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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
恒久的世界平和編

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第42話 例外の承認と桜の下の邂逅

【大和の例外措置と国際社会の反発】


王暦四一六年、春。リヒトは十二歳になっていた。

アステリア共和国大統領府の国際会議室は、ホログラム通信越しの各国の指導者たちからの非難の嵐に包まれていた。


「……アステリア大統領! なぜ大和皇国だけが『君主制』の維持を許されるのだ!? 我々には王族を追放させたくせに!」

「これは明確なダブルスタンダードだ! 我が帝国も、皇帝を象徴として残すことを要求する!」


旧秩序同盟から民主化へと鞍替えした元貴族や、日和見を決め込んでいた小国の元首たちが、一斉に抗議の声を上げる。


リヒトは、手元のタブレットで各国の「国民の熱量」を示すデータ(SNSの書き込みや通信傍受のセンチメント分析)を確認し、冷ややかにため息をついた。


「……静粛に。あなた方の主張は、根本的な事実誤認に基づいています」


リヒトの静かな、しかし絶対的な圧を伴う声に、会議室が水を打ったように静まり返る。


「……大和皇国の天皇陛下と国民の間には、数千年にわたる『祭祀と精神の絆』が存在します。大和の民は、自らの命を捨ててでもその絆を守ろうとした。……翻って、あなた方の国はどうですか?」


リヒトは、各国の首都の隠しカメラ映像をメインスクリーンに投影した。そこには、王城が燃え落ちても無関心にアステリア製のスマートフォン(初期型)をいじる若者や、配給される合成食料に群がる民衆の姿が映っていた。


「……あなた方の国民は、王や皇帝がどうなろうと『無関心』だ。彼らが求めているのは、あなた方という『象徴』ではなく、私が提供する『今日のパンと明日の電力』に過ぎない。……国民からの強固な支持エンゲージメントなき君主制など、ただの負債(不良債権)です。……これ以上、無価値な特権にしがみつく国には、即刻『完全な経済制裁』を発動し、インフラを停止します」


リヒトの冷酷な通告に、各国の元首たちは沈黙するしかなかった。

大和皇国という「例外バグ」は、アステリアのシステムが許容したのではなく、大和の民が自らの魂で勝ち取った特例であることを、世界は思い知らされたのだ。


【大和での啓蒙活動:天皇との共同演説】


リヒトは、大和皇国が「立憲君主制」としてスムーズに国際社会へ軟着陸できるよう、かつてないほど積極的に関与した。


大和の主要都市の広場には、アステリア製の巨大なLEDスクリーンが設置され、連日、皇宮からのライブ中継が行われていた。


『……大和の民よ。ちんはここに、アステリア共和国大統領・リヒト殿と共に、新たな国のかたちを宣言する』


スクリーンの中、白装束に身を包んだ天皇陛下が、静かに語りかける。その隣には、軍服ではなく仕立ての良いスーツを着たリヒトが並び立っていた。


『……我々の誇りたる精神は、いかなる時代の波にも侵されぬ。しかし、国のからだは、民が豊かに生きるために変わらねばならぬ。……これより大和は、民意を以てまつりごとを為す』


広場を埋め尽くした数万の民衆は、涙を流しながら深く平伏した。 リヒトは、その光景を見つめながら、内心で呟いた。 (……奇跡的な合意形成コンセンサスだ。天皇という絶対的なアンカーがあるからこそ、この国は崩壊せずに近代化の荒波を乗りこなせる。……私のロジックでは絶対に計算できない、人の心の強さだ)


演説の中継が無事に終わった午後。

リヒトは、大和の街の視察と称して、護衛を最小限に留め、お忍びで皇都の市街地を歩いていた。


(……AIアテナの予測通り、大和の治安は極めて良好だ。……だが、なんだろう。この街の空気は、前世の記憶をひどく刺激する)


春風が吹き抜け、満開の桜並木から淡い花びらが舞い散る。

リヒトがふと足を止めたのは、路地裏にある小さな団子屋の前だった。


そこでは、一人の少女が、幼い男の子の手を引いて団子を買っていた。

擦り切れた着物を着ているが、背筋はピンと伸び、黒髪が春風に揺れている。


「……ほら、タロウ。今日は特別に一本ずつね。お仕事、頑張ったご褒美よ」

「うん! ネエチャン、ありがとう!」


少女が振り返り、弟に向けて微笑んだ瞬間。

リヒトの心臓が、早鐘のように打ち鳴らされた。


(……嘘だろ。……あり得ない)


十二歳のリヒトは、その場に縫い止められたように動けなくなった。

切れ長の瞳、意志の強そうな眉、そして何より、あの少し不器用だが芯のある笑顔。


(……前世の……高校時代の……佐々木さん……?)


リヒトの前世、全てを効率と成績に捧げていた彼が、唯一「計算外」の感情を抱き、そして告白することすらできずに終わった初恋の相手。 その彼女と瓜二つの顔立ちをした少女が、今、少し幼くしたくらいの姿で、目の前に立っていた。


「……あ、あの……お侍様? 何か、私に御用でしょうか?」


少女が、リヒトのただならぬ視線に気づき、弟を庇うようにして少し身構えた。

リヒトは、アステリアの最先端の服を着ている。平民の少女から見れば、得体の知れない高貴な人物に映っただろう。


「……いや。……その……」

世界を冷徹に支配する大統領の口から、信じられないほど間抜けな声が漏れた。


AIのアテナが、インカム越しに警告を発する。

『……マスター。心拍数が異常に上昇しています。自律神経の乱れを検知。医療チームを呼びますか?』


(……黙れ、アテナ。これは病気じゃない。……ただの、システムエラーだ)


リヒトは深呼吸をし、どうにか平常心を装って少女に近づいた。


「……君は、両親は?」

「……三年前に、流行り病で。今は、私が弟を育てています」

少女は気丈に答えたが、その瞳の奥には、十一歳の子供が背負うには重すぎる苦労の色が滲んでいた。


(……両親を亡くし、弟を養っている……? だが、この凛とした態度はなんだ。……私の知る『弱者』は、みな私にすがりついてきたというのに)


「……君の名前は?」

「……サクラ、と申します。サクラ・シノノメ」


「サクラ……」

リヒトはその名を口の中で反芻した。

彼が作り上げた完璧な無機質の世界(青い監獄)に、突然、鮮やかな春の色が舞い込んだ瞬間だった。


(……大和皇国。……やはりこの国は、私の論理ロジックを狂わせる。……だが、悪くないエラーだ)


リヒトは、サクラの黒い瞳に吸い込まれるように、人生で初めての「一目惚れ」という、最も非効率で予測不能な感情に身を委ねていた。

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