーみたいなこと、感じない?」

「ああ、それは薄々感じていました」

 最初に拉致られた時から感づいていたけど、この戦艦の名前を聞いて、それは確信に変わった。

「ジュール・ヴェルヌ――」

 そう、SF好きでも、大して知らないヤツでも、名前くらいは知っている。『海底二万マイル』や『十五少年漂流記』の作者と言えば、誰もが「ああ」と納得する。

 ちなみに大砲をブッ放して月に行く、なんていうワイルドな設定を考えた人でもある。

 ヴェルヌ関係の名前が出てくるのを思い出してみると、ミシェルが乗ってきた『ノーチラス』は『海底二万マイル』に出てくる潜水艦の名前だし、この戦艦『ネモ』も、同じ作品に出てくる、キーマンとなるキャラクターの名だ。

「私もそう思ってた。あとの二人はまだ若いから~、知っているか知らないけど~。これって~、何かの偶然かしら~?」

「それか、地球調査中に偶然、インビー星人がこの作品に出合い、ハマったか。そのことは、機会を見て問い正しましょう」


はじめまして、四葦二鳥と申します。


小説を書くのは数年前から始めていましたが、結構ストックが溜まってきたので投稿させていただきました。


この作品は、私の初長編小説です。至らぬ所がたくさんあるとは思いますが、なにとぞ、温かい目でお付き合いいただければと思います。

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