第32話 エネルギー革命と傲慢な先輩
本日3話目
【上級生の洗礼:2年1組の傲慢】
学園祭の予算申請のため、リヒトは生徒会室を訪れた。そこで待ち構えていたのは、2年1組のトップにして生徒会副会長、ゼノス・フォン・グランバニア公爵令息だった。
「……1年のアステリアか。聞きしに勝る横柄なガキだな」
ゼノスは、リヒトの提出した予算書を指先で弾いた。
「1クラスの予算が、昨年の三倍? 却下だ。伝統あるラザフォードの祭りに、アステリアの『怪しい機械』を持ち込むなど、品位に欠ける」
「……品位、ですか。ゼノス先輩」
リヒトは冷徹なエリートリーマンの目で、ゼノスの着ている上質なシルクの服をスキャンした。
「その服の染料、我がアステリア製の合成染料に切り替えれば、コストは十分の一、彩度は二倍になります。……品位を語る前に、まずはご自分の『経費削減』を考えられたらどうです?」
「貴様……! 先輩に向かって何という不遜な!」
「事実を述べているだけです。……学園祭当日、私のブースがどれほどの利益を生むか。……精々、特等席で指を咥えて見ていてください。投資の機会を逃したことを、後悔させて差し上げますよ」
リヒトは立ち去り際、ゼノスの背後に漂う数人の上級生たちが、物理的な妨害を唆し合っているのを「音声傍受(超小型マイク)」で記録し、カイルへの転送を済ませた。
【学園祭の準備状況:各クラスの動向】
学園内は、学園祭に向けて各クラスが独自の「領地」を形成しつつあった。
1年2組(保守派貴族):巨大な木製の「聖騎士像」を建造中。リヒトから見れば、構造計算の甘い倒壊リスクの塊だ。
1年5クラス(平民トップ・レオン派):リヒトに対抗し、独自に「蒸気機関の小型化」を模索。レオンは連日、学園の図書室に籠り、リヒトの論文を読み解こうと必死になっている。
「……レオン君。方向性は悪くないが、ボイラーの圧力弁に欠陥がある。……爆発して死ぬ前に、私に頭を下げに来ればいいものを」
リヒトは廊下を歩きながら、5クラスの作業場から漏れる「異音」を聞き分け、冷ややかに独りごちた。
【アステリア領:ガスタービンと火力の咆哮】
その頃、アステリア領の広大な軍事要塞「アイアン・ゲート」では、ヨハンとニーナが人類の歴史を数世紀分飛び越える実験を成功させていた。
「若君! 報告です! ガスタービンエンジンの初号機が安定稼働に入りました!」
ヨハンの興奮した通信が、リヒトの耳に届く。
ピストン運動を介さない回転運動の暴力。それは、レシプロエンジンの限界を突破する革命だった。
アステリアの造船所では、巨大なタービンを搭載した「第二世代戦艦」の建造が始まり、飛行機はプロペラの限界速度を超えようとしていた。
さらには、要塞の中心に巨大な煙突が聳え立つ。
「火力発電所」の完成だ。
アステリア領の全家庭に電線が引かれ、夜という概念が物理的に抹消されつつあった。
【原子への到達:リヒトの狂気】
だが、リヒトの欲望は止まらない。
彼は要塞の最深部、鉛の板で覆われた秘密の地下室で、ニーナが精製した「重い石」の塊を見つめていた。
(……火力発電は、資源の枯渇と環境負荷という不採算要素を抱えている。……真のエネルギー自給自足、および『究極の抑止力』には、原子の力が必要だ)
リヒトは前世で、エネルギー関連のメガバンクの査定を担当したことがある。ウランの濃縮、核分裂の連鎖反応、冷却システムの設計……。
現代知識という名の「禁忌」を、リヒトは震える手で図面に書き起こしていく。
(……この世界に魔法はない。ならば、私はこの『太陽の火』を飼い慣らす。……これさえあれば、帝国も教国も、アステリアという巨大企業の『永続的な顧客』にすぎなくなる)
「……ニーナ、次の段階へ移行する。……コードネームは『プロメテウス』。……アステリアの光で、世界の闇を焼き払う準備をしろ」
リヒトの八歳の二学期。学園での「ごっこ遊び」の裏で、彼は人類を滅ぼし、同時に救うこともできる「究極のエネルギー」に手をかけようとしていた。
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