第28話 夏期休暇と布地のリストラ
本日3話目
【一学期終業:圧倒的なスコア】
王立ラザフォード学園の掲示板前。一学期の成績席次が発表されると、周囲は静まり返った。
「……全科目、満点? しかも記述回答が、既存の教科書を論破しているだと?」
最上段に刻まれた名は、『リヒト・フォン・アステリア』。
数学では複素数を用いた計算を、歴史では経済統計に基づいた分析を展開した彼の回答は、教師たちの理解を遥かに超えていた。
「……リヒト様。一部の教師や上級生が、採点ミス……あるいは不正を疑って署名活動を始めたようです」
カイルが呆れたように報告する。
「非効率な嫉妬だな。……カイル、不満を持っている教師の『裏帳簿』と、上級生の『交友関係の弱み』をリストアップしておけ。二学期の始業までに、彼らのキャリアをリセット(解雇)する準備を整える」
リヒトは一瞥もせず、そのままクラスの談話室へと向かった。
【学園祭の企画:ニッチ市場の開拓】
談話室では、秋の学園祭に向けた会議が紛糾していた。
「……やはり、伝統的な演劇か、騎士道の模擬戦ではないか?」
騎士道部を叩き潰され、意気消沈していたエドワード派の生徒が弱々しく提案する。
「却下だ。そんな収益性の低いイベントに私の時間は割けない」
リヒトは、自作の万年筆で黒板に『アステリア・ファッションショー』と大書した。
「……ファッション、ですか?」
ソフィアが目を輝かせる。
「ええ。この世界の衣類は重厚長大に過ぎる。……機能性と審美性を両立させた『新素材』の発表会を、学園祭のメインイベントに据える。……モデルは、君たちにお願いすることになるが」
エリートリーマン時代、アパレル産業のコンサルティング(融資提案)も手掛けていたリヒトにとって、流行を創り出すのは造作もないことだった。
【夏季休暇:アステリア領でのオフサイト・ミーティング】
そして、待ちに待った夏季休暇が始まった。
リヒトは、エリザベート王女、セシリア、ソフィア、そして「再教育」の名目で同行させたエドワードを、アステリア領のプライベートビーチへと招待した。
「……さて。バカンス(休暇)は、次のプロジェクトに向けた重要なインプットの時間だ。……ヨハン、ニーナ。準備はいいか」
「はい、若君! 新開発の『合成繊維(ナイロン系)』による試作が完了しました!」
ヨハンが、防水加工を施した特殊な布地を差し出す。
リヒトが前世の記憶から設計したのは、この世界には存在しない「水着」だった。
【海水浴:プロダクト・デモンストレーション】
翌日。アステリアの青い海に、衝撃が走った。
これまでの「全身を覆う重苦しい水浴び着」ではなく、肌の露出を最適化し、速乾性に優れた最新式の水着を纏ったヒロインたちが現れたのだ。
「……リヒト。この『ビキニ』という設計、少し……いえ、かなり効率的すぎないかしら?」
エリザベートが、赤を基調とした大胆なデザインの水着を気にしながら頬を染める。
「経済的(布地の節約)かつ、流体力学に基づいた設計です、殿下」
リヒトは無表情を装いながらも、内心で「これは売れる」と確信していた。
「……ふふ、リヒト様。教国でこのデザインを流行らせたら、教皇庁がひっくり返るわね。……独占販売権は、私のものよ?」
セシリアは、黒の洗練されたワンピース水着で大人の色香を漂わせ、すでにビジネスの皮算用を始めていた。
一方で、エドワードは最新型のシュノーケルとフィンを装備させられ、リヒトの指示で「海底の資源調査(強制労働)」に従事していた。
「……リヒト! 貴様は騎士を海女か何かに変えるつもりか!」
「機動力を活かした潜水調査です。……文句を言う暇があるなら、その岩場のサンプルを回収してください。……それが終われば、次は冷えた炭酸飲料のマーケティング調査を手伝ってもらいます」
太陽の下、リヒトは冷たいラムネ(炭酸ガス充填済み)を飲みながら、砂浜に広げた海図と図面を眺めていた。
(……夏休みの間に、このビーチを一大リゾート地としてブランディングする。……そして冬までには、教国の金と帝国の情報を、この波間から全て回収してやる)
八歳のリヒトの夏は、遊び(バカンス)という名の、過酷な「事業拡大」の季節だった。
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