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『没落寸前の貴族に転生してしまった』〜現代知識という名の魔法で、中世を20世紀へ塗り替える合理的再興録〜  作者: tky
第2章 学園編

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第34話 無人の要塞と空白の社交

【午前:受注の嵐と世界戦略】


学園祭という名の「市場公開」から数週間。アステリア侯爵領には、王国全土、さらには隣国からも、新素材衣類や自動二輪、そして「電灯」の導入を求める注文が殺到していた。


「……若君、受注残が向こう三年の生産キャパシティを超えました。工場をさらに五棟増設します」

カイルからの報告を受けながら、リヒトは手元の世界地図に「×」印を書き込んでいた。


(……表面上の商売ビジネスは順調だ。だが、真の目的は『物流と情報の完全掌握』にある)


リヒトは秘密裏に、教国や帝国の管轄外にある無人島を次々と買収、あるいは「占有」していた。そこにはヨハンが設計した自動防衛システムを備えた軍事要塞が建設され、ガスタービン搭載の高速艦隊の補給基地として機能しつつある。


(……世界をアステリアの『社内ネットワーク』で繋ぐ。物理的な境界線など、通信と物流の前では意味をなさない)


【午後:組織のクリーンアップ】


学園内では、学園祭の妨害を企てたゼノス先輩ら上級生、および彼らと癒着していたグレイグ教授の「排除」が完了した。


「……グレイグ教授。あなたの銀行口座に、帝国からの不自然な送金記録が十数回。……これは『贈収賄』ではなく、『外患誘致罪』として処理されるべきデータですね?」


「……あ、アステリア……頼む、これだけは……!」


「ご安心を。……私は慈悲深い。あなたが自主的に『健康上の理由』で辞職し、地方の修道院へ永住を誓うなら、このデータは公開しません。……代わりに、私の息のかかった教育者を後任に据えさせていただきます」


老教授が震えながら辞表を書くのを冷徹に見届け、リヒトは生徒会室を後にした。

(……不採算部門(老害)のリストラ完了だ。これで二学期以降の学園運営は、よりスムーズになる)


【夜:誕生日パーティーと婚約の影】


その夜、リヒトの九歳の誕生日を祝うパーティーが侯爵邸で開かれた。 集まったのは、王族、高位貴族、そして各界の重鎮たちだ。


「リヒト、おめでとう。……それと、一つ大切な話がある」

父であるアステリア侯爵が、グラスを置きながら静かに切り出した。

「私もそろそろ、領地の経営を正式にお前に譲り、引退を考えている。……それに伴い、お前の『婚約者』を、そろそろ選定しておくべきだという声が上がっていてな」


リヒトは、心臓の鼓動がわずかに乱れるのを感じた。


「……父上、それについては極めて非合理的です。……現在、アステリアは原子力の開発という、人類史上最大のリスクを抱えたプロジェクトの過渡期にあります。……配偶者という『不確定な変数』を経営に持ち込むのは、リスクマネジメントの観点から推奨されません」


リヒトは、前世で使った「新規事業の多忙さを理由にした残業言い訳」の要領で、論理の防壁を築いた。


「……さらに、現段階で特定の家門と婚約を結ぶことは、他派閥とのパワーバランスを崩し、機会損失を招きます。……少なくとも、アステリアの時価総額が今の三倍になるまでは保留すべきです」


「……相変わらず、理屈の多い息子だな。だが、お前ももう九歳。……将来のパートナーは必要だぞ?」


父を説得し、喧騒から逃れるようにバルコニーに出たリヒトは、夜風に吹かれながらシャンパングラスを見つめた。


(……婚約者、か。……エリザベートは強力な政治的盾スポンサーだ。セシリアは有能な投資家。ソフィアは資源サプライヤー。フレイヤは北方の外交窓口。エドワードは技術実証のテストパイロット……)


リヒトは、自分の周囲にいる人間を一人ずつプロファイリングしていった。

だが、そのリストのどこを辿っても、「ビジネスパートナー」以外の属性が見当たらない。


(……待て。……私は今日、誰から一番にお祝いの言葉をもらった? ……カイルからは『進捗報告』、ヨハンからは『実験結果』、ニーナからは『組成表』……)


リヒトは、前世のエリートサラリーマン時代、誕生日の夜にオフィスで一人、コンビニのケーキを食べながら翌朝の会議資料を作っていた記憶と、今の光景が重なった。


(……友達。……利害関係抜きで、ただそこにいるだけの存在。……九歳のリヒト・フォン・アステリアには、そんな非合理的な存在は一人もいないのか?)


眩いシャンデリアの光が溢れるホールでは、貴族たちが未来の利権を狙ってリヒトを見つめている。

彼を「一人の少年」として見る目は、どこにもなかった。


(……効率の極致を目指した結果、プライベート(私生活)の資産がゼロ……か。……皮肉なものだな)


リヒトは、自嘲気味に笑い、飲みかけのグラスを置いた。

世界をアステリアという色に塗り替えていく中で、彼自身の内面には、どんな高性能エンジンでも埋められない「虚無」という名の空白が、じわりと広がり始めていた。


第35話:冷徹な経営者と孤独な少年へ続く

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