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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
アカデミー
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67


 精霊灯を片手に、見付かった通路を行く。

 簡単には言ったが、地道に探したからな。俺には珍しく。一応多少の当たりをつけられたが。


 会話や精霊術から、断罪者が直前まで部屋の入り口付近に居たことは間違いない。そして、俺が炎の矢を躱している間にもう居なくなっていたということは、それには時間が掛からなかったということだ。


 古代図書館は、部屋単位で断絶されている。壁をぶち破れば通れなくないだろうが、基本的にはそうだ。部屋を出るには、入り口兼出口から出るしかない。

 しかし、断罪者が外へ出ようとしたのなら、俺だって流石に気付く。ならどこへ行った?深部に続く通路を見付けたのだろう。


 人間以外は――自分達の邪魔をする人間もこれに含む――殺すべきだと考えている連中だが、辺り構わず殺しまくっている訳ではない。

 町中で亜人を見掛けたからといって、衆人環視の下惨殺でもすれば、断罪者だろうが間違いなくお縄を頂戴する羽目になる。


 まあ、教会の断罪者達を管理する部署が裏で口を利いているのだろうが、そんなことを繰り返せば連中の存在が明るみに出るだろう。そうなると、大陸教へより傾倒する者と不信感を覚える人間に別れる訳だ。


 いくら自分達に向けられた訳でなくとも、人間とは、容赦なく降り下ろされる刃を恐れるものである。

 そして、状況が状況なら連中は、やる。アカデミーの教職員は、その歪んだ信仰心の被害者だろう。


 なら、今回ここまで堂々と動いている理由はなんだ、と考えれば、古代図書館しかないだろう。正確には図書館最深部にある前世界の遺物。


 人類消失レベルの技術で夜族を駆逐したいのか、異教徒を牽制したいのかは知らないが、そんなことの為に殺されては堪らない。馬鹿は鋏持っちゃ駄目ってお母さんに習わなかったのだろうか。


 幾つかある扉の内、一つの扉の前で止まる。中には断罪者でないものと、恐らく断罪者が居るのがわかるようなわからないような。

 まあ、この状況なら動くものは敵という認識でいいか。間違ってうっかり攻撃してしまっても、謝って許してもらおう。


 扉を開けると、暗い室内が見える。入り口側の部屋よりも更に大きな本棚があることから、こちらの方が広いことがわかった。


 普通逆な気がするけどなー。あー、でも、こちらの方が分類されていないのか。

 棚にごちゃ混ぜになっているのではなく、一つの部屋に一分類だったものが、この部屋ではある程度纏められているのだ。


 小さな息遣いが聞こえ、腰のナイフに手をやる。引っ掛かりもなく抜けるのを確認して納めた。

 相手の出方がわからない状態では、手は空いていた方がいい。本当は精霊灯もしまいたいところだが、図書館にあるだろう精霊灯やランプの明かりが見付からないので諦める。まるっきりの闇では、吸血鬼の目では見えないのだ。

 しかし、それは相手も同条件の筈だ。闇に身を隠し、明かりを持つ俺が近付いたところで仕留めるつもりか?


 そうなると、今、音を立てている方はどちらだ。断罪者か、そうでない方か。この二人、もしくはそれ以上の関係は何だ。仲間か、それとも敵か。


「まどろっこしいのは嫌いだ。出てこい」


 本棚の陰から出ずに声を上げる。本当に出てくるとは思わないが、反応の一つでも返ってこないか、と思ったのだが――。


「ショー!」


 聞き覚えのある声に目を剥いた。何でパセリがここに!?

 こいつを迎えに来たのだから、アカデミーの敷地内に居るのは、別におかしくはないが……場所が場所だ。

 精神感応に掛けられた覚えはない。熟練した術者なら、掛けられたことにも気付かないと言うが、そんな奴がほいほい居ても困る。なら本物、か?


「やっぱりショーだ!でも、どうしてここに?ああ、でも丁度良かった!私の力だけでは無理で」

「待て待て待て。俺も混乱してるから待て」


 棚の向こうから出てきたのは、見覚えのある鮮やかな緑髪の人形――のような小人だ。そしてこの喧しさは、間違えようもない。


「お前、何でここに……いや、どうやってここまで入った?」

「それだよ!ソシ・レが慌てていたから何か手伝えないかと思って、フードにしがみついて来たんだけど」

「ソシ・レが慌ててたぁ!?」


 今そういう状況でないことはわかっていたが、心の叫びが出てしまった。


 いや、だってあのソシ・レだぜ?人間の集団に襲われようが夜族(俺)のマジギレを見ようが、平然としていたソシ・レだぜ?

 それが、今日初めて会った空気読めない小人に慌てていたと言わせるなんて……え?そんなやばい状況なのこれ?マジで?


「よくソシ・レが着いてくることを許したな」

「精神感応得意だよーって言ったら、わかってくれたよ?」


 ちょ、おまっ、それ脅し……!

 本人的には、私こんなことできるよ役に立つよ!アピールだったのかもしれないが、耳長からすれば「君に掛けてもいいんだよ?」としか聞こえなかっただろう。

 ソシ・レを脅迫するとか、小人凄い。何か、予想以上に奴へのダメージになっていたと思うと、頬が緩むのが止められない。


「……ん?なら何でソシ・レが居ないんだ?」

「だからそれだって!今回のことは、ショーの言っていた断罪者のせいなんだよ!」

「それはわかっている。一人確認した。ここには……来なかったみたいだな、その様子だと」


 そうすると、他の扉のどれかか。しかし、ソシ・レと来た筈の小人がここに居るということは、更に奥に向かう道は、この部屋にあるんじゃないのか?

 それを知らないのか、あるいは別の道を知っているのか。どちらにしても、放って置く訳にはいかない。


「侵入されているとソシ・レが言っていたんだ。僕達は後を追ったんだけど、途中で」


 一瞬で冷えた室温に、総毛立つ。


 その原因を視界に入れた俺は、小人を掴んで大きく跳び退った。涼やかな音が、その軌跡を辿る。

 氷の槍が全て砕けたところで、辺りを見回す。立ち並ぶ本棚で、視界はほぼ直線でしか把握できない。棚の陰に一歩でも入られれば、それだけで身を隠せるのだ。


「……ええと。途中でアカデミーのローブを着た人と合流したんだけど、良く見たら見覚えがある人で」

「で」

「西の森を焼いた断罪者だ!って叫んじゃったんだよね」


 えへ、じゃねぇよ。助けてやったのにいきなり俺に精神感応ぶちかました時の警戒心はどこにやった。


「それでソシ・レにすっごく冷たい目で見られたので、足止めを引き受けた次第だよ!」

「自業自得じゃねぇか。しかもお前、再会した時に泣き言言ってなかったか?」


 だがまあ、小人が気付かなかったら、最悪目的地まで案内した挙げ句に、後ろからぶすりの可能性もあった訳だ。そう考えると、悪いことばかりとは言えまい。


「森を焼いた奴……って言うと、確か黒髪の男だったか」

「カルロだ」


 頭上から降ってきた声に、顔を上げる。障害物に遮られたようなこもった声ではなく、はっきりと聞こえてきた。棚の上に視線走らせたが、しかし、誰も居ない。


「無駄だ。お前達の耳に届く俺の声は、風の精霊に運ばせたものだ」

「……そいつは凄い。手を挙げたら見逃してくれる?」

「化け物に生まれた自分達を恨め」


 これまた模範回答。よくできました。つまり、逃がす気はねぇってことだな。

 こちらもこのままで済ますつもりはないので、望むところだ。


 だが、そうだな。一つだけ言っておきたいと思うことは、ある。即ち。




 俺、生まれは人間なんで。






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