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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
シェルター
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 今度の目的地は、メインコンピュータールームである。

 行きとは違い、ほぼ走りに近い競歩で歩くソシ・レ。急いでいるのはわかるが、俺には荷物があるというのを忘れてないか?


 何でこんな忙しなく行ったり来たりをしなくちゃいけないんだろうな。これなら、どっちかが残っていれば……いや、それでは意味がなかったか。

 ソシ・レが居ないのであれば、俺があの部屋に残る理由はなかったし、俺だけが格納庫に行ったところで、人形に細工されていてもわからないし。あ、そもそも隔壁が解除できないか。


「なあ、この施設って監視カメラ……えぇと、映像装置とかねぇの?メインコンピュータールームって言うくらいなら、そこから確認できたんじゃ」

「前時代から生きているような夜族で、人間の文化に詳しく、かつ引きこもってない奴を連れてきてから言え」

「俺が悪かったですすみません」


 いや、アカデミー側がどれだけ前時代の知識を得ているか知らなかったので、俺に非がある訳ではないが。

 学問とは、動機は自分の為でありながら、大衆の発展の為に使われるものだからなぁ。学者からすれば、知っているのにただ使わないだけの連中は嫌いなのだろう。


 あー、うん。吸血鬼の場合しかわからないが、無駄に生きて無駄に力があって無駄に知識を溜め込んでいる癖に、大体皆何もしねーや。レミファ曰く終わってる状態である。

 恐らく、教えないのが嫌悪の原因ではない。渡せないような危険なものなら、諦めはできずとも理解はできる。隠すということすらしない、というのがむかつくのだ。

 人によっては、喉から手が出る程知りたい知識を、それに何の価値も見出ださない連中が持っているとか、人生をかけてきた人間ならキレると思う。


 勿論、長生きしているからといって何でもかんでも知っている訳ではない。人間の技術は高度なので、ある程度は深く関わらないと理解できない……筈だ。知り合いが天才肌ばっかりなので断言できないが。

 基本的に、吸血鬼にとって他者はどうでもいいのだ。というか、長生きする奴程、自分ですら興味を持たない節がある。

 そんなものだから、大体の奴はまず知らない。もしくは、一時は覚えたとしても昔過ぎて忘れているとか。その必要性を感じないからだ。


 別に重要だと思っていないから、覚えている奴等に訊けば、多分あっさり教えるだろう。これもまた、必死になって文献漁る連中からすればむかつく話だ。

 しかし、これには重大な問題がある。ソシ・レの嫌味は、寧ろここに掛かっている気がするが。

 長生きしている奴は、大抵引きこもりであるということだ。


 人間が知識を乞いたくとも、どこにいるかわからない、噂によると相当辺鄙なところらしい、行こうと思ったら別の夜族の縄張り通ります、辿り着く前に死にました。人間が夜族に接触しようとする時のあるあるである。

 別に、会いたくない訳じゃないのだ。ただ会う理由がないだけで。本人から会いたいと思われれば、勝手に出てくるだろう。いやまあ、その為には、本人の耳に入るくらい近付いてインパクトのあることをしなくてはいけないのだが。

 結論を言おう。考古学において、夜族のが人間の役に立つ可能性は、限りなく少ない。


 ないと断言しないのは、夜族にも変わり者はいるからだ。昔話等で、賢者やら神の使いから知恵を与えられた、とか聞くが、あれ多分夜族だぜ。悪魔なんか、普通に悪魔の知恵とか出てくるからな。

 そもそも、このサフィルス自体がその変わり者に由来する街だ。

 賢者と呼ばれる男が、前時代の遺物を隠す為、古代図書館を築いた場所。わざわざ図書館にしたのは、間違いなく私情が入っているだろうが。

 サフィルスが手を貸したからこそ、この街には学者達が集まった。連綿と受け継がれてきた彼等の尽力が、今もシェルターを悪意ある連中から守っている。


 当の本人は、学者達が使えるようになったらさっさと引きこもったらしいけどな。弟子の一人を拉致って。

 古代図書館の責任者に挙げられる程、学者達の中でも一目置かれるほど優秀だったらしいが、学問に対する真摯な姿勢が仇になったらしい。合掌。

 まあ、その件に関してはたまにぶちぶち言っているようだが、サフィルスを嫌っている訳じゃないんだよな。サフィルスの持つ知識を尊敬しているし、本に囲まれていれば幸せなのだ、あいつは。


「……うん?さっきと道、違くね?」

「感染阻止の為に、第十三区画の境にある隔壁が下ろされただろう。その一つが、通路を塞ぐ」

「そんなの、お前がぴぴっとすれば……あ、何となくわかった。だから馬鹿を見るような目で見んな」


 俺の素朴な疑問に、耳長はちらとこちらを睨み付ける。副音声を付けるとしたらあれだな。考えてからものを言え。そんな簡単に隔壁上げられたら、隔離の意味がないもんな。


 例えば、生物災害が発生したとして、感染阻止の為に閉じ込められるとしよう。ちなみに、この場合の阻止とは、感染者の治療を目的とするものではない。

 見殺しにされる方からしたら、何が何でも出たい筈である。少しでも、薬や設備が整っている方へ。あるいは、見殺しにしようとした連中を道連れにする為に。

 そんな時、感染者がそれなりの地位で、隔壁を解除する権限を持っていたら……感染拡大絶対汚染な未来が想像できるね!


 それを見越して、こんな鬼畜仕様にするとは、制作者側は血も涙もないのか。まあ、対処法としては間違っていないし、自分が安全な場所に居る非感染者なら、親指を立てるけど。


 話は戻して、メインコンピュータールームに戻るには遠回りしなくちゃいけないってことだよな。

 こっちに来る時は、多分十分くらいは掛かっていた。隔壁を開ける必要があっても、恐らくあの道が一番速いと判断したのだろう。

 この状況で迷う、なんて心配はしていないが、時間としてはどれくらい余裕があるのだろう。目的地に辿り着いても、悪魔に邪魔されて間に合いませんでしたでは笑えない。


 ああ、でも、いくらなんでも悪魔は逃げるか。あいつの頭はおかしいと思ってはいるが、意味もなく俺達と心中するような奇行をする程、繊細な神経の持ち主でもない。

 それなら、ソシ・レの操作がどれだけ掛かるのかによるのか。移動時間と操作時間、合わせて三十分以内。

 つか、いつも以上にぴりぴりしているのも、これが原因か。時間的余裕がない状況で、下らないことばかり言われれば、確かに殺意が湧く。


 ……もしかしたら、逃げた方がいいのではないか。

 流石に知らない道ではやらないが、見覚えのある道に出たら、聖女を捨てて、抵抗されようがソシ・レを担いで。

 どこまで逃げればいいのかはわからない。階段を下りた感じでは、シェルターは地表と結構離れているような感じはする。そこまで上れば、あるいは、けれど。




 最悪の想像に頭を振る。とにかく、今はこの背中を追うしかないのだ。






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