第30話 牙を剥く特権階級と異常な編入
【九月:選別された10人の座】
王立ラザフォード学園の二学期は、掲示板に張り出された「確定名簿」を巡る怒号から始まった。
今年の1学年は総勢150名。成績上位から「1〜4クラス(貴族)」と「5〜8クラス(平民)」に厳格に分離されているが、最上位である『1年1組』の定員はわずか10名。
その10名の枠から、一学期の成績不振を理由に2名の貴族が脱落し、代わりに「公国からの編入生」と「帝国の亡命貴族」が滑り込んだのだ。
「……ふざけるな! なぜ私が、2クラス(格下)に落ちなければならないのだ!」
教室の入口で、一学期まで1クラスにいたヴィクトール子爵令息が、顔を真っ赤にして叫んでいた。その隣では、同じく脱落したアンジェラ男爵令嬢が、憎しみのこもった目でリヒトを睨みつけている。
(……非効率な感情論だ。一学期の期末、彼らはアステリア製の『計算尺』の使用を『騎士の誇りに反する』と拒み、単純な算術ミスで自滅した。……ただの自己責任(自業自得)だろうに)
リヒトは冷たく彼らを一瞥し、二学期を共に過ごす「10人の取締役」を精査した。
【1年1組:二学期確定メンバー】
リヒト・フォン・アステリア:CEO。学園の構造改革を狙う。
エドワード・フォン・バレンシア:公爵家。リヒトの技術に魅せられた「武力担当」。
ソフィア・ド・ランカスター:辺境伯令嬢。資源利権を握る「戦略的パートナー」。
マルクス・フォン・ハイネ:伯爵家。冷静沈着な秀才。
カトリーヌ・ド・ヴァロワ:子爵家。社交界の情報通。
ブルーノ・フォン・シュミット:男爵家。工学に深い理解を示す。
ギルバート・フォン・ライデン:伯爵家。法学に強く、学則の抜け穴を探すのが得意。
エレナ・ド・モーリス:侯爵家。伝統を重んじるが、リヒトの経済力には一目置いている。
――そして、問題の「定員を奪った」編入生。
フレイヤ・フォン・ノースランド:北方の海洋公国第一公女。リヒトの戦艦を「海を汚す鉄屑」と呼ぶ。
シオン・アズナブル:帝国からの亡命貴族。リヒトが極秘に開発した「暗号理論」を独り言で解いてみせた謎の少年。
(……やはり身辺調査を最優先させるべきだな)
リヒトは警戒心を強めた。
【教師陣との舌戦:旧態依然とした壁】
「……リヒト・フォン・アステリア。君が学園に持ち込んだ『アステリア式計算機』の寄贈は受理されたが、授業での使用は当面禁止とする」
教壇に立つのは、保守派の重鎮であるグレイグ教授だ。彼は帝国のスパイとも噂される上級生派閥の顧問でもある。
「……理由を伺っても? 教授。計算の高速化は、思考の時間を最大化するための合理的な投資ですが」
「伝統だよ、アステリア侯爵子息! 我々貴族は、機械の奴隷ではない! 自分の指と頭で苦難を乗り越えてこそ、民を導く高潔さが宿るのだ!」
グレイグの言葉に、2クラスへ落ちたヴィクトールたちが拍手を送る。リヒトは、前世で「IT導入を拒むアナログ派の老害役員」と対峙した時の記憶を呼び起こし、不敵に笑った。
「……なるほど。では教授は、王都へ来る際も馬車を使わず、自らの足で歩いて来られたのですね? 道具の奴隷にならないために」
「な……! 何を馬鹿なことを!」
「馬車は移動を効率化する『道具』であり、計算機は思考を効率化する『道具』です。道具の進化を拒むのは、進化を止めた絶滅種のすること。……教授、あなたが守っているのは伝統ではなく、自分の理解を超える技術への『恐怖』ではありませんか?」
教室に冷たい沈黙が流れる。グレイグ教授は顔を痙攣させ、手に持った出席簿を震わせた。
「……二学期の評価は厳しくさせてもらうぞ、侯爵子息。……君のような異分子が、この神聖な学園を汚すのは許さん」
「……どうぞ。私の評価を左右するのは、あなたの感情ではなく、私が出す『結果(利益)』ですから」
リヒトは窓の外、校門の向こうで待機するカイルやヨハンたちの影を見た。
学園の外では最新の「軍拡」が進み、中では「旧勢力」との泥沼の権力闘争。
八歳のリヒトの二学期は、これまでにない「不採算要素(敵)」の増大と共に、波乱の幕を開けた。
(……さて。学園祭という名の『市場公開』までに、この老害どもをどうやってリストラしてやるか)
第31話:学園祭プロジェクト始動へ続く
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