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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
サフィルス
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10


 人間に対して、夜族は持久戦に持ち込まれるのが一番キツい。

 基本的な生命活動を生気に依存する夜族は、その分を生者――場合によっては死骸――から吸収することによって存在を続ける。

 闘争の中に身を置くということは、その生気の消耗に他ならない。能力の発動等の消耗は勿論、敵と対峙した段階で生命維持分ががりがりと削られていくのだ。

 多分、殺し殺されるという緊張下で、普段だったら無意識に消費を抑えているものの制御が効かなくなるのだろう。

 元々の許容量が多い為、狩り程度ならそれほど深刻なものでもない。しかし、実力の拮抗する相手なら別だ。些細な問題が命取りとなる。


 尤も、それは人間も同じだ。

 基本的に捕食者は夜族、人間は被捕食者。相対することによるストレスは、夜族の比ではないだろう。

 生気に依存しない代わりに、気力体力、どちらが欠けても人間は戦えない。気力が尽きれば体は動かなくなるし、体力が尽きれば心が折れる。

 よって、事前に罠を仕掛け、周到に絡めとる計画でない限り、夜族と人間の殺し合いは直ぐに終わることが多い。たまに嬲ることが目的になっている奴も居るが。


「手、治さないのか」


 よく言う。夜族の回復力は高いとはいえ、そうすぐに治る訳ではない。

 薄皮一枚再生するくらいならできるが、それにも生気を消費する。脈打つような痛みは不快だが、そこまでして優先することでもないだろう。

 ニィと口の端を上げる。


「ハンデさ。……ああ、足りなかったか?」

「抜かせ!」


 炎の矢が飛ぶ。火球と比べれば地味な術ではあるが、鉛の板程度なら軽く貫通する威力はある。こういった狭い空間では、寧ろこちらの方が使い勝手がいい。


 跳び上がり、壁を蹴る。目標を失った矢はそのまま石壁にぶつかって消えた。石壁の僅かな引っ掛かりを脚力で抉りつつ、奴の頭上へ。

 赤い目と目が合う。ホワイトの口が小さく動き、現れる炎の矢。今度こそ逃げ場はない。弧を描く唇。

 腰に手を回す。弓が引き絞られるように矢が放たれる瞬間、俺は手にしたものを矢に向けた。


 精霊は喰えない。発現した事象も、既に生気とは言えないから喰えない。吸血鬼にとっての"夜の血"も、発動した段階で血液とは別物になることを考えれば、そう可笑しなことでもない。

 事象は実体。ならば。


 ――実体で相殺できるということ。


 引き金を引く。銃身を短くしても、威力を落とす気はなかったらしい。希少金属を使用しているのか壊れはしないが、発射まで支え続けるのは並の人間には無理だろう。

 どうすれば一般兵に扱えるレベルで量産できるか、その事に頭を悩ます開発機関が見たら殺意が湧くだろう。ホワイトの身体能力だから武器として扱える銃。だがそれは人間という前提の話。


 反動は筋力だけで捩じ伏せた。真っ直ぐ飛んだ銀の弾は、狙い通りに炎の矢を散らす。そして弾はそのままホワイトの肩を掠めた。かつり、と靴裏が石畳を鳴らす音。

 目の前に着地しても、まだ状況が掴めていないらしい。まぁるく開かれた真っ赤な目。まるで飴玉みたいだ。

 はっとしたホワイトがナイフを構えるが、遅い。得物を持つ手を蹴り飛ばす。ナイフは甲高い音を立てて石畳に転がった。

 流石に正気を取り戻したらしい。武器を失ったと見るや、すぐさま左手が伸びてくる。脚を折る気で拳を握る手首を掴み、力を込めた。


 ごぎり。


「ッ…………!」


 痛みに眉を顰めたのは一瞬。膝が動いたのを見て、既に戻した左足を軸に奴の軸足を払う。為す術もなく転がる肢体。

 起き上がる為に付いた手に焼けた手を重ねる。理解できないと上げた顔ににっこり笑ってやれば、その顔が凍りついた。その表情を隠すのは惜しいが、顔を掴む。壁に叩き付ける。大丈夫、こいつ慣れてる。


 気絶はしなかったようだが、平衡感覚は狂ったようだ。見当違いの方向に伸ばした手。それによってぐにゃぐにゃと揺れる身体。


「で、俺に何か言うべきことは?」

「……ぜってー……契約させてやる……」

「そうか」


 肩を押せば、バランスを崩して顔から沈む。そのまま無防備な背中に乗り上げた。先程と同じように顎を掴んで目を合わせる。焦点が合わないから普通の美形に見える。こういう顔をしていれば年相応なんだがな。




 言ってわからない餓鬼には仕置きが必要、だろう?






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