高校一年生冬 電話の向こう
お読みくださりありがとうございます。前田奈穗と申します。
さて、第十六話です。新章に入ります。
すでに完結まで書き上げており、2026/03/20ごろ連載終了予定です。午前と午後で毎日二話ずつ更新いたします。
お楽しみいただけましたら嬉しいです。
そのまま、どれほどの時間がたっただろう。
プルルルル
再び電話が鳴った。今度は、知っている市内局番だった。
「……もしもし」
「もしもし。君、遅いじゃないか。どこでうつつを抜かしているの?」
はっとしてあたりを見渡す。
道の真ん中に立つ時計は、もう七時前を指していた。
「……お父さんが、死ぬかもしれない」
絞りだした声は、震えていた。
光の質問の答えになっていない。
でも、他に何も言えなかった。
――奪われる。
もう一度、そう思った。
頭に浮かんだのは、電話の向こうの常春の場所。
ひゅっ。引きつれるような音と共に、浅く息を吸う。
――もしもの可能性がありますので。
――死ぬかもって、ことですか?
――はい。
耳の奥でこだまする会話。
いったい何が起こっているんだろう。
力が抜けて、気づけばその場に座り込んでいた。
自分はこれから父親のもとに行かなきゃいけないんだろうか。
行ったら何かを背負わされるんじゃないか。
何かが変わってしまうんだろうか。
そもそも、父親が死ぬ?
……死ぬのだろうか? あの父親が、本当に──?
「もしもし、聞こえる?」
電話の向こう、ゆったりと、穏やかな声がした。
「あ、え」
言葉にならない声をかろうじて出す。頭の中が真っ白だった。
「いま、浅葱がそっちにいくよ。場所はわかる?」
光の声がいつもより低く、遅い。岸をそっと撫でていく波が、砂浜にじんわり染み込むように、自然と梅乃の耳に届く。
高校、近くの、マックの、ところ。
呆然としたまま、途切れ途切れに言葉をこぼした。
「高校の近くのマックの前だね。わかった。そこにいて」
再びゆったりとした返答のあと、少しの間、向こうの音が遠くなった。間もなくして、
「浅葱があと二十分で向かうよ」
その声を聞いた時、涙が出てきた。
何が起こっているのだろうとか、父親は本当に死ぬんだろうかとか、光の声とか、もうすぐ人がくるとか、それでもどうしようとか。
どれが原因かわからない。全部が急激に押し寄せて、頭のなかで弾けた。
片手で鼻から下を覆って、声を抑える。
口元がぬるっとして、自分が今、鼻を垂らしているのだと知った。
電話越し、まだ光の気配がする。道端でしゃがみこんだまま、涙は止まらなかった。
光は何も言わなかった。電話を切らず、じっと受話器に耳を当てている、息遣いだけが聞こえる。
その息遣いが、自分の生命線のような気がして。
梅乃は強く、携帯電話を握りしめた。
お読みくださりありがとうございました。
感想、評価などいただけましたら大変嬉しいです。
本日は夜にあと二話更新いたします。
また次回もお目にかかれますように。




