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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
アカデミー
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 "夜狩り"ギルドに行った後、報告や埋葬の手続きをホワイトに任せて、俺はアカデミーに向かった。


 ギルドでそんなことをしているのか?と思う者も居るだろうが、正確には、ギルドが埋葬業者に仲介しているのである。

 こういった仕事をしていると、やはり依頼中の死亡率は高い。その為の事業なのだが、実際に使っている奴はあまり居ないんじゃないかなぁ。


 遺族が居れば、ギルドを通じて連絡が行くようにはなっているのだが、以前話したように"夜狩り"には訳ありが多い。

 絶縁されていたり遠方から出てきていたりすると、その間に埋葬しなくてはいけないので、結局は埋葬依頼者次第になってしまう。


 今回はサフィルス内だから遺体も回収できたが、森やら城やら町の外で死なれても、持ち帰れない可能性の方が高い。特に夏場なんかは、伝染病予防の為にも即燃やすことが推奨されている。


 わざわざ埋葬してやる義理がないことも多いからなー。埋葬代は、勿論埋葬依頼者持ちだ。

 死んだ人間の金品からも払えるが……まあ、誰の物でもない金があった時、つい魔が差してしまう理由もわからんでもない。


 ミナには弟しか居なかったようだし、こちらで手続きをしてしまえばいいだろう。

 どこかに遺書が残っているのなら、多少面倒なことにもなるが、遺体と所有品を提出している時点で、依頼者としては十分だ。


 報告としては、本当のことは言えないだろうから、ギルド外の依頼中の不慮の事故というところだろう。真実は、どうせ俺達しか知らないのだ。

 わざわざ復讐や悪魔との契約の話を、伝える必要はない。褒められたことではないが、特に被害も出ていないようだしな。俺は依怙贔屓も差別もする。


 アカデミーに向かっているのは、一応、小人の回収の為だ。この時間だと、研究院に居る可能性は低いが、俺、ソシ・レの家知らねぇし。


 大金もほいほい出せるのだから、やっぱでかい家なのだろうか。いや、奴の性格から言って顕示欲丸出しの豪邸なんぞより、面白味もない教員寮か。

 でも人間嫌いだしなー。良く言えばメルヘンチック、正確に言えば未開の原住民みたいな家を建てていても不思議ではない。


 そんなことをつらつら考えていると、奴の研究院が見えるところまで来た。

 やっぱ明かりは点いてないか。他はちらほら点いている場所もあるが、研究テーマの違いとか残業とか、理由はそんなものだろう。


「帰るか」


 誰かに訊いてもいいが、それには耳長の知り合いと言わなくてはいけなくなる。ただでさえ今夜は色々あったのに、この上究極の選択までしたくない。


 元来た方へ足を向けた瞬間、俺の背中に声を掛ける者が居た。


「貴方……確か、教授の」


 聞き覚えのある声に、ぎくりとした。

 若干ぎこちない動作で振り向くと、そこには想像していた通りの人物が居た。


 美人だ。アカデミーの敷地外だからか、いつもは高い位置で結んでいる栗毛を、今日は下ろしている。これはこれで可愛い。


「ええと……こんばんは。お嬢さ」

「教授に会いにいらしたんですか!?」

「違うので帰ります」


 物凄い勢いで近付いてきた学生に、思わず逃げ腰になる俺。というか逃げたい。

 この距離で俺の引き攣った顔が見えない訳がないだろうに、学生は一向に引く様子がない。


「しかもこんな時間に!」

「そうですね帰ります」


 非常識を詰られているのだろうか。それなら反省して回れ右するんで、見逃してくれないだろうか。


「教授と待ち合わせですか!?」

「帰りたいです帰らせてください」


 何で話が通じないのだろう。いや、俺も脈絡はないと思うが、それでも帰りたいという気持ちは伝わるよね?ね?そして、何故俺は敬語になっているのだろう。


「夜……人気のない研究院……教授と二人きり……ぐふふふふふ……」


 何か呟いてる。何だかわかんないけど呟いてる。そして笑ってる。この娘怖い。助けてソシ・レ。


「……ええと。君は、これから帰りなのか?それにしては、随分遅いようだけれど」

「あ、はい。新月が精霊に与える影響を調べていまして。夜にしか咲かない花があるのですが、これの開花には精霊が」

「あー、わかったわかった。とにかく実験をしていたんだな?一人で?」

「いえ、教授が付き合ってくださいました」


 いつもみたいに機材をお借りできるだけで良かったので、少し申し訳なかったですけど。


 信頼だか無関心だかは知らないが、適当な奴なんだな。いつもは。つまり、今日はいつもみたいにはいかなかったと。


 さて、ここで疑問が一つ。居残りを許可しておいて、こんな遅い時間に女学生を一人で帰すとはどういうことか。

 本人が着いていけないにしても、同じように残っている学生と一緒に帰すなり、手が空いている職員を付けるなりするべきではないだろうか。


「一人で帰れと言われたのか?」

「警備職員の方が送ってくださる予定だってんですけど……全然いらっしゃらなくて。メモを置いて帰ることにしました」

「ソシ・レがそれを許したのか?」

「あ、いえ。教授は急なお仕事が入ったのです。ですから、今日の実験は中止し、警備の方と帰るようにと」


 いくら突然とは言え、学生が警備と出るのを確認せずに行くとは無責任だな。……いくら人間嫌いと言っても、ない。絶対

あいつがする訳がない。

 それでもしたと言うのなら、それは頭でもぶつけてパッパラパーになったのか、それともそんな余裕もない程の事態なのか。


 嫌な予感しか、しない。


 とりあえず知ってそうな奴に場所訊きまくるか。場合によっては"魅力"を掛けて。


 だが、その前に学生をどうするか。個人的にはあまり関わりたくないのだが、放ったせいで襲われでもしたら、寝覚めが悪い。あと、ソシ・レと顔を合わせづらくなる。

 俺に学生を守る義理はないので、そんなことになっても態度を変えることはないだろう。内心はわからないが。結局は俺の気持ちの問題である。


 送るしかないのか。しかし、そんなことをしている間に何か事件が起きたらどうする。いや、学生を送りたくない言い訳ではなく。本当だぞ。


「おい!お前は何一人で……誰だ?」

「ホワイト!会いたかった!」


 お前はやればできる子だと思ったことはなかったが!ナイスタイミングでかした!

 学生に気付いて疑問の声を上げるホワイト。ぼけっと突っ立っているその胸に飛び込み。


 胸倉を掴んだ。


 勢いが良すぎて、奴の顎に強烈な頭突きをかます形になったが、まあ許してやろう。


「ごっ、まっ……何、」

「あの娘を家まで送れ」

「は?」

「但し、手ぇ出すなよ。手ぇ出したら……わかってるな?」

「何を!?」


 そりや勿論、俺の口からは言えないような……って、ちょっと待て。何故ホワイトではなく学生が?

 …………。


「後は任せた!」

「待て!状況が掴めん!」


 学生の横を走り抜ける。後ろでホワイトが何か叫んでいるが、無視。唸れ俺の両足。何があっても立ち止まるな。


「あの人とどういう関係なんですか?」

「ちょ、俺はあいつに」

「ソシ・レ教授のことはどう思われますか?」

「え、ちょ、え?」


 諦めろホワイト。その娘はしつこい。




 今日は新月だ。夜はすっかり更けているが、明けるにはまだまだ早い。アカデミーに向かいながら考える。

 だるい。やる気が出ない。肉体的にも疲労はあるし、何より神経ががりがり削られていた。


 嫌だなぁ。なぁんもしたくない。宿に戻って夜寝でもして、何も考えずに、怠惰に微睡んでいたい。

 実は、割りといつもそう思っているのだ。隙を見て実行もしようとしている。だが、いつも一週間も続いた試しがない。


 飽きた、なんて言ってはみても、本当はわかっている。俺は、動き続けなければいけないのだ。

 動かないと、生きていけない。疲れきっていたとしても、身体が動こうとするのなら、動かなければいけないのだ。


 それは彼女の為であったり、自分の為であったりする、無意識と意識の中間。




 だるいなぁ。呟いた言葉は、後ろに流れて消えた。






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