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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
サフィルス
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7

総合ユニーク100件超えました。

ありがとうございます!

なろう登録前は読んで頂けると思わなかったので、とても嬉しいです。

これからも精進していきますので、よろしくお願いします。


……説明文が……減るどころかほぼ説明文に……

 第九聖地『サフィルス』。

 遥か昔、世界のありとあらゆる知識を手に入れたとされる賢者の名前を冠した街だ。

 そういった由来があるからか、世界中から書物と知識を求める人とが集まり、大陸随一の学術都市と知られている。


 サフィルスは、上からみると円形に外壁が建てられている街だ。

 その円の中心には、この街の象徴ともいえる大陸一の蔵書量を誇る『古代図書館』と、その回りを囲むように並ぶ研究院も兼ねた教育機関『アカデミー』の学舎。

 古代図書館とアカデミー。この二つが、サフィルスを今なお賢者の街として発展させ続けている。


 教育機関としてのアカデミーでは、読み書き計算といった初等教育から、一部の学生が職業専攻に進む。

 研究院では、考古学、民俗学、哲学、数学、理学、精霊学等、思い浮かぶだけでもこれだけ多岐に渡る学問が研究されている。こちらはより専門的な学問になるため、教育機関から研究院に進むのは稀だ。

 それでも、意欲がある者、才能がある者には、奨学金の授与や仕事の斡旋も行われており、他の土地に比べて学ぶ自由が保証されている。

 学びたい者がアカデミーに集まり、ここで得たものを各地に伝えていく。大陸の技術の殆どは、この街から生まれていくのだ。


 街の礎を築くという功績を称え、この場所を大陸教が聖地認定したのが六百年程前。

 初めは、書物を移動させ、古代図書館を教会に改装しようとしたらしいが、「歴史を軽んじるつもりか!」、「人類の宝に何てことを!」、「我が探求心、宗教如きに屈指はせん、屈指はせんぞぉおおおお!!」といった暴徒げふげふ、学者を主とした住民に抵抗されたという。

 聖地の一つに数えられながらも、住居区の奥まったところに教会があるのもそういう訳だ。土地柄、見識者が多いため、熱心な信者もあまりいないらしい。何故聖地にした。


 ちなみに大陸教とは二千年程前、この大陸『バース』で生まれた宗教で、大陸内外問わず、最も信仰されている宗教だ。バース教と呼ばれることもある。

 宗教と言うと、他宗教の神を否定するものだが、大陸教の凄いところはそれら全てを容認したところにある。


 神は居る。ただその神達はそれぞれ自分の世界を持っており、それらの力全て合わせた作られたのが我々の世界だ。どの神が居なくても、この世界はなかっただろう。よって一柱の神を崇めるということは全ての神を崇めるのと同意。


 と言うのが大陸教の主張だ。屁理屈以外の何物でもない。勿論熱心な信者は反発した。それでも大多数の信者は受け入れた。

 それは何故か。大陸教の基本思想が人間至上主義だったからである。正確には夜族排他主義か。


 夜族とは、神によって作られた人間を謀り、襲い、血肉を喰らい、数を増やす存在である。よって夜族は人間の敵であり、我らが神の敵である。清浄なるこの世界より、邪悪なる夜族を殲滅するため、我ら人間は一丸となって神に祈ろうぞ。


 と言うのが大陸教の基本理念だ。いやだからそれ屁理屈。だが人間達にとって、夜族は異教徒より身近で、恐ろしく、許せないものであった。だから受け入れた。


 そういう成り立ちなもので、いつも通り受け入れられるだろーと軽い気持ちで行ったらフルボッコにあったとか、当時の司教可哀想過ぎる。

 ここは知識水準が高い分、種族的な差別意識は低めだ。勿論、夜族に対する嫌悪や恐怖が全くないわけではないだろうが、アカデミーは夜族や亜人種にも門扉を開いている。

 喰われるのが怖くて夜族の研究ができるか!と同族だけの閉鎖された村で一生を終えてたまるか!の利害が一致した結果らしい。

 賢者の街、だなんて格好良く言っているが、知識への欲求の為には全てがどうでもいい、という連中が集まってきただけだ。

 どいつもこいつも自分勝手。だが嫌いではない。




 で、何故長々と説明したかと言うと。


「本当にいいのか」

「嫌なの?」


 サフィルスの学者らしい、好奇心の塊のような知的美人との逢い引き中だからである。

 銀縁眼鏡越しに見える、涼しげな目がなんとも麗しい。


「貴女のような美しい女性に、私のような者で本当に良いのかと」

「皮を剥いだら皆一緒でしょう」


 できるだけ甘い声で囁いてみたが、返ってくるのは冷たい言葉。こういう返しは嫌いではないが、この場では少々物騒だ。

 さて、どう返すか。


「……この皮を剥いでも、きっと貴女は美しい」

「お世辞はいいから早く、」

「貴女は誰よりも知識に真摯で、誰よりも知識を愛している」


 書物を前に綺羅星のように輝く瞳を、私が見間違えるとお思いで?愛しい人。

 先程と変わらぬ声音で囁き、フィーネ嬢を見詰める。榛色の目が泳いだ。今度はお気に召したらしい。

 乞うように指の間接に口付ける。ぴくりと震えた手は、けれど振り払われなかった。


「……嫌じゃ、ないのよね?」

「勿論」


 指先から唇を離す。左手で、壊れ物を扱うように彼女の頬に触れた。フィーネ嬢は一瞬身を竦め……力を抜くように息を吐いた。


「この細い首に」


 息が掛かるほどに近く、首筋に唇を寄せる。力を抜こうとしてはいるのだろうが、細かく震える身体が愛おしい。


「最初に牙を埋めるのが私であるなんて」


 皮膚の上を牙でなぞる。普段研究室に籠っているからだろう。抜けるように白い肌の下で、寧ろ青く見える血管が脈打っている。

 ショー・ピール・ブラッディローズ。ただいま全力で口説き中。

 いくら食事とはいえ、どうせならお互い楽しみたいじゃないか。


「本当に"魅力"はいいの?掛かっている方がすぐに良くなるけれど」

「だっ、だってそれじゃ……ど、どんなのかわからないじゃない……!」

「……まあ、耐えられそうになかったら言ってくれ」


 真っ赤な顔で返してくるフィーネ嬢。昔から本ばかり読んできたということで、家族以外との接触はあまりなかったらしい。

 研究院に入ってからは、更にその傾向が強くなり、下手すると何日も人に会わないこともあるとか。

 18歳で成人が主流のこの世界で、24歳と言ったら少々嫁き遅れではあるが、本人は研究ができれば幸せらしい。

 ……ミッカちゃんの時は残念な結果に終わったが、今度こそ期待できそうだ。


 高揚してきた気分を落ち着かせる為に一度息を吐く。それに身体を震わせた彼女の脳裏にあるのは、恐怖か。それとも期待か。

 フィーネ嬢がぎゅうっと目を瞑ったのを視界の端に入れながら、俺は牙の先を肌に滑らせ、


「そこまでだブラッディローズ!」




 ……無粋な声に邪魔をされた。






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