高校一年生冬 友人2
お読みくださりありがとうございます。前田奈穗と申します。
さて、第十四話です。
すでに完結まで書き上げており、2026/03/20ごろ連載終了予定です。午前と午後で毎日二話ずつ更新いたします。
お楽しみいただけましたら嬉しいです。
気付けば購買の列が前に進んでいて、目の前に、パンがたくさん並んだ机がお目見えした。
列の一番先では、ジャージを着たおじちゃんが「これは限定だよ」とか「パンの耳も持っていきな」とか言いながら、ちゃきちゃき会計をしている。
「あ、これ」
冬宮が不意にぽそりと言った。
二人の前には、黄色くて丸っこいパン。
分厚いクッキー生地がパン生地を覆っていて、所々ぽこぽこ気泡の穴が開いている。それはパン生地から無作為にはみ出して、一つ一つのパンが、よく見ると若干不格好にゆがんでいた。
地味だが、手作り感がある。
へえ、こんなパンがあったのか。人気商品なようで、机上にはもう三つしかない。
早速冬宮が、手に持っていたノートを脇に挟み、両手で掬い上げるように一つ手に取った。
梅乃もそれに倣って一つ、手に取ってみる。
冬宮があまりにほくほくした顔をするので、つられてしまった。
「はい、百六十円」
前に並んでいた冬宮に会計が回ってきた。冬宮は赤いがま口から慣れた手つきで小銭を取り出し、俯いたままおじちゃんに差し出す。
「はい、ちょうど」
おじちゃんは太っちょな手でそれを豪快に受け取って、
「今日は間に合ったね、よかったなあ」
そう、ニカッと笑った。
「……はい」
冬宮は小さくおじちゃんに会釈した。その口角はわずかに上がっている。
片手に塩バターメロンパン、もう片方の手には、赤いがま口にノート、4B黒鉛筆。
全部を大事そうに握って、冬宮は梅乃にも会釈して購買を去っていった。
足音すらも控えめで、彼女はきっと好きなものを、そっと、すごく大事にする人なんだと思った。
梅乃も会計を済ませ、教室に戻って塩バターメロンパンを食べた。
初めて食べた前衛的ダークホースは、想像以上においしかった。
さっくりとしたクッキー生地と、ふんわりとしたパン生地。中には砂糖とバターを溶かしたソースが入っていて、程よい塩気が、クッキー生地の濃い甘さに絶妙に絡み合っている。
ほくほくとほおばった。
そして、ふと思う。
冬宮はこれを、どんな顔で食べるのだろう。
手に取っただけであれだけ嬉しそうにしていたのだ。彼女もさぞ幸せそうに食べているに違いない──。
教室を見渡してみたが、冬宮はいなかった。
五限開始のチャイムが鳴るぎりぎりで、冬宮は自席に戻ってきた。
購買で会ったときには鋭利に尖っていた黒鉛筆が、すっかり丸くなっていた。
もう少し早く帰ってきてくれたら、話しかけられたのに。
塩バターメロンパンが美味しかったと、絶対に直接言ったのに。
チャイムが鳴ると同時、こっそり歯噛みした。
――惜しいな。君と仲良くなりたいなら、あげるべきはノートじゃなくて食べ物なんだけど。
ふと、そんな光の言葉が脳裏によみがえった。
……あながち間違っていない。
「五限の授業を始めます。気をつけ、礼」
「お願いします」
号令に合わせてぼんやり頭を下げながら、梅乃はひとり、小さく笑った。
お読みくださりありがとうございました。
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また次回もお目にかかれますように。




