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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第2章 学園編

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第35話 友達という名の非合理的プロジェクト

本日2話目

【方針転換:プライベートの拡充】


誕生日パーティーの夜に抱いた「虚無感」。それをリヒトは、解決すべき『喫緊の課題クリティカル・イシュー』と定義した。


「……カイル。今後の実務は全てヨハンとニーナに委任する。私はこれより半月、学園生活における『対人コミュニケーションの最適化』にリソースを全振りする」


「は? 若君、原子力の濃縮工程はどうするんですか?」


自動化オートメーションしろ。私は……友達を、作らねばならないのだ」


こうして、九歳のリヒトによる前代未聞の「友情構築キャンペーン」が幕を開けた。


【第一段階:会食によるエンゲージメントの向上】


リヒトがまず着手したのは、学園の学食でのランチだった。これまでは個室で書類を読みながら済ませていたが、彼はあえて「1年5クラス(平民クラス)」のテーブルへと赴いた。


「……ミューラー君。隣、失礼してもいいかな?」


「え……!? アステリア侯爵子息!?」

トレイを持ったリヒトが横に座ると、レオンや平民の生徒たちは一斉に固まった。


「驚かなくていい。今日はビジネスの話ではないんだ。……君たちが食べているその『低コスト定食』、栄養バランスの観点から見て味はどうだい?」


リヒトは努めて穏やかに、前世の「部下をランチに誘う課長」のようなトーンで話しかけた。彼は懸命に、共通の話題を探した。流行のゲーム(この世界にはない)、スポーツの話題、あるいは最近の天候。


(……おかしいな。会話のキャッチボールが続かない。私が一言話すたびに、相手が『査定』されているような顔をするのはなぜだ?)


リヒトは丁寧に、相手の趣味を聞き出し、それに対して「それは市場規模が大きいね」や「将来のキャリアに役立つよ」といった、絶望的に可愛げのない相槌を打ち続けた。


【第二段階:非公式なレクリエーション】


午後の休み時間。リヒトは中庭でボール遊びをしている同級生たちに加わった。


「私も混ぜてくれないか。……チームの勝率を最大化するためのフォーメーションを提案できる」


「あ、いや……普通に遊ぶだけだから……」


全力でボールを追いかけ、泥にまみれてみた。九歳の子供らしい無邪気さを演出するために、あえて転んでみたりもした。だが、リヒトの脳内では常に「現在の心拍数、運動強度、および周囲の好感度指数の推移」がグラフ化されていた。


夕暮れ時、ソフィアやエドワードとも「仕事抜き」の茶会を開いた。

「ソフィア殿。……最近、何か困っていることはないか? 資金繰りや物流の問題以外で」


「えっ? ……ええと、そうね。飼っている猫が少し太り気味で……」


「なるほど、肥満管理か。アステリアの製薬部門に高繊維の低カロリーフードを開発させよう。三日以内に試作品を届ける」


「……リヒト様、そういうことじゃないのよ」

ソフィアは苦笑いし、エドワードは呆れたように紅茶を啜った。


キャンペーン開始から十五日が経過した。

リヒトは自室の机で、この半月の記録をまとめた「友情構築レポート」を前に、深い溜息をついた。


(……結論から言おう。失敗だ)


彼は、ペンを置いて背もたれに体を預けた。

この半月、彼は誰よりも多くの人と話し、誰よりも「普通」であろうとした。しかし、彼が歩み寄れば歩み寄るほど、周囲は彼を「優しい支配者」として崇め、あるいは「意図の読めない怪物」として遠ざけた。


「……結論。友達とは、『作る』ものではない。……そして、私は『友達』という概念を根本的に誤解していた」


リヒトの内心モノローグは、冷徹な分析へと戻っていく。


(私は、相手にメリットを与えることで関係を築こうとした。だが、それは『取引』だ。……あるいは、相手の欠点を補うことで信頼を得ようとした。だが、それは『マネジメント』だ。……友達とは、互いの『無能さ』や『無価値さ』を許容し合える、極めて不採算な関係のことではないのか?)


リヒトは、自分の鏡像を見つめた。 前世から続く「有能であらねばならない」という呪縛。効率、利益、成果。それらを全て剥ぎ取った後に残る、リヒト・フォン・アステリアという「九歳の子供」の実体は、あまりにも希薄だった。


「……ふ。原子力の計算よりも難しいな。……友達一人のコストが、戦艦一隻の維持費より高くつくとは」


リヒトは自嘲気味に笑い、カイルを呼んだ。


「……カイル。友達作りはやめだ。私は私のやり方で、世界と関わることにする。……『友達』がいないなら、世界を私の『家族』にするまでだ。……全人類がアステリアのシステムなしでは生きられないように。……それが、私の歪んだ愛のコミュニケーションだ」


リヒトの瞳に、いつもの冷徹な「経営者の光」が戻った。

だが、その光の奥底には、自分を対等に「リヒト」と呼んでくれる存在への、断ち切れない未練が、滓のように沈んでいた。


「……さて、仕事に戻るぞ。プロメテウス計画、最終段階クリティカル・フェーズだ」


九歳のリヒトは、友情という名の難解なパズルを「解けない」と判断し、強制的にシャットダウンした。彼は再び、孤独な玉座へと向かって歩き出す。


第36話:原子の火と新世界秩序へ続く

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