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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
夜狩り
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 メール執筆の為、見事にシステムエラーに引っ掛かりました……。

 ですので、平日ですが昼投稿します。

 そうして来た三日後、新月の夜。

 昨日は晴れたのに、今日からまた曇り出した。雨こそ降っていないが、じっとりと重い空気から、降りだすのも時間の問題だろう。

 予想していたよりずっと大きな屋敷の前に、俺達三人は集まっていた。


「赤毛居るとか、ちょーやる気失せるわー」

「お前とは、一度真剣に話し合わないといけないみたいだな……!」

「はいはい、仲がいいのはわかったから、少しは緊張感持ちなさい」


 別に仲良くはないが、ミナがそう言ったのでからかうのを止める。まあ、半分以上本気だが。

 今日のミナは"夜狩り"仕様らしく、革のガードを着け、腰には二本の剣を差してある。細身とはいえ、二本も差していれば重いだろうに、足取りはいつも通りだ。流石。


 普段、ホワイト以外のAランクと仕事をすることがなくて気付かなかったのだが、結構強そうである。

 仕事ではなく返り討ちなら何度かやったこともあるが、その場合ランクは不明なのでいまいち基準がわからない。しかし、これは俺も気を付けないとヤバいなー。


「ショーは、あまり変わらないのね」

「うん、メインはこれ。切り札は秘密ー」

「いや、格好のこと言っているんだろ」

「着たい服着て何が悪い」


 左右に振った短剣は、銀に見えるが白金製だ。

 薄く色の付いた粉を使い、磨きまくって輝かせているので、一般人が知ったら悲鳴を上げる代物である。無論、そのままの意味で。

 実用性は殆どない。だが別にいいのだ。このなんちゃって銀細工は、夜族に対するものではなく、それを見る人間に対するものなのだから。


 半吸血鬼が赤目なのは、"夜狩り"にとって常識である。しかし、赤目だからといって必ず半吸血鬼と疑う訳ではない。

 以前説明したように、"夜狩り"には夜族との混血が多いのだ。赤目=半吸血鬼で考えていると、"夜狩り"ギルドの建物内に入れる人間は居なくなってしまう。


 なら、どうやって見分けるか。そこで"夜狩り"御用達の銀細工の出番である。

 肌に押し当てれば灼けたような跡が残る。相当厚くない限り、服の上からでも苦痛に身を捩る。致命傷を与えられない銀鍍金でも、それは同じである。


 勿論、痛みを我慢することはできる。だが、皮を剥げば消える程度だとしても跡が残るのは仕方ない。

 そこらを上手く誤魔化す為に、色合いの近い白金を使って、銀触れますよー人間ですよーアピールをするのだ。


「一撃必殺で灰にしてやんよー」

「頼もしいわね」


 小さく笑うミナ。緊張しているのか、多ぎこちない。儚げと言えなくもないが、美人は嬉しそうに笑えばいいと思うよ。


「まずは情報交換と行くか。と言っても、殆どわからなかったが」

「役立たず」

「……ならお前はどれだけ集められたんだよ」


 正直俺も殆どわからなかったが。こいつを詰るのはもう条件反射みたいなものである。


「噂は出てる。だが、被害者の話や吸血鬼の目撃例に関しては、あやふやというか信用できないレベル。しかも流れ出したのはここ最近」

「ギルドに確認してもそうだな。年齢も強さも、ましてや塒なんて確かな情報はない。そんなものだから、依頼も"夜狩り"の照会も行われていない」

「もう何だろうな。この隠す気の全くない怪しさ」


 だが、目的が見えないのはある意味凄い。

 それだけ動転していた、と考えるには日時指定が引っ掛かる。夜族退治には新月。成る程、合理的だ。しかし、冷静過ぎる。


 それに、いまだ俺達三人を集めた理由がわからないのだ。勿論、他にも手紙が来た連中が居る可能性もある。金持ってトンズラするのも、この胡散臭さでは仕方ない。


 考えられる可能性としては、俺達に恨みを持つ者の嫌がらせなのだが、これは弱い。俺とホワイト、もしくはミナとホワイトでは接点があるが、俺とミナはこの間知り合ったばかりだ。

 ……赤毛から見れば両方知り合いか。


「おい赤毛、お前、俺達に何か土下座することあるんじゃねぇのか」

「何が言いたいか大体予想は付くが、俺じゃない。……多分」

「クリム、そこは自信持ってくれないと」


 まあ、世の中どこで恨み買うかわからないからなー。無駄に長生きしていると、やってもいないことも俺のせいにされていることが多々ある。仕方ないと言えば仕方ないが。


 だが、"トーレンの惨夜"だけは別だ。あれだけは、俺のせいにされたくない。

 俺の仕出かしたことはもっと許されないことでも、人間達からすれば等しく理不尽な虐殺であったとしても、あれと同一視されるなんて嫌だ。虫酸が走る。


「……ショー。ショー」

「……えっ?あ、何?」

「クリムのせいとは決まってないわ。こんな時に、仲間割れは駄目よ」


 ミナの呼び掛けに、飛んでいた意識を戻した。今度は俺が、ぎこちない笑みを向ける。

 かといって、正直気分はあまり良くないが、これから共闘するかもしれないのに、わざわざ一人雰囲気を悪くする必要もない。


「俺達みたいな若造が高ランクってことで、面白くない連中も多いだろうしな」

「それで私刑ってんなら、寧ろわかりやすくて助かるが……ただその場合、金貨は重すぎるだろ。それに、」


 この屋敷には、確かに吸血鬼が居る。心の中だけで呟いた言葉は、ミナに聞かせるわけにはいかない。


 俺が吸血鬼の混血かどうかわかるという話をしたと思うが、それは相手が吸血鬼であっても同じだ。

 寧ろ同族としての力が強い分、こちらの方が距離があっても気付きやすい。その感覚が言うのだ。この屋敷には吸血鬼が居ると。


 強さは……どうだろう。あまり強大な力を持っているようには思えないが、距離があるからかもしれない。

 しかしそれを伝えたところで、何故わかるのかと訊かれるのがオチだ。夜族がバレて殺し合うのも、謎電波受信の不思議ちゃん扱いも嫌である。


 話がズレた。その感覚からわかることは、徒党を組んだ連中の私刑ではないということだ。人間同士の小競り合いならまだ言い訳も立つが、そこに夜族を絡めてしまえば、"夜狩り"としての信用を失う。

 金、信用、下手をすれば命。それらを犠牲にしてでも、俺達を追い落としたい奴が居る可能性は、いくら何でもないだろう。多分。


「そういや、ミナは?何か掴めた?」


 間違いなく三人の中で一番コミュニケーション能力が高いのはミナだろう。俺達とは違うところから、何か聞いているかもしれない。


「私は……」


 ぎいぃ……。


 屋敷の扉が開いた。勿論、風で動くような軽い素材ではない。誰かが開けたのだ。

 屋敷の中が見えるのは、ほんの僅かだ。月明かりの差し込まない奥は暗く、人影は見えない。


「歓迎されてるみたいだな」


 俺が吸血鬼の気配がわかるということは、向こうも俺とホワイトの気配がわかるということだ。完全な不意討ちはできない。ちょっとマズったか?

 だが、それならそれでやりようはある。こっちが半端者共と侮ってくれれば結構。無駄口叩く暇もないくらいに瞬殺してやろうじゃないか。

 口の端を吊り上げる。


「……準備はいいかしら、ショー」

「ああ。吸血鬼だろうが悪魔だろうが、ミナには指一本触れさせねぇよ」


 自分的には結構いい顔していたつもりだったのだが、無視されてしまった。それどころか顔まで背けられる始末。押しが強すぎたのだろうか。


 正直落ち込んだのだが、これからするのは命の取り合いだ。頭を切り替えろ、俺。

 格好いいところを見せれば、ミナだって惚れ直してくれるさ。元々惚れてないって言った奴は前に出ろ。


「じゃあ、行こうぜ」




 たまには真面目に夜狩りといこうじゃないか。






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