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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
アカデミー
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 パセリに向かって軽く手を上げ、俺は折り重なる棚をどかして見付けた、通路に足を踏み入れた。

 ここも暗いな。いきなり行き止まりかと思ったら、直角に曲がる階段があり、それを下りていく。


 石の床にブーツの底が高く鳴る。幅はそこまで狭くはないが、ちょっとした咳払いでも響くここは、奇襲に向かなそうだ。

 つか、これどこまで続いているんだ?このタイプの階段は縦の移動に強いので、結構下りている気がするのだが。


 今は特に支障は出ていないが、あまり深い場所だと、崩落による生き埋めや酸素不足の危険が出てくる。

 古代図書館ができたのは、少なくとも千年以上前だ。学生解放区以外であれば、前時代の技術も使われているだろうが、それが正しく機能しているかどうかはわからない。それとも精霊術で何とかなるものなのだろうか。


 かつん。やっと床に着いた。ぐるぐると回っていたので何だか変な感じもあるが、とにかく景色が変わったのが嬉しい。単純行動と閉塞感は、組合わさると精神的疲労が大きくなるからな。

 先には、扉のない入口が見える。明かりが漏れていないので誰も居なさそうではあるが、先程の断罪者のように息を潜めているかもしれない。パセリが居ない分手数は少ないのだ。慎重に行かなければ。


 足は部屋との境を踏み越えないように、腕はできる限り伸ばして、精霊灯で部屋の中を照らした。最悪腕の一本をなくす可能性もあるが、まあ、胴体や頭がなくなるよりはマシだろう。そっちは死ぬし。


「……うん?」


 何だ、これ。部屋のそう広くはない部屋の中央に、人型の影がある。人影ではなく、人型の影だ。

 全長からすれば、頭部の割合が多い。着ている服らしきものは、布製ではない何か。そして、人間なら関節に当たる部分に幾つも入る線。

 人形、だよな。でも何でこんなところに?


 少なくとも、見える範囲には人形以外の不審なものはないように思う。あちこちに黒い線が入った不思議な壁紙、というか内装ではあるが。

 鏡でもあればもう少し見回せるのだろうが、普段から鏡を持ち歩く程几帳面な性格ではない。寧ろ、高いし思いし割れるし毎日手入れをしないとすぐ曇るしで、苛々するのが想像できるのだ。


 どうしようか、と思ったところで、他に道はない。意を決して部屋の中に踏み込む。

 それと同時に、部屋の中が明るくなった。光源は天井だ。前世界の技術か。

 中に入って部屋を見回したが、やはり誰も居ない。それに関しては安心できたが、そうすると人形の存在感が無視できなくなる。


 こんな場所にある人形だ。ただの人形である筈がない。近付くと襲い掛かってくるのか、次の部屋への鍵となるのか。何故そう思うのかって?お約束だからな!

 冒険者が大好きな、洞窟とか古城とか夜族が暇潰しで造った迷宮で、所謂お約束というものは何度も経験しているのである。その俺の勘が言うのだ。……今更だが、古代図書館という名称も、結構お約束だったな……。


 部屋は明るくなったが、人形には変化がない。まあ、無視して進めるのであれば、それはそれで問題ないだろう。

 多少興味は惹かれるが、やることがある状況で、わざわざ地雷を踏みに行く必要はないのである。


 そろり、と人形から距離を取りつつ、恐らく次へ進むだろう通路に向かおうとしたところ。


 ギュイイイイイン!!


「はい?」


 目の前を通り過ぎる光線。そして、光線が消えた後には、黒い線が真っ直ぐ伸びていた。


 呆然。


 ぎこちない動きで音の出所に視線を向けると、瞼も口も開けた人形が、こちらに首を向けている。胴体の向きはそのままであるのが不気味だ。

 ええと。


「……れ、レーザーだとぉおおおおおお!?」


 ちょ!誰だこんなクソ危ねーもんここに置いたのは!?つかこれ自体も機密じゃねーの!?


 日常生活ではまず聞かない摩擦音のような音や、一瞬で石の壁に穴を開けるその威力に、ときめきを覚えたことは認める。認めるが、それが自分に向けられれば、話は別である。

 これ。当たったら死ぬだろ。


 …………。


 レーザーって火!?火!?光の粒子による摩擦で発火して焼き切ってんの!?お伽噺にしか出てこない聖なる(笑)精霊術はレーザーか!?レーザーは炎に入りますか!?

 やばい。直撃しても十分即死レベルだが、かすってもやばい可能性が出てきたぞ。科学知識のある人誰か来て。前時代の科学わかる人……って、知識の塔に引き篭ってんじゃねぇか!今すぐ出てこい本の虫共!


 頭の中は大混乱中だが、視線は人形から外さない。

 文字通り光の速さで飛ぶレーザーはどうしようもないが、恐らく発射口である口、照準を合わせる首は光速では動かないだろう。動かないよね?動かないと言ってくれぇえええ!


 入口の方にじりじりと足を動かす。先へ進もうとして撃たれたのだから、こちら側に戻る分には大丈夫だろう。

 人形の口が、ゆっくりと閉じていく。正直何の解決にもなっていないが、今は考える時間が欲しい。


 と、そこまで考えたところで、人形の首がぐるりと動く。何で!?

 悲鳴を上げる間もなく、人形の口が開かれた。


「ユーザー名ヲドウゾ」

「あ?」


 頬を引き攣らせる俺に向けられたのは、レーザーではなく、人形の問い掛ける言葉だった。しゃ、喋れるのか。どんだけ高性能なんだ。


「ア、ト言ウユーザーハ登録サレテイマセン。第四階層以下ノ権限ノゲストと判断。コレヨリ迎撃ニ」

「待って!間違い!ノーノー!リセット!キャンセル!」

「ユーザー名ヲドウゾ」


 あっぶねぇえええ!こんな阿呆な理由で殺されるとか勘弁して欲しい。つか、答えられなかったら迎撃って、ここは初見殺しの迷宮かよ。


 ユーザー名って……ええと、権限がある奴の名前、でいいんだよな?ということは、ソシ・レでいいのか?いや、でも既にソシ・レが入ってんのにいけるのだろうか。そもそも、こいつは何でユーザーを判断しているんだ?

 いきなりレーザー放つような設定しておいて、名前だけで入れるような雑なセキュリティをしているとは思えない。というか、そんな規模的観測に命を賭けたくない。


「ユーザー名ヲドウゾ」


 どうする?出直すか?しかし、出直したところで俺が入れるとは思えないし、ソシ・レがどうなっているかもわからない。

 名前。やはりソシ・レか?それかアカデミーの学長……いや、そんなものなら誰でも試すか。名前。そもそも人名なのか?秘密を守るのであれば、もっと複雑な……。


「五秒後、権限ノナイユーザーニ対シテ迎撃ヲ行イマス。五、四」


 ちょ、待て……!名前。名前、名前、名前!


「三、二、イ」

「ショー・ピール・ブラッディローズ!」


 空気が固まった。


 な、何言ってんだ俺はぁああ!自分の名前言ってどうするよ!?

 俺の目の前で、一度閉じた人形の口が再び開いた。




 あ、死んだわ、俺。






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