33
Aランクか。同業者だとは思っていたがそれは凄い。いや、自慢ではなく。
以前俺に突っ掛かってきたBが居たが、あの年齢くらいが普通だ。
実績を積めば、普通の"夜狩り"でもBにはなれる。生き残っていれば。
まだ二十代だろうにAということは、それだけの能力を買われているのだろう。
見たところ混血でもなさそうだし、種族チートな俺やホワイトと違って、本当に実力なんだろうなあ。後は人柄か。
「ソロ?」
「ええ、たまに組むこともあるけど、基本的には。ショーは?」
「俺もソロだよ」
たまにギルドで鉢合わせしてしまった赤毛の餓鬼と組まされることがあるが、あれはギルドからのお守り命令だと割り切ることにしている。
高ランクで人数指定が入る依頼は実入りもいいし、何より、折角上げたギルドランクを餓鬼のせいで下げられたくない。
「組むのはクリムだけなのね」
「待って。本気で待って。組みたくて組んだことないから」
「え?でもクリムゾンローズって」
「言ってない!俺言ってないよ!?」
寧ろこの間初めて知って愕然としたわ!
賑わっているとはいえ、まだ酔うには早い時間である。そもそも飲んでいるのがアルコールでない以上、騒ぎを起こすわけにもいかない。
葡萄水を、胸の奥から込み上げる気持ちごと飲み込む。ちっ、なくなった。おねーさん、葡萄水もう一杯。
「あなた達のランクに不満を持った"夜狩り"を撃退したって聞いたけど」
「……それは事実だけど」
その時も原因はホワイトにあると言っていい。
こいつが突っ掛かってきたせいで、その時ギルド内に居た連中に俺のランクがバレたのだ。
年下の癖に自分達より高ランク"夜狩り"等、納得できない者は多い。
顔と赤毛で目立つホワイトは、前々からそういう連中に絡まれていたとか。
そんな連中の前に、また見た目餓鬼の高ランクが現れた。しかも、いけ好かないクリム・ホワイトと何やら知り合いらしい。
変な自尊心だけは高い連中は、そこでぷっつんした。
その結果がAランク"夜狩り"二人による、『野郎ばっかの地獄の訓練場〜ぱたりもあるよ!〜』である。
いや、実際こんな言い方はしていないだろうが、とにかくむさかった。女成分少な過ぎて辛かった。
Aランクってんなら強ぇんだろアーン?やら、Aランクのご教授頂こうじゃねぇかアーン?やら、こんなチビがAランクだとアーン?やら……
流石は見た目もしゃべり方も区別がつかないモブ共である。餌付けしてぇなら鳩にやれ。
普段なら格下なんぞ放っておくところだが、俺は、それまでに虫の居所が最悪になっていた。
なので、とりあえずチビと言った奴をぶっ飛ばした。
何故か、乱戦になっていた。
むさ苦しい野郎共を殴り飛ばして蹴り飛ばして、踏みつけて踏みつけて踏みつけた覚えはある。誤解がないよう言っておくが、連中が俺の足の下に居るのが悪いのであって、俺の趣味ではない。
最後に残っていた赤毛の餓鬼をしっかり昏倒させた後、訓練場から出た俺を迎えたのは、騒ぎに加わらなかった"夜狩り"達とギルド職員の引き攣った顔であった。
それがどうして奴と組んでることになったのかが、さっぱりわからない。つか、普通に俺への名誉毀損だと思う。
「でも違うから。俺はソロだから」
「まあ、その内相棒にするけどな」
「酔っ払いウザい」
寝言をほざく赤毛を掴んで叩き付けたい。しかし、これから飯を食うので自重した俺は何ていい子なのだろう。とりあえず奴のエールに砂糖を入れた。
「酒に砂糖を入れるな!」
「甘くない酒の何が美味い」
「十分甘いわ!お前の舌が餓鬼なだけだろうが……」
眉を顰めて、一気に飲み干すホワイト。
文句を言いつつも残さない辺り、こいつの育ちの良さが出ている。躾が良かったんだろうが、まさか"夜狩り"なんぞになるとは思わな……くもなかったかもしれない。あの家はちょくちょく"夜狩り"が出る。
赤毛を見れば、口直しにピクルスを摘まんでいた。
「ふふふっ、本当に仲がいいのね」
「いや、だから」
「お待たせしました!葡萄水にグリーンサラダ、ポトフ、海老のフリットにパエリアでございます!」
「あ、はい」
他のお料理は、もう少々お待ちください。グラスお下げ致しますね!
否定しようとしたところで料理と飲み物が来た為、タイミングを逃してしまった。
しかし、この量を一人で持って来るとは……意外と力持ちな店員さんである。だがそのギャップがいい。
茶髪に象牙色のエプロンがよく似合っている。そんな可愛いウェイトレスに対して、普通にエールのお代わりを頼むこいつは何なんだろう。イケメンの余裕か悪人面の癖に。
ミナがサラダを取り分けてくれていたので、俺は海老を同じ数とパエリアを適当によそった。残りは俺か赤毛が食うだろう。
「あ、セロリは少な目がいいな」
「好き嫌いは駄目よ」
「えー……でも酸っぱいんだ」
「ダーメ。大きくなれないわよ?」
その言い方がまさにお姉さん、といった感じできゅんとした。渡された取り皿にはこんもりサラダが盛られていたが、心なしかセロリが少ない気がする。
ミナを見れば、苦笑が帰ってきたのでそういうことだろう。俺の中でミナの株は急上昇中である。
「クリムも」
「ん、ああ、ありがとう……なんかセロリ多くないか?」
「気のせいじゃない?」
にっこり笑って言うミナ。あれ?よく見たらミナのも少ない気がする。というかホワイトの多くね?
美人でお姉さん属性なのにセロリが苦手……えっ、何それ可愛い。
とりあえず葉っぱをもしゃもしゃ食う。
「いや、詰め込みすぎだろ。お前は栗鼠か」
「…………んく。ここのサラダが食いづらいだけだっつの」
新鮮さを表現したいのか、一口が大きい。見た目は華やかになるが、食べづらいことこの上ない。
今度は少な目に取ってみたのだが、皿の下の方からどんどん葉っぱが引きずり出される。
「ドレッシング、付いてるわよ」
「んー」
「動かないで」
ミナの指が伸びてきて、唇の端を拭った。一瞬、呆けてしまったが、慌てて野菜を噛んで飲み下す。
「……ええと、ありがとう」
「どういたしまして」
優しく笑うミナにどきどきする。赤くなる顔を誤魔化す為に、海老に噛み付いた。
さくっとした歯触りの後、弾けるような弾力。衣に包まれた身は旨味が閉じ込められ、甘さと僅かな塩味が口の中に広がる。
もう一尾の海老は、皿に残ったソースを絡める。濃厚でまろやかなソースに、粗く刻まれたピクルスの食感が楽しい。
もぐもぐもぐ。ごっくん。
「もう一皿頼んでいい?」
「美味しいでしょう?」
笑いながらミナは海老に噛み付いた。
美人と一緒の食事は美味いなぁ。赤毛?知らん。




