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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
夜狩り
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 PVが一万超えました!

 ありがとうございます!


 逃げられた、んだろうな。

 焼けた土の上には、悪魔の死を示す物は何もない。


「さっきの悪魔か?」

「それはあっち」


 いつ捨てたか覚えていない角を、親指で指す。

 あんなものでも一応は希少品だ。ギルド斡旋の商人に売ったとしても、暫く遊んでいられる。仕方ない、拾ってくるか。


「何で悪魔が二体も」

「暇だったんじゃね?」


 どちらかと言えば人間と生活習慣が似ている獣人や、本能的な行動が多い白骨兵ではあまり見られないが。

 吸血鬼や悪魔等といった変な矜持を持つ連中は、こういった暇潰しもする。餌に困ることのない、力に余裕がある連中程その傾向が強いので、迷惑極まりない。


 問題は。胸中で呟く。その暇潰しがどこまで続くか、だ。

 五百年一度も会っていなかった奴が急に出てきたかと思えば、大したこともせずに帰っていった。時間の流れに鈍感な夜族には、そういうことも多いが、あの悪魔に限って無沙汰の挨拶だなんて殊勝な真似をする訳ない。


 ミナのこともある。どこから見ていたのかは知らないが、随分とこちらの神経を逆撫でしてくれたものだ。勿論、しれっとした顔で知ったかぶりもする奴なので確信は持てない。

 だが、嫌がらせの為なら何でもする奴なので、逆にこの件に関わっている気がしてならな……あ。


「赤毛」


 ちょいちょいと指を曲げれば、赤毛言うなと言いつつも素直に寄ってくる。

 毛を逆立てた猫……じゃない、野生の猿みたいな奴がこう大人しいと少し物足りない気もするが、まあ、自分の調教の成果だと思えば、まあまあ。猿回しの才能あるのかなー、俺。


 何か気になる物を見付けて呼んだと思ったのか、ホワイトは傍らに膝を付いた。いやお前、それじゃ犬……。

 笑っていいのか遠い目をしていいのかわからなかったので、さっさと用件を済ませることにする。


「……何してるんだ」

「土よりはお前の方が多少マシかなと」


 右の掌、左手の甲。あの変態を触ってしまった部分を、ホワイトの服で拭う。宿に戻ったら即石鹸皮剥ぎコースだな。

 肩や肩甲骨の辺りは、出っ張っているので拭きやすい。


「よし」

「いや、意味がわからん」

「何か文句でも?」

「お前はそういう奴だよな……」


 その後も何かぶつぶつ言っていたが、やがて諦めたのか唇を結んだ。何だ、そういう奴って。ムカついたのでその背中を蹴ってやった。


 前のめりになった赤毛は、抗議をしようと口を開いた。しかし、そのまま出るかと思った言葉は結局出されず、僅かに目を伏せるのみだ。

 その様子には、流石に眉を寄せる。


「どうした」

「ミナが、呼んでいる」


 ぱちりぱちり。一瞬跳ねた心臓を気付かせないように、普段通りを装う。


「助かるのか?」

「…………」


 何も言わず視線を落とすホワイト。口にするのは嫌だと。だが、その態度は言葉より余程雄弁だ。


 ……基本的に、俺は薄情なんだけどなぁ。

 目の前で誰かが死のうとも、多少気分が良くないだけで大して引き摺ったりしない。自分が知らないところで死ぬのなら、そうかで済ませる自信もある。でも。

 知り合いが、しかも女が死ぬのは……嫌、かもしれない。そう言いながらも大丈夫かもしれない。だって彼女ではない。


 頭の中でぐるぐる考えている時点で、自分の気持ちがどういったものなのかはわかっている。認めたくないということも。


 ホワイトに視線を向けた。まだ膝を折ったままなので、頭の天辺も見える。旋毛はどの辺りなのだろう。右巻き左巻きで何が判断できるのだったか。


 ……現実逃避はここまでにしよう。俺は好きな物を最後に残しておく派だ。つまり、嫌いな物を先に片付ける派だ。


「行くぞ」


 目の前の赤毛をぐしゃぐしゃに掻き回して、屋敷に足を進めた。後ろで赤毛が何か言っているようだが無視。

 あれも女が死ぬところを見るのは嫌な癖に、それでもちゃんと着いてきているのだ。なら、それでいい。


 今回は一人じゃない分マシなのだ。多分、お互いに。




 ああ、これは駄目だな。

 階段を降りている時から既にわかっていたが……これは、駄目だなぁ。


 死臭がする。生気の抜けきった血の臭い。乾いて死んだ血の臭い。

 先程の自分は、やはり冷静ではなかったのだろう。こんなに血が流れていたのだから、何をやっても無駄だったのに。

 だが、悪魔達と結構やり合ってたのにまだ生きているのはそのお陰ではあるのか。お陰かせいかは考えないことにして。


 壁に凭れ掛かるように座らされているミナには、ホワイトの外套が掛けられている。黒い外套との対比により、その顔は雪のように真っ白だ。


「横の方が楽なんじゃねぇの。頭に血が溜まりそうだし」

「埃、っぽいから……嫌よ……」

「あー、確かに俺も嫌だな。人の頭を雑巾代わりにするんじゃねぇとキレた覚えがある」

「……ふふ……なぁ、に……それ」

「半吸血鬼だからしょっちゅう虐げられてるんだよ」


 そう言って肩を竦めてみせる。まあ、その場合の相手は大抵灰だのなんだのになっていることは言わなくてもいいだろう。目を潰されたら、両目潰して歯を折って、ついでに眼球が再生するまで生気を奪うのが俺である。そこまではまだやったことはないが。


「……ね……ショー……」

「なぁに?」

「あなた……なの……?」


 不規則に収縮する瞳で、けれどしっかり俺に視線を向けるミナ。


「君の弟の仇はジグガフ・ピール・ブラッディローズと言う」

「ジグガフ、」

「俺の大切な人を殺した男」

「…………ぇ……」


 目を見張るミナ。その拍子に頬に掛かった髪を耳に掛けてやり、俺は笑いかける。

 俺はもう少しで五百年。けれど時間なんて、痛みや想いを比べる理由にはならないだろう?


「俺達は一緒だね。ミナ」


 大切なものを失って、ずっとずっと探しているのに見付からない。

 絶対に譲れないものなのに、幸せを知っていた頃の心が、どうしても邪魔をする。

 契約をした悪魔はもう居ない。生きてさえいれば、何度だって挑戦することはできたのに。けれど、今夜がミナにとって最後の夜なのだ。


「……ショー……」

「どうしたの?」

「私を……」




 吸血鬼に、して。




 息を呑む音は、一体誰のものだったのか。






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