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「未定」の書  作者: アナン
第二章
14/22

(1-4)速との出会い

「速。さっきは大声出してたけど大丈夫か?」


 2階から降りてきた速に振り向かずに言った。

が、返事はなかった。

 これは追及しない方がいいな。


「きゃぁっ!」

「どうした?桜」


 どうやら包丁で手を切ったらしい。いつものことだが心配だ。

もし指を切り落としたらと思うと母性本能的な何かがくすぐられる。


「あのさ、李秋」

「何だ?」


 生気のない声で速が話しかけてきた。


「えっと、あのときはごめんね。……なんか暴れたい気分だったから李秋を巻き込んでボコボコにしちゃって」 

「ああ、そのことならもう怒ってないぞ」


 沈んだ気分の速は嫌いだ。いつも笑っていてほしいとわ言わない。

でも、辛そうな顔をしているより怒っていた方がましだ。だから……だから僕はわざと怒らせるようなことを言う。

そうでもしないと、辛そうな顔をするからだ。

 速のことは気にかけている。でも、そんな僕でも速の過去は知らない。

辛い過去を思い出させるようなことはしたくない。

速が自分から明かしてくれるのを待つ。

明かしてくれたら僕は速に認めてもらえたとわかるから。


「そう?」

「ああ、気にしなくていい。大丈夫だ」

「あのさ、李秋。私の本名知ってたっけ?」

「?そういえば知らないな」


 どうしたんだ?急にこんなこと言うなんて。


「そうだっけ?……私の本名は城原美由紀よ」

「城原美由紀……あれ?」

「あんた、どうしたの?」

「いや……別に……」


 おかしいな。またデジャブ?城原美由紀……城原……しろはら!?

思い出した!そんな感覚を感じた。実際には思い出していないがそんな感覚が感じられた。

 すると、速と初めて出会ったときのことが頭に流れ込んだ。


 一年前。電柱の影でうずくまっている少女がいた。

 僕は辛そうにしている人を見過ごすわけにはいかない性格だ。

だから少女に声をかけた。


「どうしたんだ?」


しかし、返事は返ってこなかった。


「僕はひどいことはしないよ」

「嘘よ!!」


 二回目はそう返事が返ってきた。


「なぜ……なぜそう思うんだ?」

「みんな嘘つきよ!みんなみんなお互いにだまし合って生きているのよ!

だまして笑っているのよ!あんたも同じよ!同じ気配を感じるわ!」


 ああ……この子は真理を知ってしまったんだ。僕よりすごい反応。

きっと辛い思いをしてきたのだろう。

僕なんかたいした悲しみも感じていないのに……。

きっと世界には僕以上の悲劇がたくさんある。だから助けたいと思った。


「大丈……心配ない。辛……もう大丈夫だ」


 そう言って少女を抱きしめた。

少女は大丈夫?と聞かれるのが嫌いそうだった。辛かったねという言葉にトラウマを持っていそうだったから、言わなかった。


「……!?……な、何すんのよ!?」

「安心しろ。僕はいじめない」

「……えい!!」

「ぐはっ」


 いきなり蹴り飛ばされた。

その後も再攻撃をしようと体制を整えている。

 これは逃げた方がいいかな?


「りゃあぁぁぁ!」


 また蹴りが来た。でも、こんどは避けれた。

そして少女が空ぶっている隙に逃げた。

僕は普通の人間じゃない。だから追いつかれないと思った。

でも、驚くことに少女は追いついて来ていた。


「うわっ!?」

「だあぁぁぁ!!」


 叫びながら走ってくる少女は理性を失っているように見えた。

 追いつかれる……。そう思い推定8階建てのビルの屋上に跳び乗った。


「はぁーはぁー……魂転者にも体力ってものはあるのに……」


 様子を見ようと下をのぞきに行った瞬間、少女が屋上に跳び乗ってきた。


「マジかよっ!?」

「逃がすかあぁぁ!」


 ありえない。少女は魂転者じゃなかった。

僕はたくさん戦ってきたから、負の感情をもつものと魂転者の見分けがつくようになった。……が、この少女は魂転者ではないのに驚異的な身体能力を持っていた。


「当たれえぇぇぇ!」

「あぶっ、って、ちょやめ……!」


 何とか少女の攻撃を避け屋上から下に跳び降りた。


「ちっ」


 跳び降りると同時に舌打ちが聞こえた。

 僕は恨まれるようなことは……魂転者はあるだろうけど、恨まれるようなことはない。……やっぱり抱きしめたのがまずかったかな?


「はぁーはぁー、さすがに降りれはしないだろう」


 そんな期待とは反対に、少女は跳び降りてきた。


「ははは、もう諦めるか……」


 10分後。泣きながら怒り、殴ることはやめたものの。

僕は一度気絶したから動けない。寝起きは動けない体質だ。

それに少女が上に乗っていて……。


「うぅ……ごめ……んん……」

「え?」


 少女は力尽きて倒れた。


「さすがに体力切れか。とりあえず新しく建てた家に運ぶか……」



 それが速との出会いだった。



―はい。今日はここまでよ。

―うん。おやすみなさい。

―おやすみ。

―(今日は早く寝ちゃったわね。

そういえばしろハラさんは元気かしら?)

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