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影闘士 改稿版  作者: たまごがわ
第1章
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第1話 影鬼

本作品のあらすじにも記載されていますが、この作品は以前完結した『影闘士 ―Shadow Slayer―』を加筆修正等をした改稿版となります。

今回は作品の内容等が分かりやすくなるように、登場人物や作品内での単語についての説明を別途記載する予定ですので、そちらも見て頂けると幸いです。

 この世界において、数千年前に運命が分かたれるはずだった神と人間は、一定の距離を保ちながら、現在も共存し続けている。そして、天使、悪魔と人間は何の差別もなく同じ世界で共存している。

 世界の人間の約九割、天使、悪魔の約七割は別の種族が混じった混血が総人口のほとんどを占め、純血主義であるごく一部の者だけが純血を維持し続けている。天使や悪魔と血が交わったことにより、人間の平均寿命は二百歳を優に超えた。

 

 そんな理想郷と呼べるような世界に突如として現れたのが、“影鬼(えいき)”だった。


 

 今から数百年前。五メートルから二十メートルと様々な大きさの漆黒の巨人のようなものが、世界各地で出現した。それが影鬼だ。影鬼は人々を“影世界(かげせかい)”と呼ばれる影で創られた漆黒の空間に引きずり込んで、捕食をし始めた。だが、この時人々はまだ影鬼を脅威として認識はしていなかった。

 この世界で神は、“命の管理人”という役割を担っている。突然の事故や事件、災害によって余命が残っているにもかかわらず、死んだ者を再び現世に帰す。それが命の管理人の役割だ。それを知っていた人々は、たとえ影鬼に殺されたとしても、神が生き返らせてくれるだろうと思っていたのだ。そして神々もそれが出来ると思っていた。

 だが、影鬼に捕食された者たちを現世に帰すことは出来なかった。それどころか、影鬼に捕食された者の存在を、残された者たちは全く覚えていなかったのだ。神々は戦慄した。影鬼は、ただ人々を捕食しているのではなく、彼らの寿命と記憶を奪い、養分としていることに。

 このままではいけない。そう思った神々は人々のもとに降り立った。人々は滅多にこちらと接触してこない神が現れたことで、影鬼の存在がかなりの脅威であることをやっと理解した。そして人々の中で体内に魔力を多く持っている者が何人か選ばれ、影鬼の討伐を任された。


 そんな影鬼を討伐する戦士の名は、後に“影闘士(えいとうし)”と呼ばれる。





 桜が咲き乱れている四月の朝、とある一軒家の玄関で、少女は真新しいローファーを履いていた。腰まで届く、軽くウェーブのかかった栗色の髪、優しげな黒曜の瞳。そして彼女が着ているのは、ローファーと同じように新品のブレザーの制服。少女は今日から高校生になる。

 玄関のドアを開けて、外に出る前に少女は後ろを振り向いて微笑む。

「お父さん、お母さん。行ってきます」

 玄関にあるシューズボックスの上には、一枚の写真が写真立てに飾られていた。



 この日は、どの学校でも入学式が行われていた。先程の少女、胡蝶蘭(こちょうらん)結羽(ゆう)が入学した中高一貫校も例外ではない。学校長からの祝辞や校歌の斉唱などをして、入学式は終了した。


 影闘士は体内に多くの魔力を持つ者が稀になる。この世界では、誰もが多少なりとも体内に魔力を持っているのだが、影闘士になれる程魔力を多く持っている者は天使や悪魔でも多くはない。そして、魔力量以外に影闘士になる為には、「絶対に倒してやる」「大切な人を護りたい」というような強い意志が必要だ。

 影闘士はその人物によって属性や武器が異なる。属性は火・水・風・地・雷がある。武器は剣や槍、弓矢に杖など他にも様々あり、さらにそこから剣でも大剣や双剣といったように分かれている。そして影闘士には影鬼と闘う者と、数は少ないが闘いで負った傷を癒す者がいる。これらは小学生で学ぶ基本的なことだ。



 入学式の翌日、学校では全校集会が行われた。ここでは、影闘士と学業の両立について説明される。正式に影闘士になれるのは、中学生からだ。そこで影闘士になった学生は学校に届出をすれば、怪我の治療などで、三か月連続で学校を休むことが可能になる。

 数百年前と比べて、影闘士の数はかなり増えたが、それと同じように影鬼の数も増加し続けている。そして、影鬼は影のある場所ならどこにでも現れる。


 全校集会と、その後教室で担任の教師からの話が終わると、下校時刻になって次々と生徒たちが校舎から出て行く。その時、結羽の前方を歩いていた女子生徒の影が、形を変えて落とし穴の様な大きな円になる。

 その影の中に女子生徒が引きずり込まれていく。近くにいた生徒たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、そこは一瞬で地獄に様変わりした。このように、影鬼は突然人々を襲うのだ。

 生徒たちが四方八方に逃げる中、結羽はその女子生徒を助けようと駆けだした。

「掴まって!」

 女子生徒に向かって必死に手を伸ばす。女子生徒も結羽に手を伸ばした。だが、その前に彼女が影に飲み込まれる方が早い。

 女子生徒の体が完全に影に沈みそうになった時、二人の間に誰かが割って入ってくる。その誰かは、暗い水色の大剣で影を切り裂いた。

『ギャアアアアア!!』

 耳障りな絶叫が轟き、影の中から何かが躍り出る。それは体長五メートル程の、どろどろした漆黒の巨人だった。

「―――今回は小さいな」

 大剣を持った少年の呟きが結羽の耳に届いた。着ているのはこの学校の制服だ。その少年の髪は真っ白で、右目は黒く、左目は水色だった。

 その男子生徒は跳躍すると、大剣で影鬼を真っ二つに斬った。影鬼は断末魔の叫びをあげて、消滅する。影鬼が消滅したことにより、周囲の空気が穏やかなものに戻った。

(あざみ)君、ありがとう!」

 影に引き込まれそうになっていた女子生徒が、その男子生徒に笑顔で礼を言う。

 結羽は彼の顔に見覚えがあった。そうだ。自分と同じクラスの、中等部から上がってきたうちの一人だ。確か名前は、薊拓士(たくと)だったか。

 拓士は、ふいに後ろにいた結羽の方を向く。水色だった左目は、右目と同じ黒色になっていて、手に持っていた大剣は消えている。影闘士は闘う時に左目の色がその人物の属性の色に変わるのだ。この場合、拓士は水属性ということになる。

「ただの人間が出しゃばるな」

 そう結羽に言い放ち、拓士は彼女に視線を向けることなく、校門の外に出て行った。




 翌日、結羽はクラスメイトに拓士のことを尋ねてみた。

 拓士は中学生で入学した時から既に影闘士になっていて、この学校にいる影闘士の中で最も影鬼を倒しているらしい。

「そうなんだね。同学年では他に誰がいるの?」

「えーと……同学年だと、隣のクラスにいる下野(しもつけ)さんくらいかな」

 でも、と彼女は続ける。

「下野さん、最近戦っている姿を見ないんだ」

「そうなの?」

「うん、去年の終わりくらいからみたいだよ。それで下野さんが、戦わなくなる前日に、薊君にこんなことを言っていたの」


 ―――君とはもう組みたくない。復讐に取り憑かれた目をしているから


「最初は薊君の悪口を言ったから腹が立ったんだけど。確かに、戦っている時の薊君は、近づきたくないくらい怖いんだよね……」

 結羽は、昨日の拓士の様子を思い出す。


 ―――ただの人間が出しゃばるな


 その時の声は氷のように冷たく、拒絶と悲しみが含まれていたような気がした。




 その日の帰り道。結羽は拓士のことが気になって、彼の後をついていってみた。近くもなく遠くもない距離感を保ちながらしばらく歩いていると、拓士は立ち止まって結羽の方を振り返る。

「なんの用だ」

「ちょっと、あなたのことが知りたくなって」

「……知ってどうする」

 拓士は明らかに訝しんでいる顔をしているが、結羽は軽く返す。

「いいでしょ、別に」

 拓士は何も言わず、再び歩き出す。そして結羽もその後をついていく。拓士は歩みを止めずに結羽の方をちらりと見る。その顔は少し嫌そうだ。

「ついて来るな」

 だが、結羽もすかさず返す。

「だって、私の家こっちだし」

 それ自体は本当のことだと察した拓士は、何も返せなくなる。

 再び二人の間に沈黙が訪れる。

 やがてその沈黙に耐え切れなくなって、結羽は、少しでも話をしてくれるように思いついたことを尋ねた。

「そういえば、薊君って髪白いよね。珍しいなぁ。お母さん譲り? それともお父さんに……」

「俺の母さんと父さんの話をするな!」

 結羽の言葉を遮り、拓士は結羽を睨んだ。今まで見たことのない拓士の態度に、結羽ははっとする。

「……もしかして、亡くなっているの?」

 結羽の問いに拓士は何も答えない。だが、否定もしなかった。それが答えだ。

 だから、その悲しみを振り切ろうと一心不乱に影鬼を斬っているのか。

そして結羽は悲しげに微笑み、口を開いた。

「……私のお母さんとお父さんもね、影鬼に殺されたんだって。……やっぱり、辛いよね」

 結羽は拓士の言葉に共感して思わず言っていた。そして、拓士も自分の言葉に共感してくれるのではないかと、淡い期待をしていた。だが、結羽の思いとは裏腹に、拓士は彼女の言葉を鼻で笑った。

「お前と一緒にされるのは心外だな。俺の両親は、俺の目の前で影鬼に嬲り殺されたんだ!」

「目の前で……」

「そうだ。六年前、俺たちは影世界に引き込まれた」

 拓士は拳を握りしめる。

「そこには巨大な影鬼がいた。何の力も持たない俺たちは逃げるしかなかった。父さんが殺され、母さんも殺された後、俺も殺されそうになった。だが、ここで死ぬわけにはいかないと強く願った時、俺は影闘士になれたんだ。俺は。俺だけが影鬼を倒して、生き残ってしまった」

 想像を絶する話に、結羽は言葉を失った。子どもの時にそんな経験をするなんて。

 そんな結羽に拓士は嘲笑した。

「お前は目の前で両親を殺される光景を見なくて良かったじゃないか。両親が死んでも、お前は今、平和に暮らしている。……そんな奴が俺の苦しみを分かったふりをするな!」

 その瞬間、結羽と拓士は影の中に引きずり込まれた。



本作品を読んで頂き、ありがとうございます。

この作品は、隔週月曜日の午前9時に更新する予定です。

なお、本作品の更新を延期する時は、後書きに記載します。

次話は6月15日に投稿予定です。

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