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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
魔猪
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 ぶーぶー言う餓鬼共げふげふお子様達を黙らせ、俺は借りているマシューの部屋に、人形と水を張った桶を持ってきた。


 近くで見れば、ますます美しいことがわかる。大きさ故に全く毛穴の見えない肌。乱れてはいるが、顎の線で揃えられているだろう緑色の髪。光合成できんの?

 中性的で、見た目で判断するなら女だろう。しかし、女より綺麗な面した連中を知っている為、あまり当てにはならない。


「俺はこれから仕事に行く。戻るのは夜だ」


 人形は喋らない。動かない。当たり前だ。

 窓の鍵がしまっていることを確認し、カーテンを引いた。桶の横にハンカチを置いて部屋から出る。少しだけドアの前で聞き耳を立てたが、特に物音もない。


「ショーさん」

「ああ、フレアさん」


 階下からフレアさんに声を掛けられた。小さなタオルを持っている。


「お人形は綺麗になったかしら」

「汚れが酷いから浸けてる。戻ってくるまで桶借りてていいかな?」

「それはいいけど……洗っておきましょうか?」

「ありがとう。ちょっと特別な人形だから、そのままにしておいてくれる?タオルは後で借りるよ」


 笑っていう俺に、フレアさんも笑みを返した。言い訳としてはお粗末過ぎるが、何か事情があることは察してくれたらしい。

 バレたらバレたで仕方ないけどな。手は出したが、最後まで責任を持つつもりはない。

 そもそも、戻ってくる頃まで居るのやら。まあ、居ても居なくても俺はどうでもいい。




 昼までの成果が芳しかった為、二頭だけ狩ることになった。当初の予定では夜までだったが、夕方までには迎えに来るらしい。


 魔猪についての知識が増えたので、もう一度森を回った。地形や縄張りに当たりが付くようになったので、朝よりは楽である。

 今度は牙の長さだけでなく、形にも注意した。そうすると確かに、折れている個体も何頭か居るのである。根元が太い。

 朝は見付けられなかった立派な牙の雄も何頭か見付けた。雌に比べたら少ないだけで、そう雄の数が少ない訳ではない。


 牙も単に縄張り争いで負けただけかもしれない。憶測で大事にしかけて、実は少し恥ずかしい。

 二頭は牙の折れた魔猪にするとして、探索を続ける。


「うん?」


 腐臭がする。

 人によっては甘酸っぱいとも、饐えた臭いとも言う。俺は酸っぱくて少しだけ苦いように思う。実際のにおいというよりは、それを嗅いだ本人がどんな印象を受けるかなのだろう。

 ざっとではあるが、この辺りも午前中に探索したんだけどなー。風向きが悪かったのかもしれない。

 とりあえず臭いの元に行ってみるか。


 歩き出して三分、俺は激しく後悔をしていた。

 臭い。臭い!目に滲みるような気さえする。俺、獣人だったら死んでんじゃないだろうか。

 そう考えると、あの術屍は相当気を使ってたんだろうな。白粉で誤魔化していたのもあるだろうが、少なくとも近付くまでは臭くなかった。


 目の前にあるのは、魔猪の死骸である。

 個人的には腐った肉と骨の山と思いたいが、汚れてもしっかり形を残した毛皮が現実だ。


 ぶんぶん飛び回る蝿がうざいキモい。これあれだろ、こいつを喰ったか啜ったかして成体になった蛆だろ。んで、またこいつに産むつもりなんだろ?親子揃って魔猪さんに育てて貰ったようなもんですってか?気持ち悪ぃいいい!!


 多分、頬までびっしり鳥肌が立っている。恐怖を覚えるまでとはいかないが、虫は普通に嫌いだ。あ、楕円形に長い触角を持った奴は別な。あれは恐怖の大魔王だから。

 一匹二匹がぶんぶんしてるくらいなら手を振って追い払えるが、小さいのが集まって蠢いている状況には近寄りたくない。いや、無理。普通に、無理。


 正直視界に入れるのも嫌だが、何かがわかるかもしれない以上、放置する訳にもいかない。近寄らなくても見える吸血鬼の視力を喜ぶべきか、蝿の複眼までわかることを呪うべきか。正直後者が優勢である。


 死骸は木の洞に隠れるようにあった。腐る前の巨体が入るにはぎりぎりなのと、残った肉の量からして、餌として隠された訳ではないな。ここに来るまでは息があったということか。


 意を決して死骸を見る。牙が折れていた。それで雌と同じくらいなのだから、雄なのだろう。

 死因は……何なんだろうな。汚れが酷すぎてよくわからん。奥側には何かあるのだろうか……無視してもいいだろうか。


 空ではない遠いところを眺める。遠くで鳥の鳴き声。無視できない腐臭。……だあ、くそっ!


 俺は洞の入り口とは逆に回ると、倒壊させない程度に蹴った。幹の振動が伝わり、枝葉は更に大きく揺れて葉擦れの音が響く。そしてそれと共にぶうんと低いノイズが。こちらからは幹で見えないが、動いてる……動いてるよ……。


 こういう時、精霊術が使えたらなぁとは思う。しかし、使えないものは使えないのだから仕方ない。

 恐る恐る正面に回ると、先程よりはマシになっていた。いやまあ、それでも多いのだが、先程が酷すぎて何とか堪えられそうだ。多分。


 手袋をしっかりはめ直す。丁寧に鞣した薄い革を、何枚も貼った革手袋だ。勿論、世間から外れることがかっこいいと思う野郎共愛用のそれではない。

 多少潔癖症の気がある俺にとっては、旅の必需品の一つでもある。縫い目が重ならないように作られているので、防水性も高い優れものである。


 よし、と気合いを入れた。




 ショー・ピール・ブラッディローズ、特攻します!






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