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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
恒久的世界平和編

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第47話 正義の独占と焦土の制圧

本日2話目

アステリア大統領臨時公邸、作戦司令室。モニターの青白い光が、十二歳のリヒトの冷徹な横顔を照らし出していた。

傍らに控えるカイルは、リヒトから発せられる「静かな怒り」の圧力に、息をすることさえ忘れるほどの戦慄を覚えていた。


「……カイル。作戦の最終確認だ。目標は、テロに関与した旧教国の過激派組織、およびそれを裏で支援した軍部・貴族勢力。……それ以外の一般市民には、指一本触れるな」


リヒトの言葉に、軍高官たちは当惑の声を上げた。

「大統領、しかし敵は市街地の地下や大聖堂を盾にしています! 無差別攻撃を避ければ、こちらの損害が……」


リヒトは、感情の消えた瞳で高官を射抜いた。

「……聞き間違えたか? 私は『民間人の死者ゼロ』を命じている。……アステリアの技術力は、神の如き精度を誇るはずだ。ピンポイント爆撃、音響兵器による無力化、ナノドローンによる個別無力化……。あらゆる手段を尽くせ。……一滴でも無実の血が流れれば、それを許した指揮官を私が直々に裁く」


リヒトの内心では、前世の「合理的経営者」としての思考が高速回転していた。

(……怒りに任せて虐殺を行えば、それは単なる『暴君』だ。……私がサクラのために守るべきは、彼女を傷つけた者たちを排除しつつ、彼女が誇れるような『正義の旗』を掲げ続けることだ。……完全なクリーン・ウォー。それこそが、旧勢力に対する最大の絶望となる)


「全世界へ、ライブ中継を繋げ。……アステリアの『正義』を、地球上の全人類に刻み込む時間だ」


数分後、世界中の巨大スクリーン、スマートフォン、テレビ受像機に、泥に汚れながらも凛とした姿のリヒトが映し出された。

彼の背後には、テロによって崩壊した大和皇国の街並みと、救護される負傷者たちの惨状が映っている。


「……地球の市民諸君。……本日、我々は臆病な卑怯者たちに牙を剥かれた。……彼らは『伝統』や『神』の名を語りながら、その実は罪のない子供たち、ただ慎ましく生きる人々を無差別に殺傷したのだ」


リヒトの声は、世界中の人々の良心に直接語りかけるように、深く、重く響いた。


「……これはアステリアへの攻撃ではない。……人類の『良識』と『未来』への反逆だ。……我々は、これより断固たる処置を執る。……だが、見ておくがいい。アステリアの力は、復讐のために振るわれるのではない。……『悪』のみを外科手術のように切り取る、唯一の正義として振るわれるのだ」


リヒトは、前世のメディア戦略を駆使し、瞬時に自分たちを「絶対的な被害者かつ守護者」のポジションに置いた。世界中の世論が、一斉にアステリアの武力行使を「救済」として支持し始めた。


「……全ユニット、エンゲージ。……作戦名『サイレント・ジャッジメント』、開始」


リヒトの合図とともに、夜空を埋め尽くすほどのステルスドローン群が発艦した。

旧教国の聖都。そこでは、自爆テロの成功を確信した狂信者たちが、アステリアの報復を待ち構えていた。彼らは、リヒトが民間人を巻き添えにして、国際的な非難を浴びることを期待していたのだ。


だが、彼らが目にしたのは「火の海」ではなかった。


『……目標、特定。非殺傷性・高周波ブレード、展開』


上空から降り注いだのは、爆弾ではなく、超音波で脳の平衡感覚を狂わせる「音の雨」だった。

銃を構えていた兵士たちが、一言も発せぬまま、まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。

さらに、ドローンから射出されたナノボットが、敵拠点のすべての電子機器、武器の信管、通信網を物理的に食い荒らした。


「……な、何が……何が起きている!? 神の裁きはどうした!?」

地下司令部に逃げ込んだ首謀者の貴族が叫ぶ。

だが、その部屋の鋼鉄の扉は、アステリアの熱線レーザーによって、紙のように焼き切られた。


土足で踏み込んできたのは、漆黒のパワードスーツに身を包んだアステリアの特殊部隊。

「……抵抗は無意味だ。……お前たちの罪は、すでに世界中に公開されている」


聖都全域で、民間人には傷一つ負わせず、テロに関与した者たちだけが、ピンポイントで捕縛され、あるいは「外科的」に排除されていった。

それは戦争というより、巨大な「清掃作業」に近かった。


わずか三時間。

アステリアを脅かした旧教国の軍事力は、文字通り「ゼロ」になった。

宮殿は無傷のまま、そこにいた腐敗した支配層だけが姿を消し、代わりにアステリアの管理AIの端末が設置されていく。


リヒトは、大和皇国の臨時病院で、サクラの眠る病室の窓からその報告を聞いた。


「……終わりました、大統領。民間人の犠牲者ゼロ。敵対組織は完全に解体されました」

カイルの声には、驚嘆と、そしてリヒトという存在への形容しがたい畏怖が混じっていた。


リヒトは返事をせず、ベッドに横たわるサクラの寝顔を見つめていた。

彼女の頬に貼られた保護テープが、自分の「力」の限界を象徴しているように見えてならなかった。


(……世界を武力で屈服させるのは、あまりにも容易い。……だが、彼女の心に刻まれた恐怖を消し去ることは、アステリアのどんな最新兵器にもできない)


リヒトは、サクラの小さな手をそっと握った。

モニターの中では、アステリアの「正義の勝利」を祝う世界中の群衆が映し出されている。

人々は彼を「救世主」と呼び、あるいは「慈悲深き魔王」と称えるだろう。


(……サクラ。……君が目覚める世界には、もう君を傷つける『悪』は存在しない。……私がすべてを統治し、管理し、君を守り抜こう。……たとえ、私が本当の意味で、人間としての何かを失ったとしても)


リヒトは、自分の中に残っていた「迷い」という名の贅沢を捨て去った。

愛する一人の少女を守るために、世界を完全に管理下に置く。

その決意は、もはや十二歳の少年のものではなく、全知全能の孤独な神のものとなっていた。


病院の廊下を歩くリヒトの足音は、静まり返った大和の街に、新たな支配者の凱旋として響き渡った。

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