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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
シェルター
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 ホワイト達も居た理由は、何があったのかを説明する為らしい。

 それを聞いて、何で?と思った俺は、間違っていない筈だ。だってそうだろう?俺も小人もホワイトも部外者だ。古代図書館に侵入した件で責められることはあっても、アカデミーのトップに状況を説明してもらうような立場ではない。

 もしかしてあれか、全部話してから、でもそれとこれとは話が別だよね、とでも言い出す気か。


「聞きたくねぇな……」


 思わず呟いた本音。当たり前である。誰が好き好んで厄介事に関わろうとするか。

 俺の呟きを聞き咎めた吸血鬼は、ぴくりと眉を跳ね上げた。腕を組む、そんな動作でさえ美しい男は言う。


「お前にも無関係とは言えないだろう?」

「無関係だが?」


 嫌味と呆れ混じりの言葉に、直ぐ様言葉を返せば、開いた口を閉じる吸血鬼。こういうのは、早めに否定しておかないと、ずるずると巻き込まれていくのは経験上わかっている。


 ――だって本当に関係ないじゃないか。

 今回、俺が下まで行ったのは、ソシ・レを助け……いや、無様な姿を晒していたら笑ってやろうかと思ったからだ。悪魔の件はともかく、聖女と戦ったのは、頭が天国な暴力女からソシ・レを……じゃない、自分の身を守る為だ。

 最後はどこかに落としてきたが、邪魔な聖女を生かしたまま持ち運んでいたのだって、あれが原因で大陸教が痛い目を見ればいいと思ったからであって、アカデミーVS大陸教みたいなのに関わるつもりでやった訳ではない。ましてや、ソシ・レに褒められたいとかじゃないからな!


「そういや聖女は?何か喋った?つか、話せるようになった?」

「…………見張りの隙を突いて自害した」


 その言葉に眉を寄せる。あれだけ頑張って結果がそれか。

 あの時は有り合わせの材料しかなかったが、それでも神経が繋がらないように縛り上げた筈だ。それに、アカデミー側でも拘束し直すだろうし……それをする前にやられたのだとしてら、間違いなく見張りの怠慢だろう。

 それに返ってきたのは溜め息だった。


「……寧ろ、それが原因だと何故気付かん。お前はあの状態が哀れだとは思わんのか」

「あいつらは人間だけど人間の括りに入れるつもりはない」

「それには同意する。だが、それを知らない者からすればどうだ?」


 つまり、聖女じゃなかったらを考えればいいんだな。

 血に染まった衣服があちこち破れている美女。片腕は千切られ、残る手足も傷だらけで、恐らくもう一人では生きていくことのできない美女。手足口と革と襤褸布で拘束された美女。……成る程。


「色香に騙されたのか」

「あれを見て何故その感想が出せる」


 汚物を見るような目を向ける吸血鬼。心なしか、ホワイトとパセリが俺から離れた気がする。喧嘩売ってんのか。


「……聖女の回復力について話は聞いたことはあるが、見たことはないからな。このままでは死ぬと思った見張りが、治療の為に拘束を解いて」

「それで死なれた?意味ねぇな」


 死なせない為の行動だったのかもしれないが、結果的にそいつが殺したようなものだ。くだらない。変に仏心なんて出すからそうなる。


「犯人には死なれ、裏切り者も殺され、全ては闇の中。挙げ句に古代図書館は進入不可とくる。我々は完全に敗北したと言っていいだろう」

「あ?裏切り者って何の話だ」


 いや、前にソシ・レの話に出てきた奴なのだろうが、殺されたってどういうことだ。

 怪しいと思っていたのなら、監視くらいは付いていた筈だろう。護衛とは違うだろうが、そうやすやすと口封じを許すとは思えないが……と思ったが、聖女を死なせるような連中なら仕方ないのか。役立たずばかりじゃねぇか。だからソシ・レばっかり無駄に仕事が……。

 若干むす、としながら半眼になる俺。


「元々大陸教と接触があったのは一人だけだった。今捕縛している連中は、その者から上手い話を拐ったつもりでいたようだが、実際には何も知らないみたいだな」

「それも裏切りと言えば裏切りなんじゃ……で、その一人っていうのは?」

「十日程前に殺されたアカデミー職員だ」


 十日。術屍を倒して、サフィルスへ戻っている頃か。

 ぱちぱちと瞬きをする。何か聞き覚えのある話だが何だったろうか。確か、アカデミー職員が刺殺され……あ。


「スティレット。女子供」

「聖女の身長なら当て嵌まる」

「いや、多分餓鬼の断罪者の方だ」


 あの容貌は、良くも悪くも目立つ。前々からこの街に潜伏するのも難しいだろうに、自ら手を下すことで全てが露見するリスクを負うとは思えない。巡回修道士として来たのが、恐らくサフィルスに足を踏み入れた時だろう。

 そうすると餓鬼の方がまだ人に紛れやすそうな分可能性が高い。あー、でも、それにしてはお粗末な出来だったんだよな。三人の中では一番一般人を装うのが上手そうだった割には。

 というか、雪霜族の如き真っ白け女と目玉宝珠男の存在感を消せる奴がいるのなら見てみたいくらいだ。後者は常に目を閉じていれば、盲目の司祭と吹くこともできるかもしれないが……。

 それで思い出した。


「混血の断罪者はどうした?目玉の代わりに宝珠を入れている奴だ」

「それがね、ショー……」


 大人しく紅茶を啜っていた小人が話に入ってくる。今更だが、何故このサイズのカップが?娘が小さかった頃の遊び道具とかだろうか。

 ちらりと視線を向けた老爺はにこにこと笑っている。そんな内容を話しているつもりはないのだが、随分と楽しそうだな、おい。マジで寂しい老人なのか?


「ショー達が行った場所から出てきた悪魔が、縄を解いてしまったんだ。でも、彼は断罪者だろう?すぐに襲い掛かって、でも返り討ちになって、それで」


 俺は隠すことなく舌打ちをした。どうせ、そうなることをわかっていて解いたに違いない。暇潰しか俺への嫌がらせかは知らないが、どちらにせよ、悪趣味なことである。


「よく無事だったな」

「実は、私を図書館の外に連れ出したのは、その悪魔なんだ」

「…………何?」


 小人が言うにはこうだ。

 消火を終わらせて一息入れていると、俺が行った方から足音が聞こえてくる。

 俺が戻ってきたのかと思ったが、それには足音が一人分しかないことが気になる。念の為に隠れた小人が見たのは、紅目に黒髪、けれど奇妙に捻れた角を持った悪魔だった。

 悪魔は断罪者の縄を解き――その際に随分挑発したらしい――返り討ちにすると、黒っぽい粉と爆発石を取り出していきなり部屋を燃やし出した。

 そして、隠れていた筈の小人をまるで知っていたかのように見付け、良く俺がするようにきゅっとしたらしい。そして、気付くとアカデミーの敷地内にある木の上に居たという。

 とにかく誰かを呼ばないとと叫んでいたところ、門前払いを食らって侵入していたホワイトに出会って行動を共にしていたと。


「てめぇ、不法侵入者じゃねぇか」

「さ、最終的には許可も貰った」

「いやぁ、最初に見付けたのが私で良かったね」

「学長。二度とこのような真似をしないでください」


 吸血鬼は米神を押さえながら苦言を漏らすが、学長は気にもせずに朗らかに笑う。アカデミーのセキュリティの甘さは、これが原因なんじゃ……そう思う俺は、間違ってないよな?


「ミド」

「ミルドットです」


 直ぐ様訂正をする吸血鬼。しかし、優しいながらも意思の強そうな瞳に、元々伸びていた背筋を更に伸ばして向き直った。


「確かに情報を得られなかったのは残念だ。今回のことで、失われた命も多い」


 先に殺された五人。入口で見た二人。あとは俺が知らないだけで、他にも殺された人間は居るのかもしれない。

 ……元凶ではある断罪者達も、失われた命という括りには入るだろうしな。


「尊い犠牲でも、仕方のないことでもない。我々の力不足が原因だ。命は決して戻らない」

「学長」

「だが、図書館なら、また作ればいい。失われた知識なら、また作り出せばいい。それが、人間――いや、生き物というものだろう」


 私には、君も、ソシ・レも、多くの仲間が居る。

 今は手の届かない場所に行ってしまった者達も、変わりない。


「死した者を悼み、生きていることを喜ぼう。生者にできることは、恐らく、それくらいなのだろうから」







 白いレースの隙間から、室内に入り込む月の光。太陽のそれとは違う優しい明るさは、そのものの色を淡く映し出す。

 ……陶器のような肌が青白く見えるのは、それだけが原因ではないだろうが。


 閉め忘れたのかわざとなのかは知らないが、これでは日中眩しかっただろうに。厚手のカーテンを引くと、部屋の中が一気に暗くなる。

 さて、もう片方も、とタッセルに手をやったところで……何となく振り返る。


 頬が細くなった気がするし、顔色は明らかに悪いし、シーツ越しのシルエットもあまり宜しくない。それでも美人は美人なのだから、世の中って奴は色々おかしい。

 手を伸ばそうとして、止めた。触れれば壊れそうな美というのは、あまり好きではない。

 それが、壊してしまうのが恐ろしいからか、壊してしまいたくなる衝動が辛いからかは……まあ、恐らく両方だ。




 ふるりと震える睫毛。

 夜にも鮮やかに輝く翠玉、白い瞼の下から覗く。

 開かれかけた瞳は、けれど眩しそうに細まった。




「……おはよ」




 気の利いた言葉、何か考えておけば良かったかもしれない。今更遅いが。






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