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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第1章 幼年期

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第4話 鉄の令嬢

本日3話目です。

「……ハンス。我がアステリア家の歴史を一言でまとめるとどうなる?」


王都へと向かう馬車の揺れに身を任せ、五歳のリヒトは古びた家系図を指でなぞった。


「は。かつては王国の盾と呼ばれた武勲の子爵家……でしたが、ここ三代は風流を愛しすぎて領地を食いつぶした『没落しかけの風流貴族』というのが世間の評価でございますな」


「なるほど、ブランド価値は地に落ちているわけだ。再建のしがいがある」


リヒトは窓の外を流れる景色を見つめた。 アステリア領内は、このひと月程で劇的に変わった。塩田が整備され新しい製法によって作られる『アステリア・ホワイト』や、新産業の羊毛加工品『アステリア・シルク』は、今や王都でも話題となっている。 だが、急激な変化は必ず周囲の「嫉妬」という名の非合理を招く。



王都の貴族街。

リヒトが訪れたのは、アステリア家と古くから親交がある「メルクリウス侯爵家」の屋敷だった。

出迎えたのは、侯爵の娘であるセシリア・フォン・メルクリウス。リヒトより五歳年上の、勝ち気な瞳をした少女だ。


「あなたが、噂の『アステリアの神童』? 随分と小さくて、お人形さんみたいね」


セシリアは扇子を口元に当て、挑戦的な笑みを浮かべた。彼女は「鉄の令嬢」の異名を持ち、十歳にして父親の領地経営の一部を任されている才女である。


「セシリア様。外見のサイズと処理能力は比例しません。……それより、お父上の侯爵閣下は? 私は遊びに来たのではありません。我が領の特産品の『独占販売権』という名の利益を届けに来たのです」


「……ふん。生意気な口を叩くのね。父様は今、王宮で『あの男』に捕まっているわ」


「あの男?」


「財務卿、バルトロメウス伯爵。彼は徹底的な増税派よ。急成長しているアステリア領に、新しい税目を課そうと画策しているわ」


リヒトは内心で舌打ちした。

バルトロメウス伯爵。敵対的な既得権益層の筆頭だ。彼は古い経済構造を守ることで甘い汁を吸っており、リヒトのような「構造改革者」を最も嫌う。


バルトロメウス伯爵の動きを教えて頂いたお礼を伝えたリヒトは、次の目的地である王都最大の商業ギルドへと向う旨を伝えた。


すると、セシリアが一緒に行きたいと言うので特に断る理由も無く了承した。




セシリアを伴い訪れた商業ギルドで待っていたのは、リヒトの数少ない「友好的な大人」であり、商売の師とも言える大商人ゴルドンだ。


「おお、リヒト様! お待ちしておりましたぞ。……おや、メルクリウス家の令嬢もご一緒とは」


「ゴルドン。挨拶はいい。例の『投資案件』の進捗はどうだ?」


「ええ。王都の有力商人たち十名を説得しました。彼らはアステリア領の道路舗装事業に資金を出す準備ができています。代わりに、通行料の数パーセントを分配するという条件で」


「よし。民間資本の導入だな。公費を抑えつつインフラを整える。……セシリア様、そんなに驚いた顔をしてどうしました?」


セシリアは、大人の商人と対等以上に渡り歩く五歳児を呆然と見つめていた。


「あなた……本当に五歳なの? 道路を売るなんて発想、聞いたこともないわ」


「発想の問題ではありません。資金の流動性を高めているだけです」


その時、ギルドの入り口に豪華な護衛を引き連れた一人の少年が現れた。

リヒトと同年代だが、その服装は過剰なほどに贅沢だ。


「……ふん。没落貴族がスラムの商人と密談か。見苦しいな、リヒト」


彼は王室に近い名門、フェルディナント公爵家の次男エドワード。彼は、典型的な選民思想を持つ少年なので、リヒトは嫌悪感を隠していない。


「エドワード様。お久しぶりです。……その服、染めムラがありますね。うちの二級品以下の品質です。無駄に高い金を払わされたのではありませんか?」


「な、なんだと……!? 貴様ごときが僕の美学を否定するのか!」


「美学ではなく、品質の話をしています。……セシリア様、行きましょう。時間の価値が低い人間と話すと、私の寿命が損なわれる」


公爵家に対して不敬な気もするリヒトだが、今更なので態度を改めていない。


ちなみに、セシリアとエドワードは知り合いであるが、セシリアが何とも言えない表情で無難な挨拶をしていたので、エドワードの評価はリヒトと近いのかもしれない。




その日の夜。 リヒトは宿泊先の宿で、国内情勢について考え込んでいた。


国王の健康不安により、王妃派と王弟派の対立が激化している。


「財務卿のバルトロメウスは王妃派か。……ならば、私は王弟派と組むべきか? いや、どちらに転んでも利益が出るよう、両方に『貸し』を作っておくのが合理的だな」


リヒトは小さな手でチェスの駒を動かした。


「セシリア、それにゴルドン……。駒は揃いつつある。あとは、この国の『古い税制』という名の錆びた鎖を、どう叩き切るかだ」


リヒトの瞳には、五歳児のあどけなさは微塵もなかった。 彼はすでに、王国の経済地図を塗り替えるための「次の一手」を打ち始めていた。

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