(1-12)桜との出会い
ああ、そういえば花見をする予定があったな。それなのに、まさか姉さんに組織の破壊を頼まれることになるとは……
帰りの電車に揺られながら考えていた。
大変な毎日だが、家にいたころよりかは幸せだ。面倒なことも最近増えつつあるが、それでも辛いと思うことはなかった。
何より、義理の家族といるときが一番楽しい。特に桜といられることが最大の理由だ。もちろん速といても楽しい。
「先に花見をするかなぁ」
そんなことを笑顔でいえる。そんな小さなことでも幸せだと感じられた。
そういえば花見をする予定の場所は、桜と出会ったところだ。桜の花びらが舞う、桜の木の下で――
その日は、雲一つない快晴だった。
犯罪者を逮捕した帰りに、大きな桜の木が見えたのでそこに寄ろうと思って、『解魂』状態のまま、屋根の上を駆けた。
その桜の木は見た目より大きく、遠くにあったため、多少たどり着くのに時間が掛かったが、間近で見てみると感動を覚えるほど迫力と美しさがあった。
木の下に来ると、看板があり、一年中満開とあった。
「すごいなぁ」
思わず口に出した。すると、木の後ろから同年代ぐらいの少女がひょこっと出てきた。もちろん、素早く『解魂』は解いた。
その少女はこちらをじっと見つめてきたのでこちらも見つめてしまった。
しばらく見つめていると、心臓がドキドキしてきた。それが一目惚れだとは、そのときはわからなかった。
「あなたはだあれ~?」
少女は首を傾げながら尋ねてきた。
見つめて……いや、見とれていたので、ビクッとなった。その反応を見て、少女はクスクスと笑った。
「あ、僕は雪宮。雪宮李秋。……君は?」
「え~とぉ~、あ!雪宮李秋くん?」
「え?そうだけど」
「よかった~。ちゃんと来てくれたよ~」
「えっ?」
少女は、わけのわからないことを言い、くるくると回り始めた。
少女に乗っていた桜の花びらが少女を包み込むように舞った。
「あはは~。雪宮李秋くんだ~雪宮李秋くんだ~」
「……君は一体――」
「不馬 姫華だよ~」
「え!?」
不馬!?じゃぁ、あいつの妹か……っ!?
驚いた。なぜなら、優神雲母を殺した不馬改人と同じ苗字だからだ。
しかし、今目の前にいる少女とは正反対な性格。ただの同性かもしれない。
「もしかして、不馬改人の妹?」
「うん、そうだよ~。何でお兄ちゃんを知ってるの~?」
「あ――」
なぜ、知っているのか。その問いに返す言葉がないと気づき、声が出てしまった。
僕が殺した……いや、封印したなんて言えるわけがない。とりあえず、適当に何か言わないと……
「いや、知り合い……だから」
「へ~。おっとっと~」
さすがに目が回ったのか、少女はその場に座り込んだ。
「あ!そうだ。ね~ね~雪宮李秋く~ん。私を引き取ってくれる~?」
「え?」
そういえば、不馬改人がお前が養父さんを殺したんだあぁぁ!とか言っていたか……ってそれよりなぜ僕の名前を知っている!?
いまさら気づいたのか?と思い、頭をかいた。
「そういえば、何で僕の名前を知っているんだ?」
「う~ん、お養父さんから聞いたからだよ~。それに、お養父さんに今日ここに行きなさいって言われたからきたの~」
ここに僕が来ることを知っていた!?何者なんだ、お養父さんという人は……?
「お養父さん?」
「うん。私を孤児院から引き取ってくれた人だよ~」
「その人の名前は?」
「う~ん、わからない」
「そうなのか?」
「うん」
名前がわからない?まぁそれよりこの子を引き取ってから詳しく話を聞くか。
そんな出会いだったなぁ。と思い出に浸っていた。
そんなところへ携帯の着信音が聞こえ、我に返った。気がつくとここは終点だった。
「うわっ!?いつの間に……あ、そうだ電話」
鳴り続ける電話を取り、通話ボタンを押した。
「ちょっと秋!いつ帰ってくるのよ!今から5分以内に帰ってきなさい!5分以内に帰ってこなかったら――ツーツー」
速からの電話だった。いきなり大声で怒鳴られ、途中で切れた。
「ちょっ、何だよそれ……」
今すぐ帰ってこいって言われてもここは終点だぞ……5分は無理がある……
まぁ、速のことだから5分遅れても大丈夫だろう。
速はいつも無茶苦茶な時間制限を言うが、遅れて怒られたことはない。どちらかと言うと桜に怒られる。しかし、今回は怒られるだろう。なぜなら、もともと遅れているからだ。
「まぁ、仕方ないか」
そうつぶやき、改札口には向かわず電車の上に乗り、そこから家に向かって跳んだ。
――お母さん。
――どうしたの?
――お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?
――え?どうしたの急に。
――だってお父さん全然帰ってこないのに、どこが好きになったの?
――うーん。優しいところかしら?
――優しい?
――その話はお父さんが帰ってきてからしましょうね。
――えぇー。
――ほらほら、早く寝なさい。
――……はぁい。