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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
屋敷
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102


 居座られても困るので、直接文句を言う為に屋敷まで飛ぶことにした。

 俺が居なくなっても気にはしないだろうが、放っておくとまた飯を抜きそうなので、仕事机に手紙を残す。本人が居ない状況で仕事場に入るのはあまり気が進まなかったのだが、他の場所に置いても気付かない可能性があるからな。

 ついでにブーツの回収もした。相変わらず仕事が早い。気になっていた指の遊びがなくなっているし、履き心地も良くなっている。やっぱりまた靴を作らせよう。ブーツに足を突っ込みながらそう思った。


 闇に乗じて翼を広げる。十分な高さを稼ぐまでは気を抜けない。ただでさえ、今夜は白狼目当てで彷徨く馬鹿共が多いのだから。物々しい装備の冒険者が何人も視界に映る。

 だが、上がってしまえばこちらのものだ。狼は飛ばない。月を背にしないように気をつければ、俺に気付く者等居ないだろう。精々、地に視線を落として夜を過ごすがいいさ。


 翼を鳴らしながらオパリオスの街を飛ぶと、視界に入る影、影、影。

 途中、明らかに慣れていない奴も居たが、職人だろうか。素人は止めた方がいいと思うけどなー。それで腕でも怪我したらどうするつもりなのだろう。まあ、俺には関係ないか。


 オパリオスの街からそろそろ出ようというところで狼の遠吠えが聞こえた。

 例の白狼だろうか。馬鹿だな、そんな見付かるようなことをしたら、マジで捕まるぞ。昨日と違って、今宵はそこに居る全てがお前の敵だ。

 可哀想だと思わなくもないが、巻き込まれるのは嫌である。


「速度上げんぞ。ちょっと入ってろ」

『む、私ならだいじょ』


 最後まで言わせずに、側を飛ぶ身体をむんずと掴んで外套の内側に入れた。もしかしたら翼が折れたかもしれないが、蝙蝠とはいえ半吸血鬼。どうせすぐ治る。気にしない気にしなーい。

 翼を大きく羽ばたかせて、スピードを上げた。遠ざかる遠吠えは、どこか悲しそうであった。

 ……うん?何か前にもこんなことあった気がする。暫く考えたが、良く思い出せない。まあ、いいか。

 何でこんなところに居るかは知らないが、人間に捕まんなよー。他人事ではあるが、逃げ切れるといいな。




 山奥にある洋館。何年振りかに見た屋敷は、相変わらずそれっぽい雰囲気を漂わせていた。

 灰色モザイクの石の壁。屋根は黒く、窓枠等は所々の白い。屋敷の外観はこれでもか!というくらい白黒なのに、庭には葉の緑を主として色とりどりの薔薇が咲く。

 麓の村の人間は、滅多にこちらの方には来ない。昔から、山には神が居て、怒らせなければ平和に過ごせるという言い伝えがあるのだ。強ち間違いでもない。

 そうして人目から離れた屋敷に来るのは、迷い込んだ町民や阿呆な冒険者系、殆どいないセレネの知り合いの他に……。


「何であんたが居るのよ、なり損ない!」

「それはこっちの台詞だ、自称ボトル」


 勝手にセレネの専用餌を気取っている、人間の馬鹿女くらいである。

 基本的には女に優しい俺だが、毎回毎回顔を合わせる度に喧嘩を売ってくる変態にまで、優しくするつもりはない。

 屋敷の連中はよく平気だなぁ、と思って蝙蝠を見れば、馬鹿女に威嚇をしていた。


『ショーはセレネ様の半吸血鬼だ!相応しくないのは貴様の方だろう、小娘!』

「下僕如きが笑わせてくれるわ!あたしはあの方のボトルよ!」

「胸張るとか意味不明」


 化け物の餌になるなんて、不名誉であってこそ誇れるものではないだろう。つか、お前、被吸血依存性じゃん。吸ってくれる奴ならセレネじゃなくてもいい癖に、と呟いたら、烈火の如く怒り出した。


「あの方以外なんて、よくもおぞましいことを!想像しただけでも吐き気がするわ!」

「はいはい、吸血鬼なんて皆一緒」

「同じな訳ないでしょう!」

『全く違う!』


 おい、何でお前はそっちに付く。俺は、肩の上で喚く蝙蝠に冷たい視線を向けた。


「月光の如き白金色の髪。一点の曇りなき黒の瞳。全てにおいて完璧な造形はまるで美神の……いいえ、神なんて生温いわ。あの方はそう、美の化身。美そのものなのよ!」

『月蝕の夜にお産まれになられた、いと尊き"純粋なる吸血鬼"!議会の一員にして、存命の吸血鬼の中でも随一の力を持つ"尊き血"!ああ、あの方の半吸血鬼になることのできたこの身が誇らしい……!』


 くっだらねぇ。興奮して見悶える連中を見ると、どんどん心とか脳味噌とか、とにかくそういうところが冷めてくる。お前らどんだけセレネが好きなんだよ。

 あいつが群を抜いたチートであることは否定しないが、何でもかんでも一番じゃねぇだろ。顔ならソシ・レだって張れるぞ。感情豊かな分、俺はあっちの方が好みだ。

 ……つい男で比べてしまったが、二人とも、どんだけ綺麗でも野郎は野郎だった。危ねぇ、ある意味ペースに乗せられている。


「とにかく!セレネ様のボトルはあたしなんだから!あんたなんてお呼びじゃないのよ!」

「俺がまるで吸われたがっているような気色の悪い妄想を止めろ変態!」


 あまりの不快感に、一瞬で全身の毛穴という毛穴が縮んだ気さえした。手足が俺の意思を無視してめちゃくちゃに動き出しそうな感覚は、間違いなく怒り。こ、の、女ぁ……!

 俺の手が伸びる直前、目の前の変態の頭から猫耳が生えた。……いや、猫耳を持つ人物が後ろに立ったのだ。どごっ。鈍い音がして女は倒れた。

 女の頭をモップで強打した彼女は、黒いワンピースの裾を払う。


「もー、今夜はお客様がいらっしゃってるから、静かにしてくださいって言った筈ですにゃ!レベッカさん!」

「……多分聞いてねぇと思うけど。現在進行形の方の意味で」

「あ、ショー!お帰りなさいませにゃ!」


 真っ白なエプロン以上に眩しい笑顔を向けるのは、この屋敷のハウスメイド、人猫ワー・キャットのミケだ。左右で茶黒と色の違う耳がチャームポイントである。

 あー、うん、と生返事をしつつ、視線は馬鹿女の方に向く。出鼻を挫かれたからか、気が削がれた。こいつのことは大嫌いだが、大丈夫か?結構凄い音がしたが。

 視線に気付いた蝙蝠が、いつも朝には起きて帰るから問題ない、と言った。いつもこんなことしてんのか。学習しない方が悪いのは間違いないが、やる方もやる方である。嫌な屋敷だな。

 思い浮かんだことに、首を振る。主人が主人なのだから仕方ない。


 そもそも、奴がこの女を立ち入らせるのを許しているのがいけないのだ。正確には許可等出してはいないのだが、禁止していなければ変わりない。

 引き籠ってばかりのセレネには、大した量は必要ない。それでいて、食事にそれ以外の価値を見出ださないから、狩りや味を楽しむこともない。楽だろうが面倒臭かろうが、美味だろうが激不味だろうが、腹さえ満ちれば何でもいいのである。


 そこに、この女である。まだ少女だった頃にセレネに助けられたという馬鹿女は、その時からセレネの信奉者だ。

 この身も命もセレネ様の物!と屋敷に突撃をかましたそうだが、案の定セレネは覚えてなかったという。忘れたのではなく、どうせ覚える気がなかったんだろ。

 子供の頃からセレネ一筋だったこの女は、セレネ様に不味い血を飲ませられない、と貞操を守っているらしい。でも、セレネが望むなら、捧げるつもりがあるらしい。

 後者を聞いた時も、先程のように鳥肌が立ったものだ。そしてはっ倒した。まだ子供だったから、何とか手加減はしたが。


 何が言いたいかと言えば、この女は葱背負った鴨だと言うことだ。もっとも、セレネなら老若男女問わず鴨にできるがな。

 淫魔のようなフェロモンはないし、悪魔のような言葉は紡げないが……吸血鬼は人を誑すのが上手いのだ。誑されて、堕とされて、気付いた時にはもうそいつが居ないと駄目になる。"夜の子"になるような奴は大体そうだというのが俺の持論だ。

 かつての少女も、その無意識の誑し成分に当てられたのだろう。しかし、俺に迷惑を掛けている以上、同情の余地はない。


「……ん?客が居るって言ったか?」


 猫耳メイドの言葉の中に引っ掛かるものがあった。

 引き籠りで、"純粋なる吸血鬼"のセレネに客等滅多に来ない。たまに、今回みたいに空気読めない奴が、招待状なんかを半吸血鬼に持たせて来ることはあるが、基本的には家令ハウススチュアード迄で事足りる。

 セレネが直接対応するような者なんて、それこそ指の数でも足りるくらいじゃ……。そこまで考えて、頬が引き攣った。厄介な奴の方が多い。

 俺の疑問に、優秀なハウスメイドは明るく答えた。


「はいですにゃ!レト・ナイト様がいらっしゃってますにゃ!」




 おい、一番タチの悪い奴が居るぞ。






 世の中には白猫娘や黒猫娘が多い気がしますが、三毛猫娘も可愛いと思うのです。

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