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滴るような紅い薔薇  作者: ツギ
序章
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1

初投稿です。拙作ではありますが、お付き合い頂けたらと思います。


 いやだ。


 からからに渇いている喉で必死に出した声は届かない。

 口を動かすのも億劫で、実際は動いてすらいなかったのかもしれない。


 やめて。


 空に浮かぶ満月よりも、もっと、もっとキラキラしてる塊が止まった。

 死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない。

 痛いのはいやだ。辛いのはいやだ。苦しいのはいやだ。死ぬのはいやだ。


「ぃ……だ…………」


 もし次があるのなら、自分はきっと後悔するのだろう。

 それでも。


「……め……っ……――!」




 闇夜に怯える理由はもうない。







 日に焼けた赤茶色の長い髪。

 邪魔になるからか、二つに分けられた髪は紐を解いても形を残すほどきつく編まれていた。

 毛先から少しずつ梳いていけば、軋む音を立てながらも緩やかに広がっていく。

 日光の下では傷みが目立つそれも、柔らかい月明かりに照らされた髪は、いっそ滑らかとも言える色合いを帯びていた。

 肌も髪同様に焼け、荒れている。それでもやはり若さか、触れる肌はしっかりとした弾力を持ち、皮膚の下の血管一本一本さえも生命力に溢れているようだ。


 認識してしまえばもう我慢はできなかった。ボタンを外すのももどかしく、軽く襟を引き、現れた首を唇で辿る。

 すると、それまで震えるだけであった娘が首を振った。その細やかな抵抗がどれだけこちらを煽るかわからないのだろう。しかしそれ故に愛らしい。


 これは、ちょっと、期待できるかもしれない。


「私が恐ろしい?」


 真っ赤に染まった耳元で囁く。一度肩を弾ませた娘は、自由になる首だけでこちらに振り向いた。

 頬に浮いたそばかすも、少し低めの鼻も、涙で潤んだ茶色の瞳によく似合っている。


「ぁ……わ、私……」


 小さく震える唇に指を滑らせれば、開きかけたそれを固く結ぶ。一緒に目も強く瞑ったらしく、眉間に皺がよっている。

 そのことに小さく笑い、そっと娘の目尻に口付けた。

 娘は目と口を閉じたまま、俯く。


 こちらはと言えば、先程のやり取りで多少頭が冷えたらしい。今度はブラウスのボタンに手をかけ、一つ、二つと外していく。

 そうして露になった首筋からは僅かな土の匂いと甘い香りが立ち上った。


「力を抜いて。……そう、いい子だ」


 滴る蜜のように、甘く、甘く。


「初めは痛むかもしれないが、すぐ、慣れる」


 娘に囁き、もう一度首筋に唇を寄せる。

 右手で彼女の体を抱きしめ、空いている左手を肩から頬へと回し、今度こそ。




 牙を突き立てる。

 予想通り上がった悲鳴は、回した掌で塞いだ。




 美味い。

 初めに感じたのは強い甘さ。舌に絡めるように味わえば、錆び臭さを含んだ酸味が広がり、喉に滑り落ちる。体温に温められた芳醇な香り。

 尖らせた舌先で傷口を抉る度に、抱きしめた体が跳ねる。くぐもった喘ぎ声が耳に心地好い。


 吸血鬼(ヴァンパイア)の吸血には強い催淫作用がある。

 獲物に抵抗させず食事を行えるよう、吸血中は唾液に催淫作用を伴う成分が分泌される、らしい。調べようはないが。

 つまり蚊みたいなものか、と思ったのはもう何百年も昔のことだ。

 まあ催淫作用とは言っても、実際は麻酔的なもので痛覚を鈍くし、副作用と魅了(チャーム)で快感と錯覚させているだけと俺は睨んでいる。

 どちらにしても、こちらの食事が楽に終わならそれに越したことはない。


 だが。


 やはり吸血鬼とは面倒だな、と思う。

 正確には吸血鬼ではなく、半吸血鬼(ダンピール)である俺が言うのもアレだが。

 半吸血鬼と吸血鬼は、産まれ方も生態も立場もわりかし違うのだが、人間にとっては同じ化け物、大した違いはないだろう。

 まあこんなことを言えば、半吸血鬼は吸血鬼の奴隷だの、"称号"なしは吸血鬼とも言えないだの、満月の夜にも生まれてないくせに!だの、無駄に騒がしい連中も多いが……まあ、それは置いておく。


 吸血鬼の主食とは、勿論血液だ。

 では何故吸血鬼は血液を主食にするかと言えば、生気を吸収するのに最も効率のよい媒介であるということに他ならない。

 吸血鬼に限らず、基本的に夜族は命あるものから生気を吸収する。それは、生物の血であり、肉であり、夢や感情といった形のないものを好む種族もいる。

 人間が夜族を忌み嫌うのは、力で及ばないという以外に、自分達が獲物になり得ることに対する恐怖があるからだろう。

 ……気持ちはわかるんだが、生物の死骸が媒介というのも相当だぞ。でもまあ、だからこそ均衡が取れている部分もあるのだろうが。

 夜族は命を喰らい、人間達は死を喰らう。

 そうして何百年も何千年も、お互いに蔑み、妬み、焦がれ、殺し合いながら生きていく。


 何のために。

 死にたくないからか。


 ……腹が膨れてきたからか、余計な事を考える余裕ができたらしい。

 というかこの味に飽きてきた。

 美味いことは美味いんだが、その、なんというか…………くどい。

 とりあえずわかったことは。




 意外と奔放だったんだなミッカちゃん(20才未婚)…………






暫く設定だらけになってしまうかと……

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