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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第1章 幼年期

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第7話 冬の到来とルガード子爵

本日2話目

この世界の暦は、驚くほど前世の地球と一致している。三百六十五日で一周し、四季が巡る。


十二月。アステリア領の冬は厳しく、乾いた北風が石造りの城壁を叩く。リヒトは、窓から雪化粧を始めた領内を見下ろしていた。 この世界にも春夏秋冬があり、今は「年末」という、貴族にとっては社交、領民にとっては冬越しのための重要な節目の時期だ。


「さあ、カイル。農業改革の進捗はどうだ? 冬の間に来年の収穫量を確定させるぞ」


「はい、リヒト様」

民生部次長に抜擢された十歳の少年、カイルが分厚い報告書を広げた。


「指示通り、休耕地を利用した『四輪作』の導入を全村で開始しています。小麦、カブ、大麦、そしてクローバー。これを順繰りに植えることで、土壌の窒素……でしたか? それを枯らさない事によって、家畜の餌も昨年の冬より多く確保できました。」


「よし。これで冬場に家畜を屠殺する数が減り、新鮮な肉と肥料が通年で手に入る見込みが高くなった。……それから、新入りの彼女はどうだ?」


リヒトの視線の先には、温室で土にまみれている少女がいた。カイルが計算塾で見つけてきた「土壌の天才」、八歳のニーナだ。


「ニーナはすごいです。あちこちの土を舐めて、どの肥料が合うか言い当てるんです。彼女の指導で、不毛地帯だった北部の収穫予想が三割増えました」


「土を舐めるのは非衛生的だな……味でpHの違いを把握してるのか……土を舐めなずに済む方法を検討してくれ。しかし、優秀な事は確かだな。ニーナには『農政局顧問』の肩書きと、専用の実験農場を与えろ」


農業が「守り」なら、「攻め」は王都の市場掌握だ。 リヒトは、セシリアと密に連絡(早馬による通信)を取り合い、先日オープンした王都の百貨院を拠点に、流行を支配しつつあった。




「リヒト、聞いて! あなたの送ってきた『カスパールの叙事詩付き限定石鹸』、王宮の女官たちが列を作って買い求めているわ。今や王都のトレンドは、メルクリウス侯爵家とアステリア子爵家が握っていると言っても過言じゃないわ」


セシリアからの手紙には、勝利の確信が満ちていた。 百貨院は単なる小売店ではなく、王都の情報を収集し、物流をコントロールする「ハブ」を目指している。


だが、経済的な成功は、軍事的な脅威を呼び寄せる。




隣領のルガード子爵は、アステリア領の急速な発展を苦々しく見つめていた。塩の利権を奪われ、羊毛市場でも完敗した彼は、ついに「物理的な実力行使」を検討し始めていたのだ。


「……若、ルガードの連中が、国境付近で小規模な軍事演習を始めたようですぜ」


騎士団長バドが、かつてないほど引き締まった表情で報告した。


「兵数は五百。対するうちは、まともな兵士は五十人……。正面からぶつかれば、三十分で粉砕されますな」


「バド。私は負ける戦に一銭も投じない主義だ」 リヒトは執務室の壁に掛けられた、改良型の「弩」を手にとった。


「五百人を相手にするのに、五百人の兵は必要ない。必要なのは『射程』と『連射性能』、そして『圧倒的な情報優位』だ。……今日から軍制改革を始める。バド、お前には『アステリア独立守備隊』の隊長を命じる。剣を捨て、この新型の弩を扱える狙撃手を育てろ」


「剣を捨てる……? 騎士の誇りが……」


「誇りで飯は食えんが、勝てば領民の命が救える。……バド、お前は私の『合理的判断』に従うと言ったな?」


バドは一瞬だけ逡巡したが、リヒトの瞳に宿る、五歳児とは思えぬ「統治者の覚悟」に当てられ、深く膝を突いた。


「……御意。若の言う『物理的な勝利』ってやつを、信じてみますぜ」


年末の社交シーズンが幕を開け、王都では華やかな舞踏会が開かれる中、アステリア領では雪を突いて新型兵器の訓練が行われた。


防衛の準備が静かに、だが確実に進んでいた。


「……さあ、ルガード。お前がいつ、どの『非合理な一手』を打ってくるか。楽しみに待っているぞ」


リヒトは、キンと冷えた冬の空気を吸い込み、チェスの駒を一つ進めた。

それは、王国を揺るがす戦いの、静かなるカウントダウンだった。

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