小噺10『和歌稽古』
○『和歌稽古』あらすじ
和歌を好む町娘に恋をした若者は、自分の思いを歌にして伝えようとする。そこで、若い頃に歌人へ師事していたという隠居のもとへ通い、和歌を習うことになる。
隠居に一首読めと言われた若者は、
恋しき人にこの胸のうち皆ぶちまけて伝へたや
という、恋心をそのまま並べた都々逸を読む。
隠居は、
「それは都都逸じゃ。和歌は五・七・五・七・七。三十一文字じゃ」
と言う。若者は、
「味噌で書いた人文字でございますか」
と聞き返すと、隠居は呆れて、
「そんなものはない。五・七・五・七・七、足して31音から成るから、三十一文字と言うのじゃ」
と言う。更に、
「恋歌と言っても、直接恋心を詠んだものが全てではない。景色を詠みつつ、その心を込めた恋歌もあるのじゃ」
と言って、崇徳院の
「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ」
という歌を教えた。
隠居は、続けて掛詞や縁語、恋歌の作法を説く。しかし、何とか五七五七七で詠めるようにはなったものの、若者は掛詞探しも縁語探しも間違えてばかり。若者に和歌の難しい理屈はよく分からなかった。
結局、若者は、
「景色を詠みつつ恋心を込めれば良い」
ということだけは覚える。
ある日、娘に贈る歌の題材を探そうと浜辺へ出た若者は、美しい貝殻をプレゼントしようとして探す。しかし時間が遅く、めぼしい貝殻は残っていなかった。それでも浜辺には、同じように貝を探す人々が大勢集まっている。
若者はその光景を見て、「皆、大切な人のために探しているのだな」と感心して、その光景を詠んだ。
浦見ても貝の無しとは知りながら夏の海とは人波の寄る
「さて、心を込めないといけない」
と、歌の書かれた紙に自らの唇を押し当てた。
そして、意気揚々と娘にその歌を届けた。
ところが娘は歌を読んで腹を立てて、若者は二度と会わないとまで言われてしまう。
若者は訳が分からず、隠居のもとへ駆け込む。
「娘さんには怒られましたが、どこが悪かったんでしょうか?」
隠居は歌を何度も読み返し、
「浦見てもと恨みても、貝と甲斐、海と憂み、人波と人無み、寄ると夜……見事な掛詞じゃ」
と唸るばかり。
若者は、
「娘さんには零点を頂戴しましたが、この歌は何点でございましょうか」
と言った若者に対して、隠居は言う。
「うーん……100点!」




