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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
夜会
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108


 "花冠の吸血鬼"は、吸血鬼の中でも特殊である。

 以前何かの機会に話したように、吸血鬼は産まれた時の月の状態により、"純粋なる吸血鬼"、"守夜の吸血鬼"、"月僕の吸血鬼"と分けられるが、それぞれ自然発生したものだ。親もなく、月から産まれる化け物共。

 そいつらは、自らの血を与えること――『血の祝福』とか言う痛い奴も居る――で同族を増やす。元々は人間であったり亜人であったりする、生まれつきではない吸血鬼は全てこれだ。この場合、親は血を与えた吸血鬼になる。


 しかし、"花冠"はそのどちらにも当て嵌まらない。彼等は吸血鬼の両親の血を引いて産まれる、生物として最も自然な吸血鬼なのだ。

 まあ、生殖器官が機能するから、他種族との混血も居るのだが……。本人が気付いていない混血を抜かしても、混血と"花冠"の数は圧倒的な差がある。下手したら"純粋なる吸血鬼"並みに稀少だ。


 予想ではあるが、吸血鬼の遺伝子が劣性であることが原因ではないかと思う。他種族相手であれば、性質全てを向こうに丸投げすれば済むが、吸血鬼同士だとどちらの特徴を優先すればいいかわからない。だから産まれない。

 蔑む癖に吸血鬼が他種族に惹かれるのも、恐らくこの辺りが関係するのだろう。血を残すのは生物の本能だ。生きてんのか死んでんのかわからない連中も多いが、吸血鬼だって一応生物なのである。


 吸血鬼と吸血鬼の間に子供は産まれにくい。だが、可能性が低いだけで絶対に産まれない訳ではないのだ。そうして産まれた"花冠"は、親の特徴を濃く受け継ぐ。それも大体がいいとこどりで。

 多分、農作物なんかに見られる交配一世代めなのだろう。違う形質の純粋な血統と血統を合わせると、より優性な形質が発現する。で、いいとこがそれに当て嵌まってしまうのだろう。

 俺の予想が正しければ、両親の駄目な部分を総取りする奴も出てきそうなものだが……まあ、"花冠"の総数が少ないしな。

 珍しいから、不届き者の魔の手から守る為に家に仕舞い込む連中も相当数居るだろう。本来ならアンジェラもその一人だった筈なのだが、まあ、色々なきっかけが重なって、割りと外に出られるようになったのだ。


 "純粋なる吸血鬼"ルナと"守夜の吸血鬼"ユーリのハイブリッドであるアンジェラは、そんな感じで超絶美少女である。

 箱入り娘だが、別に我が儘というものでもない。多少世間知らずなところもあるが、天然方面に偏る言動を見ると、うんうんそうだねと甘やかしてやりたくなる。あ?贔屓?うっせぇ俺は可愛くて性格のいい娘の味方だ文句あっか。


 お供の蝙蝠を引き連れて、広間を歩く姿は百合の花。動詞は見る側の状態を表すという説もあるが、アンジェラの清楚で可憐な雰囲気が妨げられるものでなければどちらでもいいや。

 薄い生地を何枚も重ねたドレスは、青の濃淡が出ていて、血の通った白い肌を美しく見せている。俺には女性の服飾は良くわからないのだが、多分、金糸の刺繍も計算されてるんだろうなぁ。彼女の目と比べてしまえば褪せてしまうそれは、添え物として見事に役割を果たしている。


 可愛い、可愛い。このままずっと眺めていたいくらい可愛い。というか、それしかできないくらい芸術的な光景なのに、どこにでも情緒のわからない馬鹿は居るものだ。その姿を見付けて眉を寄せる。

 中年の姿をした男が、ふらふらと彼女の前に立った。あの姿が本当なのか、趣味で変化をしているのかは知らないが、少なくとも体と服が合っていない。おっさんならもっと落ち着いた色と形を着ろよ。


 おっさん吸血鬼は蝙蝠が威嚇しているのにも関わらず、何やら話し掛けている。アンジェラも無視してしまえばいいのに、愛想良く笑みを返してしまうから馬鹿が調子に乗る。まあ、素直な彼女には無理な話か。

 内容からすると、男が"月僕"であるということ、アンジェラが誰かは知らないということ、下心を隠せもしない下劣さだけはわかった。オーケイ、最後のだけでも十分万死に値する。

 後ろから飛び蹴りでもかまそうか。実行に移そうとしたところで、隣の奴が動いた。


「アンジェラ、大丈夫か」


 ラジーに気付いたアンジェラは、ふうわりと笑った。ちょっ、かーわーいーいー!それを間近で見るのがラジーというのがむかつくが、そちらは後で蹴り倒せばいいので問題ない。

 その破壊力抜群の笑顔を近くで見た吸血鬼は口を開けて呆けていたが、邪魔者に気付いたのか顔を顰めて文句を言い出した


「……何だお前は。このお嬢さんは今私と」

「あ?テメェに用はねぇよ」


 行こうぜ、と手を出したラジーの腕を取るアンジェラ。獲物をかっ浚われたおっさん吸血鬼は、顔を真っ赤にしてラジーの肩を掴んだ。


「知り合いでも、会話の邪魔をするのはマナー違反だろう」

「会話?あんたが絡んでただけだろ」

「貴様……!私は"尊き血"たるダドリー・ナイトメア・グレイトバーダックだぞ!」


 や、野菜だと……!?いや、植物であることは間違いないが、野菜の血統名なんて初めて聞いた。しかもグレイトって……聞いている方も恥ずかしいわ。何で本人は平気なんだ。

 しかし、"尊き血"とは人は……もとい、吸血鬼は見た目によらないものである。外見以上に、こんな性格で良く長生きできたなぁ。たまに居る、どう考えても真っ先に死にそうなのに、最後までこっそり生き残っているタイプなのだろうか。


 なんて、他人事みたいに思っていたが。口を噤んだラジーの姿に目を細める。そういう訳にもいかなくなってきたようだ。

 吸血鬼が、名乗った。初対面ならお互いに名乗り合うことくらいするが、そんな雰囲気でもない。喧嘩を売られているのだ。ラジーの外見から、元人間だと判断した上で名乗れと。名乗れば、一発でわかるからな。


 相手の実力はわからないが、ラジーが本気を出せば負けないだろう。レト・ナイトにはいいようにされているが、ラジーは結構強い。

 "尊き血"には足りないにしても四百は超えているし、荒事にも慣れている。そもそも『親』がレト・ナイトだ。元人間の吸血鬼といっても素地が違う。


 だから、ラジーにとっての問題は勝つか負けるかではない。とにかく名乗りたくないのだ。

 相手も結構な名前のくせに名乗ってんだから気にすんなよ、とは言えないよなぁ。向こうは血統名以外は、まあ、アリだが、ラジーは全体的にナシである。

 というか、合わさっているからこそ増す破壊力。ラズベリーでスイートでスイートピーな大男を真っ向から可愛いと言えるのは、奴の『親』である美少女風吸血鬼くらいなものである。あ、アンジェラも言っちゃうかも。ちょっと不思議も入ってるから。


 だが、いくら嫌でも、言わなくちゃいけない時もある。例えば……下心を抱えた親父から可愛い女の子を守る時とかな。困り顔のアンジェラに気付いたラジーは、苦く笑った。あ、腹据えたな。

 こういうところを見ると、学習能力がないんだなぁ、とは思う。そのお節介のせいでレト・ナイトに目を付けられたんだろ。

 だが、まあ、仕方ないといえば仕方ないのだろう。名前の方を選ばなかっただけでも上出来である。




 結論、馬鹿は死んでも治らない。それが例え、人間としての死でも。






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