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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
魔猪
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 部屋の空気が重い。

 ころころ表情が変わり、口を開けば喧しいだけの小人の癖に、シリアスな雰囲気漂わせてんじゃねぇよ。


「……とりあえず、パン食っとけ」

「……うん、食べる」


 俺の言葉に、もそもそと食べ始める小人。千切っては口に入れ、千切っては口に入れ……結構いい食べっぷりだな、おい。

 普通悲しくて喉に通らないとかじゃないのか、この空気は。心なしか小人の頬が緩んできている気がする。


「……美味そうだな」

「うん!ちょっと潰れてるけど美味しい!」


 沈んで静かに泣く姿を見るよりはマシだが、何だろう、この微妙な気持ちは。ちょっとこの野郎切り替え早すぎやしませんかね。


「悲しくねぇの?」

「悲しいよ。でも私は生きているし、お腹は空くし。それに、二十年もしたら私も同じなのだから、辛くはないかな」


 わかるような、わからないような。だが、生きているから腹が減るのは仕方ない。俺も喰った。……あれ?他人のこと言えないか?

 こいつみたいに悟ってはいなかったが。どちらかと言えば未練たらたらで……辛くて辛くて耐えられなかったから、喰って生きた。そしてそれは、多分、今もそうだ。


 もしかしたら種族柄なのかもな。短い命だから小人は割りきりがよくて、夜族はだらだらと一つのことに固執する。

 長く生きれば死等たくさん見るのに、大切な者の死は何年経っても慣れないのだ。……その癖、限りある命程愛そうとするが。

 

 吸血鬼は愛する者を吸血で縛る。悪魔は契約を結ばせて理から外させるし、淫魔は"魅力"で自我を壊してでも生き人形にする。

 割りと人間に性質が近い獣人は、同族に惹かれることが多いらしい。それでも番と決めたならば、拐って閉じ込めて自分だけの物にするくらいやってのけるとか。


 酷い。最低だ。最悪だ。夜族とは本当に迷惑極まりない。

 けれど俺も同じことをするだろう。したかったのだ。……できなかっただけで。


「ショー?どうしたんだい?」

「……何でもない。それで、お前の友達は……もしかして魔猪か?」

「……そうだよ。彼を看取ったのが一月くらい前だったと思う」

「一月?」


 腐敗具合からすれば相当経ってると思ったので、時間は、まあいいとして。


「お前一ヶ月も何してたんだよ」

「最初の三日は側に居たんだけど、腐敗が進んできてね。誰かに手伝って貰おうと思って、鳥に西の森に連れていってもらったんだけど……」


 ぱちぱち。近くの森だけでなく、西の森まで出てきた。そちらの情報は殆どないので、興味深い。


「手伝いどころか、見付かるのは白骨兵ばかり。流石に死を覚悟したよ」

「大人しくしてりゃ、そんな危なくないだろ」

「君達ならね!」


 小人が抱き着かれたら死んでしまうよ!と叫ぶ小人。あ、そうか。サイズ差忘れてた。

 水分補給に木苺を差し出す。自分の頭程ある木苺にかぶりつく姿は、認めるのは癪だが可愛らしい。これで女の子だったら完璧なのに。


「どれくらい白骨兵から逃げ続けてたかな。魔猪を見付けたんだ」

「ふむふむ。で?」

「とりあえずお腹が空いたのでご飯を探しに」

「いや急げよ」


 お前は亀と競争中の兎か。もしくは全裸で走る勇者でも可。こいつが戻らなければ自然の摂理に従うだけとはいえ、腐ったまま放置されてる魔猪が可哀想過ぎる。


「そこで見たんだ」

「へぇへぇ、何を?」

「人間。二人組で、言い争っていたよ」

「冒険者か?」


 西の森は広い割にはサフィルスから近いので、村人は入らずとも、冒険者が腕試しに行きそうな感じはある。

 白骨兵と言えど、夜族は夜族だしな。寧ろ、一般的な認識を持ったまま白骨兵に襲いかかると、返り討ちに遭う可能性が高い。連中は怒らせたらいけないタイプの夜族である。


「何だか変な雰囲気でね。隠れて様子を見ていたんだけど、見付かってしまって」

「おお、絶体絶命のピンチだな」

「土人形で森を破壊しだした」

「は?」


 待て。それは何かを省略し過ぎだろう。

 小人を見付けて捕まえようとした、あるいは始末しようとしたら逃げられて破壊になったのではなく?

 いや、そもそも小人相手に鈍い土人形なんぞ道を塞ぐくらいにしか使えないだろう。稀少な宝珠まで使ってすることではない。

 一体どこの馬鹿が、


「『化物の森等燃やしてくれる』と言って、最後には火を掛けていたが」

「オーケー、理解した」


 居るわ。主な生息地はグラナトゥムだが、大陸全土に湧いてくる連中が。

 犯人の目星は付いた。いや、個人はわからんが集団名は確実にわかった。というか、連中以外にそんなの居て欲しくない。


「そいつら、短い縦線から長い横線が二本、斜め下に伸びてる飾りか模様あっただろ」

「うん?ああ、あったかもしれない。何か意味があるのかい?」

「首を刎ねられた化物の偶像」


 何でそんな悪趣味なものを肌身離さず持っているのかがわからん。普通信仰の対象を身に付けて、「いつでも側に居てくださるのですね!」とか悦に入るもんじゃねぇの?


「性別、年齢、容姿。あとはそうだな……他にも気付いたことがあるなら話せ」

「えっ……えっと、えーと、あの」


 どんな奴等か把握しようと質問したのだが、一度に訊きすぎて混乱したらしい。

 こいつは飯の途中でもあるし、俺もいい加減桶を片付けたい。ここらで休止を入れるか。



「俺は少し外すが、お前は食ってろ」

「うん!」


 無駄にいい返事である。




 井戸で桶とタオルを洗い、ついでに顔も洗って戻ってきた俺は、フレアさんに一声掛けようとリビングのドアを開け……。


「パセリ君、これも美味しいよ」

「わーい!おいしそー!」

「おかわりもあるからね」

「わーい!ありがとー!」


 ぱたん。慌てず騒がずドアを閉めた。


 落ち着け、俺。幻覚だ。フレアさんとマシューと小人が和気藹々としているなんて有り得ないだろう。

 そうだ、有り得ない。幻覚幻覚。よし、行こう。


「あっ、ショー!お帰」


 ばたん!少々力加減を間違えて、ドアが不吉な悲鳴を上げたが、無視。開かないように背にすることで、ようやく一息吐く。


「……意味がわからないっ……!」




 このまま部屋に戻って寝てもいいだろうか。






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