第39話 新世界の三極構造と経済の鉄槌
本日2話目
【世界の新三極:選別の始まり】
アステリア共和国の宣戦布告に近い「標準化」の提示により、世界は瞬く間に三つの色に塗り分けられた。
アステリア賛同派(新世界連盟):民主化を受け入れ、アステリアのインフラを導入した国々。
アステリア敵対派(旧秩序同盟):王政と貴族特権を死守し、アステリアを「文明の破壊者」と呼ぶ帝国や教国の主流派。
日和見派(中立国):どちらの軍事・経済力が勝るかを見極めるため、沈黙を守る弱小国。
「……若君、いや大統領。現在、賛同を表明したのは全体の三割に過ぎません。特に貴族階級の反発は凄まじく、彼らは『アステリアの民主主義は悪魔の教え』だと宣伝しています」
カイルがタブレットの統計データを提示する。 リヒトは、執務デスクに置かれた「世界模型(衛星データにより正確な球体に書き換えられた地図)」を指先で回した。
「……民主化の強要は、彼らにとって『死刑宣告』と同じですからね。特権という名の不労所得を奪われ、実力主義の市場に放り出されるのは、彼らにとって死よりも恐ろしい。……だが、市場の原理は残酷ですよ」
【経済制裁:見えない兵糧攻め】
リヒトは、賛同を拒否した全ての国家に対し、即座に「包括的経済制裁」を発動した。
アステリア製の農耕用トラクターの部品、高効率な合成肥料、抗生物質、そして電力を生む燃料。これら「近代生活の生命線」の供給を、一斉に遮断したのである。
(……剣で戦う時代は終わった。現代の戦争は、物流の蛇口を閉めるだけで決着がつく。……飢え、病み、夜の闇に怯える国民が、いつまで無能な貴族を担ぎ続けていられるか……見ものですね)
リヒトのこの冷徹な予測を、誰よりも早く「利益」に変換した人物がいた。
アステリア中央銀行の総裁となったセシリアである。
「……ふふ、リヒト様。制裁対象国の通貨は、今や紙屑同然ですわ。事前に彼らの国債を全て空売りし、アステリアの現物資源に替えておきました。……今回の『経済戦争』による我がグループの純利益は、昨年度の国家予算を上回ります」
モニター越しに微笑むセシリアの背後には、天文学的な数字の利益が積み上がっていた。リヒトが世界を「管理」する傍らで、彼女はその歪みを利用して「富」を独占し、敵対国の経済を内側から崩壊させていた。
【インフラの侵食:民間飛行場と依存の鎖】
制裁に苦しむ諸国を余所に、賛同派の諸国では劇的な「近代化」が加速していた。
世界各地に建設されたアステリア規格の「民間飛行場」は、人、モノ、情報を瞬時に移動させる。
「……あ、あれがアステリアの『旅客機』か! 船なら数ヶ月かかる海を、数時間で越えるというのか……!」
各地の港や駅では、アステリアの技術を羨望の眼差しで見つめる群衆が溢れていた。
一度でもアステリアの利便性(電灯、テレビ、高速移動)を知ってしまった人間は、もう二度と、暗く不便な旧世界には戻れない。
(……依存こそが、最強の支配だ。……彼らは自由を求めて民主化を選ぶのではない。アステリアの技術なしでは『生存すら困難』な体質に改造された結果、白旗を上げているに過ぎない)
リヒトは内心で、自らが作り上げたシステムの「中毒性」を冷徹に分析していた。
「……さて。腹を空かせた民衆の暴動が、そろそろ敵対国の城門を突き破る頃でしょうか。……カイル、次の段階だ。救済という名の『経営統合』の準備をしろ」
十一歳の大統領。その冷たい視線の先では、旧時代の王冠たちが、アステリアという巨大なシュレッダーにかけられる瞬間を待っていた。
もはや、平和は「話し合い」ではなく、圧倒的な「利便性と飢餓」によって強制的に構築されようとしていた。
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