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高校一年生冬 部屋での生活2

お読みくださりありがとうございます。前田奈穗と申します。


さて、第十一話です。こちらは短いので第十話と同日に掲載いたします。


すでに完結まで書き上げており、2026/03/20ごろ連載終了予定です。午前と午後で毎日二話ずつ更新いたします。


お楽しみいただけましたら嬉しいです。



 それから、梅乃(うめの)が部屋に帰ってから夕飯の時間まで、二人で勉強をするのが日課になった。


 魔の丸文字ノートや教科書を、ああだこうだ言いつつ紐解いていく。冬休みを挟み、その間は一日まるまる復習に充てていたこともあり、三週間がたつ頃には二次関数の最大最小も理解できるようになっていた。


 (ひかる)は学問知識こそ少ないが、読解力が抜群に高かった。教科書に突如現れる文字だらけの公式や、ノートの暗号解読に大いに尽力してくれた。


「ああ、なるほど。つまりこの数式は、CやらNやらびっくりやら、いろいろ出てきてぱっと見ややこしいけれど、表している作業は簡単なんだ。一度数字を入れて計算してみたら頭に入ってくるんじゃないかな」


 その日も場合の数のコンビネーション公式を解読し、目を輝かせていた。


 梅乃は、隣に腰掛け考察を聞きながら舌を巻く。


「……君、文字を読んだだけでよくそこまで理解できるね」


 光はきょとんと首を傾げた。


「そう? 君の理解速度もなかなかのものだけれど」


 いやいや。梅乃はかぶりを振る。自分一人だったら、絶対にここまで理解できない。


「君は、文章読解力がすごく高いよ」


「うーん、そうかな」


 光は首を傾げたまま、控えめに笑った。


「……まあでも、同じノートや教科書をずっと見ていると、だんだん書き手の癖がわかってくるだろう。実際、最初は暗号感満載だったこのノートも、今では慣れてきて、前よりずっと理解しやすい」


 梅乃はぱちくりと目を瞬く。


 そうだろうか。


 自分も毎日教科書やノートを見ているが、気にも留めていなかった。


「考えるんだ。文字の奥にある人柄を。この人は何が得意で何が苦手か。このノートを取るとき、どこを理解していて、どこはわからず適当に写したか。すると、おのずと授業を受けているクラスメイトの様子が想像できる」


 言いながら、光の瞼がしみじみ伏せられた。


「……へえ」


 梅乃にはわからなかった。そんなものにさほど興味がないし、癖が分かったところで、クラスメイトの様子までは頭に浮かばない。


 気の抜けた返事をした梅乃に、光はいたずらっぽく笑った。


「ほら、僕は残念なことに、この病院からほとんど出られないだろう。日々白い箱の中に籠って本を読んでいると、こういう能力も自ずとにつくわけだよ」


 光はいつも、こういうことを陽気に言う。梅乃はただ、得意げな光がほほえましくて笑った。


 これだけ遅れをとってしまった勉強を、投げ出すことなく、それどころか、ところどころ楽しんで追いかけられている。間違いなく光のおかげだった。


「夕食のお時間です」


 数時間が過ぎた頃、浅葱(あさぎ)や他のお手伝いさんが夕食を持ってやってくる。頭をしっかり使うとおなかが減って、二人でやっとだと諸手を挙げた。


 生臭い鯖の味噌煮も、質素なわかめの味噌汁も、前よりずっと身体に沁みる。病気のせいか、光は食が細くていつも半分くらいで箸を置くので、決まってその分も梅乃が食べた。貧乏性なので、お残しは嫌いだ。


「さすが、育ち盛りだねえ」


 その日も光は、わんぱくな孫に目を細めるおじいちゃんよろしくうなずきながら、「さあさあこれも食べなさい」と食べかけの鯖を差し出してきた。もちろん貰った。


 早速一口。


 やっぱり少し生臭い。それでも、ふりかけでたらこご飯にしたお米と交互に食べると舌が楽しい。


 梅乃は相変わらず毎食ご飯にふりかけをかけている。それをいつも横で見ている光が、いろんなふりかけを一日一袋ペースで買い足してくる。……そんなにいらない。何度か言っているのに、次の日も光は笑顔でふりかけをくれる。


 遊びに行くと無限にご飯を出してくる祖父母って、こんな感じかもしれない。


 梅乃は鯖の味噌煮に舌鼓を打った。



お読みくださりありがとうございました。

感想、評価などいただけましたら大変嬉しいです。

また次回もお目にかかれますように。

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