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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
聖女
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83


「穢らわしい悪魔は逃がしてしまいましたが、まだ化け物は残っていますね」


 聖女の声が。その顔に浮かぶのは、無味乾燥なだけの笑みだ。仲間を殺したことによる感慨も、不利な状況による焦りも見受けられない。先程見たものは気のせいだったのだろうか。


 ……まあ、いい。向こうは腕一本。俺は動き辛い膝に打撲。後ろのソシ・レは貧血に疲労と色々足りない。こう並べると、どいつも大差なく駄目そうに思えるが、動くので問題なし。

 こっちは数で勝っているのもあるが、前衛後衛で分かれているので楽と言えば楽である。俺を潰そうとするのならソシ・レの精霊術が、ソシ・レを潰そうとするのなら俺が聖女を仕留められる。


 遊ぶつもりで残さず、ソシ・レの治癒前に止めを刺しておけば良かったのだろうが、今更だ。大切なのは、後悔することではなく、この後どう聖女をぶち殺すかということで……。




 突如響き渡る警告音に、思考の海から引き摺り出された。




「……何事?」


 この部屋が緊急事態の原因だったからか、降りてきてからは聞いていなかった音に眉を寄せる。

 もしかして、火災報知器でも反応したか?ってそれそれこそ今更か。炎の矢だの火球だの出しまくっているのに、消火装置の一つも作動しなかったし……あれ?意外とこの施設は安全管理は適当?


『緊急事態発生。緊急事態発生。第二格納庫ニテ火災発生。コレヨリ三百八十番カラ四百十五番ノ隔壁ヲ作動、通路ヲ封鎖シマス。シェルター内ノ民間人ハ――』


 聞き覚えのある無機質な声が、これまた聞き覚えのある警告を発して……格納庫?火災?封鎖?俺が知っているのと違うし。しかもこっちもあまり宜しくない場所だよな?


 まだ仲間が居たのか。そういえば、魔猪が元々住んでいた森を燃やしたのは、恐らく盲目の断罪者とおっさんだった筈だ。巡回修道士の三人に居なかったから忘れていた。

 そうすると、聖女を陽動でもあったのだろう。頑張った結果がそれとか心が折れる。俺達が引っ掛かって、きっと嬉しそうに笑っているんだろうなぁ、と視線を向けると。


「……虫のようにどこにでも湧くのですね……」


 笑いながら眉を潜める、器用な聖女様がそこに居た。あれ?

 ソシ・レに視線を移す。何かを考えているようであったが、俺の視線に気付くと小さく首を振った。あれ?


「お前らの仲間のおっさんは?」

「仲間……?」


 首を傾げる聖女は可愛らしいのだろう、多分。俺にとっては聖女というだけでマイナス補正が掛かるので、そうは思えないが。

 この反応を信じるなら、他に仲間は居ないようではある。いや、待てよ。もしかして仲間という言葉に引っ掛かっただけとかいうオチじゃないだろうな。


「つか、第二格納庫とかどこだよっていう」

「……そうか、あの悪魔か」



 特に他意もなく呟いた俺の言葉に、ソシ・レが反応した。え?お前今の何が引っ掛かってそういう結論になったの?

 疑問符を浮かべる俺を、ソシ・レは塵を見るような目で見返す。


「あれを今すぐ無力化しろ」

「はい?」


 聖女を指差すソシ・レ。そのつもりではあったが、何故わざわざ言われたのだろう。そして、いくら相手が聖女だからと言って、他人様を指差すのは止めなさい。

 また、俺が別のことをしている間に、新手が来たり回復されたりすることを防ぐ為か?何度も同じことを繰り返すとか、俺は動物か何かか。

 言っておくが、鼠だって学習すると昔の学者が……って、この流れで動物の優秀さを語ってどうする。これは、寧ろ耳長に馬鹿にされる隙を与えるだけだ。危ない危な……ぃい!?


 耳長の指先が動いたかと思えば、氷の矢に埋め尽くされる視界。


「おまっ、えっ、何っ、ぎゃあぁああ!?」


 慌てて床に伏せる俺の頭上を、ひゅんと音を立てて飛んでいく矢。ちょっ、ギリギリ……!

 床に抱き着いたまま耳長を睨み上げる。その視線を受けた耳長は、僅かに顎を動かして聖女を指し示す。状況を説明しろよ口で!


 歯軋りをしながら振り返れば、あちこちに氷が刺さった聖女の姿が映った。どれも致命傷ではない。耳長の狙いは氷を差し込むことだろう。

 血管を直に冷やされ、急激な体温低下を起こした身体の操作とは、そう簡単なものではない。というか、聖女じゃなかったら意識混濁していると思う。

 耳長に使われるのは癪だが、ひっじょーに癪だが、いくか。立ち上がり、一気に距離を詰めた。


 聖女も迎え撃とうとはしたのだろう。しかし、その動きは腕が繋がったばかりの時のように鈍く、正確さに欠ける。

 お蔭で、銀剣を掴む手を蹴るのは簡単だった。かじかむ手から零れ落ちたスティレットは、からからと音を立てながら床を滑る。


 武器を失い、聖女は素手のまま俺の首を狙ってきたのでその腕を掴んだ。そして、そのまま引く。その勢いで小さな身体が、俺の胸に飛び込んできたので、背中に手を回して抱き留めた。

 勿論、聖女が暴れるので、滅茶苦茶うざい。もういい、遊ばずにさっさと済ませる。


 返り血でも嫌がる連中なので、流石にないとは思うが、万が一頸動脈とか噛み千切られると困る。

 な、の、で。お口にちゃーっくと言いつつ、掌で口を覆った。口元が見えないと、何か普通に困っているお嬢さんにも見えるなぁ。対聖女には必要ない罪悪感が刺激されるから、本当に、手早く終わらせよう、うん。

 腕と口を拘束したまま、その白い首に牙を突き刺した。


 上の奴の趣味なのか、断罪者である聖女は皆処女である。その肉体も神に捧げられたものであるから、というのが理由らしい。

 俺の予想では、性経験は生気を澱ませることから、それによって治癒術か宝珠との親和性が低くなるのを避ける為、ではないかと睨んでいる。


 まあ、何が言いたいかと言えば、要は聖女の血は美味いと言うことである。

 そこらの色餓鬼なんぞより余程甘いし、美味いし、力が湧いてくる。嘘ではない。間違いない。

 だがしかし。ぢゅうぢゅう吸いながら、内心で溜め息を吐く。……このケミカルな風味はどうにかならないものか。


 薬物がいけないのか、宝珠がいけないのか、はたまたより『純粋な人間』を作ろうと近親姦を繰り返して来たからか。こう、何かな。あるんだよ、独特な風味が。

 明らかに、人工物ですよー、化学的な添加物もたくさん入っていますよー、といった味か。

 鼻を抜けるのは、刺激臭には足りなく、かといって,普通の人間なら無視はできない類いのにおいだ


 正直、いくら上質な生気を吸収できるとしても、ご遠慮頂きたいレベルだ。こういう時、自分は意外と舌が肥えているのだと思う。

 だがまあ、目的は食事ではないので、もう少し頑張って吸うか。




 終わったら、普通に極上の奴で口直ししたいなぁ。ちょっとくらいなら、いいかな?






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