(0-8)無在
「どういうことだ?」
僕は男に聞くと立ち上がり、服についた砂をはらった。
「ククク、俺もよくはわからねぇ。……が『無在』についてならよぉくしってるぜぇ」
男は呪われた天使についてはよく知らないらしい。
呪われた天使?どこかで……あ!確か『五千年後の繰者』……。確かに詳しい情報はない。
そのことには諦めて『無在』について聞くことにした。
「『無在』とは何だ?」
「ああ、『無在』ってのは、どこにも存在が許された場所がねぇやつのことだ。だから『無在』は人と契約して人間の存在の中に存在する。どちらかというとだな、人間が頼んで契約するんじゃなくて、『無在』から契約を要求される。と言ったところだ」
「じゃぁ、どうやって契約するんだ。僕は要求された覚えはない」
そう訴えると男は眉間にしわを寄せた。
「……頭はいいみてぇだなぁ。まぁ、お前はいくつもの魔法陣・契約書を書いてるからなぁ、稀だか契約書を書いたときと偶然同時に要求されたってことだ。……『無在』と契約して悪いことはほとんどねぇ。潜在能力を少し開放してくれるし、弱いが魔法も使える。お前が青い光を放てるのはそのおかげだ。悪い点は強い負の感情を感じると意識を乗っ取られる可能性があるだけだ」
男の言っていることは理解できた。しかし、強い負の感情を感じても『無在』に意識を乗っ取られたことはない。そこが一番の疑問だ。
「僕は意識を乗っ取られたことはない……」
下を向きつぶやいた。
「それはだなぁ、お前が『五千年後の繰者』と契約しているからだ」
「……!?」
「そいつと契約すると死ぬ可能性が減るからなぁ。……だから、意識を乗っ取られると高確率で死ぬんだよ」
「なるほど……」
「……言い忘れてたが俺は『無在』だ」
「何!?」
『無在』!?……『無在』はどこにも存在できないんじゃ……まさか。
「ククク、わかったみてぇだな。そう俺は乗っ取られていた」
乗っ取られていた?ということは『無在』じゃないのか?…ああ、変な気分だ。
「俺は乗っ取られていた。つまり俺は乗っ取られてから逆に乗っ取ったって訳だ」
そう言うことか……。納得はし難いがそう言うことなのだろう。
「……という訳でだなぁ、お前に協力してやるぜ。じゃぁな。……ああ、忘れてたぜ、俺の名前は天ノ姫 水城だ」
男はそう言うと去っていった。
気がつくと元の世界に戻っていた。
……天ノ姫水城。何故かそいつと戦わなければならないような気がした。
*
「ほぅ、もうあいつと出会ったか……今回は早いな」
「……『未定願』、また来ていたのか」
『無在』は少し諦めたような口調でそう言った。
「お前はこんなところにいて楽しいか?」
『未定願』はこちらに振り向かずに言った。
「……契約する前よりはな」
「まぁいずれお前はこいつを乗っ取ることになる。任せたぞ」
「任せるだと?お前がやればいいではないか」
「俺にはできない。ちょっとした誤作動でな……」
「お前……いや、任せるとはどういうことだ?」
「お前にこいつの命を任せると言うことだ」
「乗っ取ったときに殺すなと?」
「そう言うことだ。……あとみんな誤解しているが俺は女だ」
唐突な『未定願』の発言で『無在』は絶句した。
「!?……どういうことだ?紹介でも『男性』とされていたハズだ」
「何のことだ?……そう言うのは『真の真の神』に言ってくれ」
「……もういい」
「ククク、頼んだぞ」
―はい、終わり。
―『未定願』が女性だったのはびっくりしたね!
―うふふ、そうね。
―……おやすみなさい。
―おやすみ。
―(どうしたのかしら?それより彼はもともと女だったのは本当みたいね)