第31話 合理のランウェイと北の冷笑
本日2話目
「……1年1組の出し物は『アステリア・次世代ライフスタイル・コレクション』だ。夏季休暇に開発した新素材衣類、および小型自動二輪のデモンストレーションを行う。これは学園祭ではない。アステリア社の『新製品ローンチ(発表会)』だ」
第31話:市場の開拓と平民の野心
【学園祭の企画立案:リヒトの戦略】
二学期が本格始動し、学園は秋の「ラザフォード学園祭」の準備期間に突入した。各クラスが伝統的な出し物を検討する中、1年1組の教室内ではリヒトが黒板に巨大な収益予測チャートを書き殴っていた。
「……まず、各クラスの出し物が確定した。リストを共有する」
1年2組(保守派貴族):伝統演劇『建国聖騎士物語』。
1年3組・4組(貴族):高級喫茶および騎士道模擬試合。
1年5〜8組(平民):数学パズル、工学模型展示、および低コスト軽食販売。
「……退屈だな」
リヒトは万年筆を回す。
「2組から4組までは『過去の遺産』にすがっているだけだ。そして平民クラスは『実技の証明』に必死すぎる。顧客(来場者)が求めているのは、そんな教科書の延長線ではない。……体験と、未来だ」
「……で、リヒト様。我々1組は何をやるんだ?」
エドワードが腕を組んで尋ねる。
「『アステリア・次世代ライフスタイル・コレクション』だ。夏季休暇に研究した新素材の衣類、そしてヨハンが開発した小型自動二輪のデモンストレーションを行う。これは学園祭ではない。アステリア社の『新製品ローンチ(発表会)』だ」
リヒトの宣言に、教室が静まり返る。だが、その静寂を破ったのは鋭い冷笑だった。
「……反吐が出るな、アステリア侯爵子息」
編入生のフレイヤ・フォン・ノースランドが、机に足を投げ出したまま言い放った。 「貴様の『ライフスタイル』とやらは、鋼鉄の排気音と油の匂いしかしない。北の海を汚し、伝統的なクジラ漁を壊す機械の宣伝を、なぜ私たちが手伝わねばならない?」
「……フレイヤ殿、感情論はコストの無駄です。私の技術は、あなたの故郷に『凍えない冬』と『飢えない食卓』を提供できる。それは伝統よりも優先されるべき利益だ」
「利益、利益と……。貴様の血は、その万年筆のインクと同じ色をしているのではないか?」
フレイヤの敵意、そして沈黙を守るシオンの不気味な視線。リヒトは、この「社内派閥の不一致」を、後日のプレゼンで叩き潰すと心に決めた。
【平民クラスの挑戦状:レオンの野心】
放課後、リヒトが資料室へ向かおうと廊下を歩いていると、一人の少年に呼び止められた。
5クラス(平民トップクラス)の首席、レオン・ミューラーだ。
「……アステリア侯爵子息。いや、リヒト・フォン・アステリア。君が1組の独裁者か」
レオンは、平民向けの簡素な制服を端正に着こなし、鋭い知性を宿した瞳でリヒトを見据えた。
「君の持ち込んだ『計算機』や『新素材』には驚かされた。だが、道具がどれほど進歩しても、それを運用する『頭脳』に貴賤はない。……学園祭の出し物、僕たち5クラスが君を上回る。売上、集客、そして技術的評価。全てにおいてだ」
(……レオン・ミューラー。実家はしがない職人ギルドだが、独学でアステリア式の複式簿記をマスターした秀才か。……いい目だ。彼のような『飢えた優秀な人材』こそ、我が社のミドルマネジメントに欲しい)
「……いいでしょう。もし私に勝てたら、君をアステリア中央研究所の『主任研究員』として、今のギルドの年収の十倍で雇用してあげますよ。……負ければ、君は私の軍師として一生飼い殺しですがね」
「……言ってくれる。受けて立つよ、侯爵様」
レオンは不敵に笑い、背を向けた。
(……競合他社の出現は、市場の活性化に繋がる。……彼にはせいぜい、私を本気にさせる程度の努力を期待しよう)
【水面下の技術開発:軍拡とファッションの融合】
学園の地下ラボでは、ヨハンとニーナ、そして光学の天才ルナが、リヒトの指示を受けて最終調整に入っていた。
「若君! 舞台用の『アーク灯』の安定化に成功しました! これで夜間のランウェイを太陽のように照らせます!」
ヨハンが、眩い光を放つ投光器を誇らしげに見せる。
「ニーナ。モデルが着用するスポーツウェアの『発色』はどうだ?」
「……新開発の合成染料で、これまでにない鮮やかな『アステリア・ブルー』を再現しました。……既存の植物染料では、絶対に真似できない輝きです」
リヒトは、手元の図面を確認する。
1年1組のファッションショー。それは、バレンシア公爵家のエドワードを「モデル」として使い、軍事転用可能な「高機能ウェア」を貴族たちに売り込むための、巧妙な武器見本市でもある。
「……さて。保守派の教師や上級生たちが、私の成功を指を咥えて見ているとは思えませんが……」
リヒトは、カイルから届けられた「上級生派閥の不穏な動き」に関する報告書に目を通した。
旧時代の権威を盾にする上級生たちが、アステリアのブースを物理的に妨害する計画を立てているという。
「……妨害、結構。……それも含めて、絶好の『技術実証』の場にして差し上げましょう」
リヒトの瞳には、かつて数々の難プロジェクトを成功させてきたエリートサラリーマンの冷徹な闘志が宿っていた。
学園祭という名のビジネスバトルが、今まさに火蓋を切ろうとしていた。
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