高校一年生冬 入院初日出会い
お読みくださりありがとうございます。前田奈穗と申します。
さて、第三話です。男の子が出てきましたね。
すでに完結まで書き上げており、2026/03/20ごろ連載終了予定です。午前と午後で毎日二話ずつ更新いたします。
お楽しみいただけましたら嬉しいです。
現れたのは、車椅子の、同い年くらいの男の子だった。
病院着を着て、首から白い機械を下げている。白い機械にはチューブのようなものが通っていて、そこには赤い液体が満たされていた。
――え、誰?
咄嗟に声も出なかった。突っ込みどころが多すぎたのだ。誰ですかとか、ここは女性しかいないはずですとか、どうしてここにたどり着いて、あろうことか自分のベッドの覗きをしているんですかとか。
結局、梅乃はなんとなく、彼の首元に下がっている見慣れぬ仰々しい機械を凝視するにとどまった。
「ああこれ? 人工心臓。本当は移植が必要らしいんだけど、心臓は人気だから順番待ちなんだ」
目の前の男の子は特に気にとがめた様子もなく、「この機械、まあまあ重いから首が凝っちゃうよ」と飄々と続けた。
梅乃は、はあ、とため息に近い相槌を打ちながら、さも当然のように話を弾ませるその人に引いていた。
「君、また来たの?」
「えっ」
唐突に、昨日久々に見た夢を思い出した。
――ねえ君、また来たの?
――今度は骨折? 忙しいなあ。
――でもね、僕は会えてうれしいよ。
――明日また会いに来るね。
――約束ね。
幼いころの夢。梅乃が病院に運ばれるたび、なぜだか嬉しそうに会いに来た、体の小さい男の子。
「君、若狭梅乃っていうんだ。そういえば、僕は君の名前も知らなかった」
ベッドわきについているネームプレートを見て、その人は言う。
「僕は、道真光。君も僕の名前は知らなかったんじゃないかな」
「ああ……はい。まあ」
「今度は骨折? 僕は病院でほとんど寝ているから、骨折なんてしたことがないんだ。骨折って、やっぱり痛いの?」
好奇心とも世間話ともつかないトーンで、道真光は梅乃に尋ねた。梅乃は、この状況はどう考えてもおかしいだろうと思いながら、ああだかまあだか適当な返事をした。光はそうかそうかとうなずく。
「僕が、君の痛みを代わってあげられたらいいのに。ほら、僕なんてどうせ、毎日寝そべっているだけだから」
「……いや、まあ、代わってもらうほどでも」
反応に困る申し出に再び引きながら、梅乃は考える。おそらく彼は、数年前にちょこっと会ったことがある男の子。入院のたび安眠妨害をしてきて、遊ぼうとかまた会おうとか、楽しげに耳元でささやいた、そして昨日も夢に出てきた、男の子。
――困る。
それが正直な感想だった。申し訳ないが、梅乃側にそれほどの思い入れはない。病院は梅乃にとって、気の遠くなる日常生活の間に細切れに挟まる、一瞬の休息に過ぎない。六年間共に過ごした小学校の同級生すらまともに覚えていないのに、細切れのさらに一瞬、ちょろっと登場しただけの子のことなど、覚えているはずがない。
光は温度差に気づいているのかいないのか、楽しそうに話し続ける。
「入院なんて相当なけがじゃないか。頭の包帯のほうは? 打撲?」
「ああ、そんな感じじゃないですかね」
梅乃自身、説明をよく聞いていなかったし、この人に教える義理もない。
「そうか。じゃあ、今日は検査があるのかな。CTスキャンか何かの」
「ああ……まあ多分」
そういえば、そんなようなことを医師に言われたっけ。念のため少し時間をおいてから再検査をしましょうとか、なんとか。……何時からだっけ。
「そうかそうか。何にせよ、ひどくないことを願ってるよ」
光はまた、腕を組んでひとり、ゆったりとうなずいた。
「はあ、ありがとう、ございます」
「じゃあ、それまで安静にね」
「はあ」
勝手に満足したようで、それじゃあ僕はこれで、と光は車椅子の向きを変えた。
しかし仕切りのカーテンをくぐる時、あのさ、とこちらに向き直る。
「災難だっただろうから、こんなことを言うのは少し気が引けるんだけれど、やっぱり言っておいてもいいかな」
「はい?」
まだ何かあるのか。というか、この人ってちゃんと『気が引け』たりするタイプなんだ。
光はまっすぐにこちらを見据えた。
「僕は、もう一度君に会えてとてもうれしいよ」
光の瞳が、窓から差し込む朝日を受けてきらきらと輝いた。
お読みくださりありがとうございました。
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また次回もお目にかかれますように。




