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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第2章 学園編

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第36話 若き侯爵の摩天楼と王都の焦燥

本日3話目

【十一歳の侯爵:アーリーリタイアの代償】


王立ラザフォード学園の三年生に進級したリヒトは、十一歳にして正式に「アステリア侯爵」の爵位を継承した。


「……侯爵様、前当主(お父様)からの今月の活動費の請求書です。総額で五億アステリア・クレジット。王都のオペラ劇団を丸ごと買収し、私設美術館を三棟建設されるようです」


執務室でタブレット端末を操作するカイルが、呆れたように報告する。リヒトは、手元の電子ペンで淡々と決済印を押した。


(……構わん。父上には、早期退職アーリーリタイアの慰労金として十分な額だ。芸術への投資は領地のブランド価値を高める。それに、あれだけ金と趣味に没頭してくれれば、鬱陶しい『婚約者選び』の催促から逃れるための必要経費としては安いものだ)


リヒトは、窓の外に広がる「自領」の景色を見下ろした。

そこには、かつての石造りの街並みはない。鋼鉄とガラスで構成された数十階建ての摩天楼が林立し、その合間を舗装された道路が走り、内燃機関を積んだ自動車が行き交っている。

主要都市を結ぶ高速鉄道網は完成し、各家庭には電気が引かれ、ブラウン管テレビが最新のニュースを映し出していた。


アステリアは、魔法のない世界において、わずか数年で「二十世紀後半」の近代国家へと変貌を遂げたのだ。


【編入生たちの屈服と融和:情愛のバグ】


学園の応接室。リヒトの前に、かつて敵対していた二人の編入生――北方の姫フレイヤと、帝国の亡命貴族シオンが、深く頭を下げていた。


「……アステリア侯爵。どうか、我が連合公国への『エネルギー輸出停止』を解除してほしい……」


フレイヤは顔を真っ赤に染め、悔しさと情けなさで瞳に涙を浮かべていた。彼女の故郷は、アステリアの化石燃料と合成繊維に完全に依存しており、リヒトが供給を絞っただけで国家機能が麻痺する事態に陥っていた。


隣のシオンも、いつもの不敵な笑みは消え失せ、絞り出すような声で懇願する。

「……帝国の本国も、君の通信傍受網の前に全ての機密を抜かれた。完全に白旗だ。頼む、我々を君の傘下に加えてくれ」


(……やれやれ。競合他社が自らM&Aを申し出てくるとは。泣き落としなどという非合理的な交渉術、エリートリーマン時代なら一蹴するところだが)


リヒトは、涙をこぼすフレイヤを見て、不覚にも「可哀想だ」という感情を抱いた。かつて試みて失敗した「友達作り」の残滓が、彼の中の冷徹な経営判断をわずかに鈍らせたのだ。


「……顔を上げてください。アステリアの規格スタンダードを受け入れるなら、供給を再開しましょう。ただし、今後は『パートナー』として、相応の利益ベネフィットをもたらしてもらいますよ」


フレイヤとシオンは、安堵のあまりへたり込んだ。リヒトは彼らを「従属的な同盟者」として組み込むという、彼なりの妥協案を選択した。


【王都との逆転現象:敵対的買収の予感】


アステリアの異常な発展は、学園を卒業した優秀な人材をも次々と吸い寄せていた。

かつてリヒトを疎んでいた貴族の子弟たちも、圧倒的な給与水準と最先端の環境に抗えず、王宮への出仕を蹴ってアステリアへ就職する者が後を絶たなかった。


だが、この「人材と資本の一極集中」は、王家にとって看過できない事態を引き起こしていた。


「……リヒト。最近、父上や保守派の貴族たちが、あなたをひどく警戒しているわ」

第一王女エリザベートが、秘密の暗号化電話越しに忠告してきた。


「……王都の経済規模が、アステリアの一地方都市に抜かれたからですか?」


「それだけじゃない。あなたが保有する『空飛ぶ鉄の塊』や、地下の『未知のエネルギー施設』……。王都は今、あなたを『反逆者』として、討伐軍の編成すら検討し始めているのよ」


「……非効率な真似を。王都の騎士団が槍や剣で向かってきても、我が軍の機関銃陣地を前に五分で全滅するだけだというのに」


リヒトは受話器を置き、窓ガラスに映る十一歳の自分の顔を見つめた。


(……王都との決定的な対立。P/L(損益計算書)の観点から言えば、王国という古い組織を解体し、アステリアを新たな『中央政府』として上場させる時期が来たということか)


リヒトの背後で、カイルが静かに尋ねる。

「……侯爵。王都への対応はいかがなさいますか?」


「……『事業承継』の準備だ。全軍に第一種警戒態勢を通達しろ。相手が剣を抜く前に、空から『絶望』という名の経営方針をプレゼンしてやる」


十一歳のアステリア侯爵は、かつての主君に対し、冷酷な「敵対的買収」の決断を下した。

摩天楼の頂上で、彼の目はもはや一人の領主ではなく、世界を統べるCEOのものだった。

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