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おかえりなしゃい

作者: 木下風和

これ、シリーズ化になるかも。

だって、明らかに字足らずでしょ、これ。

 「ツッカレタ~」


 そう言いながら、しゃがんで靴を脱ぐのがいつもの僕だ。

 すると、僕の頭に向かって、


 「おかえりなしゃい!」


 これを聞くのも僕の日課だ。




 今日はめちゃくちゃだった。部下の失敗に振り回されまくった。


 こんなオレでも、もう入社15年目。時間が過ぎるのは早いモンだ。

 運が良かったのは、昔っから勤勉だったこと。と言うか、何事にも一生懸命だったこと。農家の息子に生まれ育ったオレは、働かざる者は食うべからず、とさまざまなことに関して、全力でやれ、と教えられてきた。やんちゃも一生懸命。恋も一生懸命。勉強はいまいち。

 だけど仕事は一生懸命に。だって、家族がいるモンね、今は。



 そう言うことで今のオレは課長。15年目で、おまけに大企業でそんな高学歴でないオレが10年やそこらで上に上がれたことはうまい話ではないか。その分、部下の失敗には悩まされるけど、まぁうれしいと言えばうれしい。

 とはいえ目立つことのないオレだから、恋に関してはめっぽうだった。友人はさっさと恋人を作り、幸せな家庭を築こうとしているやつもいるっていうのにオレは30近くになるまで女一つにも恵まれなかった。

 でも、そんなときに現れたのが妻だった。彼女はそれはそれは美人で、オレはテレビや雑誌でしか見たことがなかった。それまでは。

 オレは昔から今まで、ずっと宣伝部にいる。28の時、宣伝関係で彼女の事務所にお邪魔することになったのだ。彼女が今回のモデルさんだ、入って6年目のオレには初の大仕事だった。デスクワークから上司と一緒に有名人に会える、その時にとってはめまぐるしい変化だった。


 「これが今回の契約内容です。」


 オレは縮こまりながら、説明した。誰に?そう、その女優さんご本人に。

 「でも、これは私のポリシーに反します。」


 何が何だか良くわかんなかったが、その時は上司は必死で説得していた。

 妻曰く、


 「私はアイドルじゃないんだから、イメージは絶対に崩しちゃいけないのよ。」


だそうだ。

 でも、オレはその時熱心になって説明する済木課長と女優、鹿島エリに惚れた。彼女に先ず惚れたのは仕事面においてだった。



 その後も何回かお話する機会があった。そして、ある日食事に誘われたのだ、エリに。

 職務上こんな事があった場合、お断りするのが鉄則なのだが、あまりのうれしさにそんなことも忘れて、別にOKですよ、と言ってしまった。その時にはもう彼女に叶わぬ恋を抱いてしまっていたのだ。悲しくも全力投球で。

 済木課長に言うべきか迷ったのだが、其処は機転を利かして黙っておいた。言うと、今後悔すると。しかし、それが逆に今後オレを後悔させることになるのだが。

 そんなこんなでエリとプライベートで初めて会う日がやってきた。今までは仕事だけだったのだから当然と言えば当然のことなのだが、何せ女性とつきあった事すらなかったモノだから、本当に初陣する気分だったのを覚えている。朝っぱらから緊張しっぱなしだった。

 彼女とちょっとしゃれたカフェで落ち合うと、それからは仕事に関する姿勢とか、芸能界の裏話で盛り上がった。エリはうまく変装していたのだが、彼女のプロポーションじゃ役立たず。彼女のところに人が集まりかけたところで彼女とはお開きにした。

 もうこんな事は今後ないだろうと落ち込んだ。無理なモンは無理なのだそう言い聞かして。

 しかしその後も何回かお話をしたのだ。もちろん彼女の方から。そして、ある日、僕はある決心をした。


 「つきあってください!」


 無理なのは分かっていたが、やっぱり男というモノ、押さえきれなかったのだ。これだけオレに会ってくれたのだ。神様ががんばれって言ってくれてるのだと思って。それだから顔を上げるのも恥ずかしかった。


 「仕事が落ち着いたらね。」


 うん?なんて言った、今。


 「えっ?いいんですか、僕ですよ、僕。」


 こんなしがないモノなんですよ?

 するとエリは、


 「あなたのように言い寄る人はいくらでもいるわ。でも、あなたなら大丈夫そうだと思って。仕事に責任感お持ちでしょ?」


 お父さん、お母さんありがとう。初めてその時心からありがとうって言えた。やっぱり親って凄いな、両親の教えがあったからこそ今の自分があったんだ、って思えた瞬間だった。恋ごとき?いや恋だからこそ。

 それから、絵里と何回かデートをし、そしてめでたくゴールイン。その前にはお恥ずかしプロポーズも遂行した。

 社内ではちょっとした騒ぎになって、済木課長にはおしかりを受けた。それをやっちゃイカンと何回も言ったはずだ、君は若いんだから、と。それでも課長、現宣伝部長には祝福のお言葉もいただいた。


 「ホントに君はまっすぐだ。」



 

 そして、結婚して2年後、オレが31歳、絵里が26歳の時に妻は子供を身ごもった。また、1年後にその子供、長女である由岐奈が生まれた。

 ホントに家族を愛してる。オレには夢のまた夢だと思っていたからかもしれない。でもその分、何よりも一生懸命になってるのは家族のことだけだ。




 「今日ね、かけっこしゅぃてこけちゃったの。」


痛々しい姿をこの疲れた体に向けられちゃ、目に毒だ。


 「おとうさん、そんなの見ちゃったらホントに倒れちゃいそう。」


 「由岐奈はもう倒れちゃったよ。」


 「そうだね。絆創膏貼ってもらったら、お母さんに?」


 「だめなの、赤ちゃんが苦しゅぃくなっちゃうから。」



 そう、彼女、絵里はまた赤ちゃんを身ごもったのだ。今度は男の子。出産予定日も後2ヶ月を切っている。

 だから僕も早く帰るようにして、毎日5時には家に着くようにしている。しかし、今日はちょっと遅くなって、7時半に帰宅してしまった。由岐奈がこれじゃあまりにも痛々し過ぎるし、まだ6歳の子がここまで母親の心配をしているのかと思うと、申し訳なくもうれしくも思う。次はこんな事無いようにするからね。


 「ごめんなさい、絆創膏かってくるの忘れちゃって。」


 絵里が間髪入れずに言う。


 「そしたら、由岐奈、さっき帰ってきたの?」


 僕がそう言うと、


 「そうなのよ。だから、早く帰ってきなさいってしかっていた時にあなたが帰ってきて。まるで勲章見せるかのようにして擦り傷見せつけてくるのよ。」


と絵里は笑って答えた。


 「由岐奈、早く帰ってこなかったらみんな心配するぞ。お母さんもこんなんなのに、すぐ探しに行けないかもしれないんだぞ。危ないから6時には帰ってきなさい。」


 父親面はいやだなぁ。


 「ゴメンナサイ・・・」


 由岐奈に謝られると逆にこっちが謝りたくなる。もうちょっと見てあげなきゃな、この子。

 「にしても、由岐奈の勲章なのか?これ。」


 「くんしょうって?」


 そうか、分からないよな、まだ。


 「金メダルみたいなモノだよ。」


 由岐奈はうれしそうに、


「そうなの?ならくんしゅょう!」


 本当に男勝りなやつだな。でも、お母さんみたいにも見えるんだよな。おまけにかわいいな、この笑顔。

 まぁ、絆創膏がないなら買ってくるか、とオレは絵里に


 「なら、ちょっとスーパー言って買ってくるよ、絆創膏。」


 「ゴメンナサイね。」

 手を前に合わせて彼女がつぶやく。


 「別にかまわないよ。」

 本当にかまわないよ。きれいだよなぁ、ホント絵里は。


 「おとうしゅゃん、早く行ってきて。」


 かわいい、由岐奈も。


 その後、買って戻ってきて由岐奈に絆創膏を貼って、女の子なんだからお肌はきれいにね、といとこと言った後、今日はちょっと遅れたので、絵里にも、


 「今日はゴメン、お母さん。名橋くんとかが色々やっちゃってさ。」


と一言謝った。もうちょっと謝るべきかな。わかんないな。


 「それよりも、由岐奈の方が心配だったのよ。まさか、あなたと同じぐらいに帰ってくるとは思ってなかったのよ。なによ、そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。あなた、それでも亭主?しっかりしてね。」


 「ゴメンゴメン。いや本当に申し訳なくってさ。だからら、言葉足ずかなって。そう言えばちゃんとしかっておかなきゃならないよな、さすがにこんな遅かったら由岐奈にも。ナンだよ。あなたが言葉足らずだと色々困りますみたいな顔をして・・・」


 「本当にお願いしますね。私が言っても、『ママが怒ったら、赤ちゃんが心配するよって。』自分が怒られてるのにね。あなたが言うとすぐにシュンとなるんだから。」


 彼女が笑う。

 こんな時の絵里は、ホント胸を熱くする。もしオレが生きのいい若者で彼女にも子供が宿っていなかったら、食べちゃいそうだ。だけど、今の彼女はどっちかというと『男の胸を熱くする』モノでも母性的なモノなのかな。包み込んでくれそうな雰囲気なのだ。だから、食べちゃいの逆かな。こっちから攻めるっていう感じじゃない。

 絵里が6年前由岐奈を生んだとき、彼女は女優活動を休止した。もちろん子育てに専念するためだが、その時から彼女の周りが大人の色気より家庭の温かさを醸し出したのだ。

 安らぎ、そんなたいそうな言葉よりも、つい、すり寄りたくなる、そんな雰囲気なのだ。

 そういやあの頃からだっけ、スキンシップが増えて、あなたは私とこの子のどっちに触れたいんですかって、とがめられたの。キザに「君が・・・」なんて言えるたちじゃないから、肩をすぼめたのを今でも覚えている。



 「今日は肉じゃがですからね。」


 「うん、ありがとう。」


 「わたしゅぃも手伝いたかったな。」


 「なら次から早く帰ってきなさい。」


 私は由岐奈をそう言い、なでた。



 ご飯も食べ終わって、晩酌もすんで、お風呂も入って、由岐奈もようやく寝床についた。

 最近は絵里も赤ちゃんがいるから、家に帰ってからの家事はオレの仕事だ。

 二人を早く寝なさい、といっておやすみをした後、いつもの夜のニュースを見た。

 特別、陰鬱な気分ではなかったのだが、今日のトップニュースにはドキッとした。ある地方で、昼間に小さい子供とその奥さんが殺されたと言う事件に関するモノだった。

 確かに、この事件の犯人が死刑になるとかならないもそうだが、それより亡くなった2人の方が凄く気になった。どちら凄く若いし、幼かったのだ。

 オレがもしこの2人の夫もしくはお父さんだったら、どうなるのだろうかと非常に胸が苦しくなった。想像もしたくはなかった。

 でも絶対、オレはこの幸せを守ってやりたいと思った。すでに起こったことを振り返ってもしかたがない、と言う人もたくさんいるはず。自分だって会社で部下にそう言うことを言うときもある。失敗したんだったらその分を取り替えせって。でも、家庭を持つ幸せに起こりうる失敗は、時に取り返しのつかない事態を引き起こす。だからこそ、俺たち、「パパ」はたとえばこのニュースもしかり、今まで培ってきた経験や見聞きしたことを土台に、家庭の安全を固めなきゃいけないのだ。そうしなきゃ・・・。

 想像もしたくないって言いたくなるのも分かるよね。残酷すぎるんだよ、不可抗力って。

 

 よし、今日は寝よう。明日もあの2人に。いや、もう3人かな。一緒にご飯をたべれるんだから。明日の朝も野菜スープかな。

 よし、明日は早く帰ろう。そしたら、明日はちょっと部下に頼むか。「名橋クン・・・昨日の分でさ・・・」って。明日は「たっだいま~」って言おうかな。


 やっぱこんなことを想像してたいね。


 小声でつぶやきながら、2人のいる寝室の扉に手をかけた。




明らかに字足らずです。

でも連載なんてたいそうな事はできないので、シリーズ化できたらやってみます。乞うご期待?

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