(1-6)カギのカギとトビラの前
光と闇とが交差する空間。
不気味とも美しいとも言える空間。
「ククク、久しぶりだな雪宮。何年ぶりだ?」
「黙れ異端者が!……しかし、あいさつはしようか。久しぶりだ。8千4百兆6億2百5十万9十9年ぶりだな」
……相変わらず細かいやつだな。
それと、相変わらず空間のセンスは悪いな。
どこを見ても同じように広がり、流れている光と闇。
しかし、足場はある。
「異端者よ。なぜこんな世界に歪みの生まれる行為をする?」
「お前にはわからん。……『断言』を知っているか?」
「何だそれは?」
やはりか……。
諦めて、ため息を吐く。その息は白く広がった。
それはこの空間の温度が低いことを教えた。
『定願』は温度を感じないため、息が白くなるかぐらいでしか調べる方法はない。
この温度……氷系魔法を使う気か?それともいつものアホで温度の調整を忘れたか?
「雪宮。また温度調整を忘れたのか?……確か、前に会った時も温度が低かったが……」
「だ、黙れ異端者!氷系魔法を使うからだ!」
……アホだな。動揺から忘れたのもわかる。それと使う魔法をばらしてどうするんだ……。
この程度なら温度を上げても気づかないだろう。
「お前は何年たってもミスが多いな」
「黙れぇぇぇ!」
そう雪宮は叫ぶと襲い掛かってきた。
「やれやれ……困ったやつだ」
そうつぶやき、『未定願」は業火を放った。
「ぐあ……っ!?……なぜだ!なぜ氷系魔法が使えない!?」
「やはり温度を変えたことに気づかなかったか……それと自分で暴露したことも気づかなかったか?」
「……っ」
動揺と怒りを見せ、立ち上がる雪宮。だが、膝から崩れ、手をついた。
想像以上のアホだな。いくら強くても、ミスが多ければ意味がない。
「くそぉ……!」
必死に立ち上がるが、また手をついた。
「俺はお前と話しているうちに魔力を高め、準備をしていた。
お前みたいに瞬時に準備した魔法とは格が違う」
「話している間だけでこんな強大な魔法は使えないはずだ!」
「ククク、実はな、お前と会う前から準備をしていたんだ。お前のことだからどうせ空間調整をしていないと思ってな」
ククク、笑いがこみ上げてくるな。これほどうまく行くとは……ククク。
「その妙な笑い方はやめろ!」
「話を聞け」
話を聞いていないとはもうアホとしか言えんな。
呆れて手を額にあて、上を向いた。
俺の業火を受けて死ななかったやつは一人だけだ。もう、勝負はついた。
あとは、燃え尽きるのを待つだけ……。
「じゃぁな雪宮。聞きたいことはあったが、さよならだ」
「聞きたいことだと?」
まだしゃべれたのか……聞くとするか。
「ああ、カミ・シャ・ドロクスは元気か?」
「……そいつはもう……死んだ」
「そうか……サヨナラ雪宮」
そう答えたとき、すでに雪宮は燃え尽きていた。残ったのは一滴の涙で固まった灰だった。
悲しいな、かつての友人を殺していくのは……。
それに、もうあいつも死んだのか……ククク、未練だな、こうして毎回灰の塊を拾い、保管しているのは……。
―今日はこれで終わりよ。
―そういえば、お母さん前にカミ・シャ・ドロクスって言ってたよね?
―ああ、それね。彼は私の友人で、昔を思い出しちゃって、思わずつぶやいてしまったのよ。
―そんなにいい人だったの?
―ううん。最低な性格だったわ。でも、死ぬときに全ての人の憎しみと悲しみを背負って行ったわ。
でも、今は生まれ変わってるけどね。
―へ~。
―もう寝なさいね。
―はぁい。