(1-10)少しずつながらも世界は変わってゆく
「よぉ『未定願』。情報を持ってきてやったぜぇ」
「水城か。お前も苦労しているな」
「へっ、苦労はしてねぇぜ。むしろ面白くて楽しいぜぇ?」
「……そうか」
全く変わったやつだな。
まぁ、その方がいいか……
「どうやら、どんどん不馬改人が活発になってきてやがるぜぇ」
「ククク、予想どうり事が動いているようだ」
「まぁ、俺もこいつがどうなるかは楽しみだが――」
「お前はもう好きにしろ」
「なっ……!?」
相変わらず今回も同じ反応をするな……
そう何度も繰り返す世界は本当に変わってきているのか?
呆れた顔で上を見上げた。
だが、そこには永遠と同じ空間が広がっている。
万華鏡のように合わせ鏡をしたような風景。
永遠と続くその光景はまさにこの世界のようだった。
「言った通り、好きなところへ行け。不馬改人と手を組ぶのもいいだろう」
「俺はもう用済みってことかよぉ!」
「ククク、用はまだある。それはお前が考えてすることだ。指示を出す必要はない。お前が思った通りにしろ」
「……いいだろう、やってやるぜぇ。だがその前に聞きたいことがある。本当にこれでいいのかぁ?」
「いいさ、これは『予言』だからな。必ずしなければならない」
所詮ここまでしか合っていないからな。
あとは今回の『予言』を遂行するしかない。
そんなことを考えているうちに水城は無言で去っていった。
「もう行ったか……なら――」
「ふふふ、わかっておる。我が主よ」
「詠歌か。今呼ぶところだった」
「当たり前のこと。毎回同じ時刻に我を呼ぶ」
「そうか」
もう数え切れないほど繰り返しているからな。
わかって当然か……
「それにしても主よ、暫時考えておったがもっと美しい我が名はないのか?」
「時を詠み、歌う……お前に合っているではないか。それとも『母体制』の方がいいか?」
「……っ。仕方あるまい、詠歌でよい」
俺が創ったとはいえ、こんな性格の女になるとは……
短くため息を吐き、顔に手を置いた。
「……それで、今回は本当に『母体』なのか?」
「うむ、こやつ以降『予言』が頭に入ってこぬ」
「そうか。……それよりこいつはまた同じことになるのか?」
「どうしても避けることはできぬ。我も心痛むが仕方あるまい」
「……そうか」
どうしても避けることはできない。いや、どうしても避けてはいけないと言う方が合っているか。
またこいつに悲劇が訪れるのは俺も心が痛むな。
顔に置いていた手を下ろし、下を向くと、下も同じような空間が広がっていた。
が、自分の足場に小さな黒い光が少しずつ増えていた。
なるほど。『黒光』があるということはやはり『母体』か。
「クククククククク……。これは楽しみだな」
蝉のような笑い声が永遠と静かに響く。
『黒光』もそれに答えるように静かに揺れ、変わらず少しずつ増えていた。
――はい。今日はここまでよ。
――お母さん。
――どうしたの?
――『黒光』ってなぁに?
――黒い光よ。
――こんなの?
――え!?いつからできるようになったの!?
――う~と、なんとなく今できるようになった。
――そう……とにかく今日はもう寝なさい。
――はぁい。
――(やっぱりあの人の子ね。でも、嫌な予感がするわ)